一人の季節Ⅵ

 灯真はすぐに洗面所で顔を洗い、台所で一緒に二人で食事をした。雨が降る朝は、冷たくて気温がいつもより低い。

 食べ終わると歯を磨き、服を着替えるとランドセルに教科書やノート、体操服を入れるとそれを背負って、靴を履き、傘を持った。

「忘れ物はないの?」

 美咲は、忘れ物が本当に無いのか灯真に訊く。

「ないよ。じゃあ、行ってきます!」

「いってらっしゃい‼ 車に気をつけるのよ!」

 灯真の後姿を見送った後、美咲は扉を閉めた。

 傘に落ちる雨粒が音を出して、綺麗にリズムが合う。

 街路樹を曲がると通学路に出る。一面に田んぼが広がっており、同じ学校の生徒たちが雨の中、傘をさして歩いていく姿があった。灯真もそれに混ざり、通学路を歩く。小学校の近くにはこの街で一番でかい弘法大師の銅像が立っており、この街から洪水や台風をなどの水の災害を守ってくれているという話が代々伝えられている。

 学校の校門をくぐり、校庭の隅の道を歩く。鉄棒、タイヤ橋、登り棒、雲梯が近くに設置してあり、晴れの日や体育の時に使われることが多い。

 灯真は、学校の靴箱で靴を脱いでシューズに履き替えた。


     ×     ×     ×


「へー、灯真様にそんな過去があったんですね……」

 桜の木の下でシートを敷き、花見をしながら雪菜は意外だと思っていた。

「ああ、まあ、あの時は将気も出会ってなかったし、それに……この話は誰にもしたことが無かったんだ」

 灯真は、遠い目をしながら桜の気を見る。

「俺はお前と出会ったのはまだ先だしな。それに名前は聞いたことはあるが、面識が無かったんだよな」

「灯真、それでなんでお前が、人と接することができるようになったんだ? それなら、この先もずっと一人でもよかっただろ?」

 朧は、おにぎりを食べながら灯真に訊く。

「まあ、その頃はそれでもよかったんだけどな……」


     ×     ×     ×


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