一人の季節Ⅴ
朝食を作りながら大きな欠伸が出る。
小学生の子を持つ母親にとっては、これが日常的な事だろう。
「そろそろ、起こさないと……。今日は雨だから早く学校に通わせないといけないわ」
美咲は独り言を言いながら、手を動かす。
台所に置いてある小型のテレビからは今日の天気予報が発表されていた。
『今日の九州地方は北部、曇りのち雨、南部は一日雨でしょう。通勤・通学、お出かけになる際は、傘を忘れずに……』
そう言い終えると、三秒後には六時の合図が鳴った。そして、今朝はいたニュースの内容に変わる。
「六時か……。後十分後に起こせば間に合うわね」
美咲は出来た料理から皿に載せて、食卓に並べる。
すると、台所のガラス張りの扉が横にスライドされて開いた。
灯真が、目をこすりながら眠そうに小さな足をゆっくりと動かしながら起きてきた。
「おはよう……」
小さな声で挨拶をして来る。
「あら、おはよう。どうしたの? 起きてくるのが早いじゃない……。うーん、分かんない」
「分かんないって……。でも丁度良かったわ。顔を洗ってきなさい。朝ご飯がもうすぐできるからね」
美咲はすぐに水で手を洗いタオルを吹いた後、しゃがんで灯真の両頬を触った。
「冷たい! ママ、何するの‼」
灯真が手を振りほどいて、後ろに下がる。
「でも、目は覚めたでしょ?」
「そうだけど……」
灯真は頬を自分の手で必死に温めようとする。
「ほら、行ってきなさい」
美咲がパンッ、と両手を叩いて音を鳴らすと微笑み立ち上がった。
灯真は頷いて洗面所に向かう。
外を見ると、雨が降っている。
「…………」
黙ったまま窓から外を見つめる。雨に濡れる花や葉がいつもよりなぜか綺麗に見えた。近くには、カタツムリやカエルがいる。家の塀の上には、猫が木の下で雨宿りをしていた。
「灯真、どうしたの?」
美咲が声をかけてくる。
「何でもない。すぐに行く‼」
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