一人の季節Ⅳ

「はぁ……」

 そう溜息を洩らすと、目をつぶった。

 確かに美咲はいい母親だ。だから、彼女の笑顔を傷つけたくない。学校でのことや自分の事、愛する家族を心配させたくないのだ。だけど、彼女はとっくに気づいているだろう

 そう考えているうちに眠気が走り、気づいたころには寝落ちしていた。

「と……とも……灯真……」

 声が聞こえる。

 深く暗い海の中で声が聞こえた。誰もいない真っ暗な暗闇の中、一点の光が見えた。

 目を開くと、そこには美咲の顔が目の前にあった。外は暗くなっていた。冷たい風が部屋に入ってくる。

「こんな格好で寝ちゃダメでしょ! 風邪でも引いたらどうするの?」

 美咲は額に手を当てて、溜息をついた。

「ごめん……」

「いいのよ。それよりもご飯が出来たから一緒に食事にしましょうか」

 手を合わせて微笑んでくれる。

「うん。ママ、パパは今日も帰ってこないの?」

「そうね。今日も忙しくて帰ってこないらしいの。パパもママや灯真が生きていくために頑張っているのよ。今度帰ってきたらお礼でも言いましょうね」

「…………」

 灯真は小さく頷く。

 その後、一緒に食事をして、一緒にお風呂に入り、そして、今日は一緒に美咲と一緒に寝た。母親の温もりに安心したのかぐっすり深い眠りについた。

「本当にこの子は……。母親もそうだったように子供の同じような性格に似てしまうのね。優しすぎて、近づくと壊れてしまう事を知っている。姉さんと本当に同じ……。この子の心の中に入っていけるのは誰もいない。そう、私も今でも公開しているわ」

 美咲は灯真の髪を撫でながら、小さな電灯の光を消した。


 翌日————

 いつも通りの朝、外は雨雲が広がっており、小降りになっている。

 雨の日というのは心が沈むことが多い。悲しい天気である。そんな朝早くから美咲は起きて、朝食の準備に取り掛かる。

 灯真は、そのまま寝ている。一度、夜中にトイレに起きてから二度寝するのに大変だったのだ。

「ふわぁあああああ……」

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