一人の季節Ⅱ

 そんな日の学校の昼休み時————


「はぁ、これからどんどん暑い夏が来るんだな……」

 灯真とうまは窓の外で降り続いている雨を見つめながらそう呟いた。

「まあ、こんな雨だとそろそろ桜の花びらも落ちてくる頃だろうな……」

「そうだな……。なんか、雨の日だと気持ちのモヤモヤ感があってそれが何なのか、分からないよな」

「灯真様、そんなに雨の日ってお嫌いなのですか?」

 雪菜ゆきなは水筒に入ったお茶をコップに注いで灯真の前に置く。

「今は様じゃないだろ? まあ、この季節の雨は少し嫌だな」

「まあ、お前にとってはそうだっただろうな……。覚えているだろ? あの日の事……」

「ああ、あの日か……。そう言えばあの時もこんな悲しくて静かな雨だったな」

 灯真は、自分の重く思い出したくない過去をこの雨で流したいと思った。


     ×     ×     ×


 五年前————

 この季節も未だに桜の花が咲いていた。

 小学校高学年であり、五年生になった灯真は未だに親友と呼べる友達を作っていなかった。

 周りとは話すこともあるが、そこまで親しいというわけではなかった。

 昔から妖の視える灯真は、一人周りから浮いた存在であり、いつもグループ活動するときは余ったところに入り、なんとなく一緒に活動していた。

 そのため、小学校四年間、教室の隅にいる座敷童みたいなポジションが灯真だった。

「また、一年が始まるのか……」

 そう呟いて、教室の後ろの席の窓に座って校庭で遊ぶ同学年の生徒たちを上から眺めていた。

 昼休みになると、ほとんどの生徒が教室から姿を消し、外でサッカーや警泥、ドッヂボールをしていた。隣の校舎からは、ピアノやバイオリンの音が聞こえくる。

 そんな灯真は、学校が三時頃に終わると、誰よりも早く教室を出て下校していた。


「あら、また早いわね。どうしたの? 友達と遊ばなくていいの?」

 家に帰ると台所で美咲が、夕食の準備をするために買ってきた食材を冷蔵庫に入れながら灯真に訊いた。

「いい。家で本を読んでいた方が楽しいから……」

 灯真は自分の部屋から持ってきた本を読み始めた。

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