雪解けてXV

灯真とうま様、何をしてくれているんですか! ああ、これで私が灯真様を独占できなくなる……」

 雪菜ゆきなは頭を抱えながらブツブツと呟いていた。

「ありゃ、灯真。もう、体は平気なの?」

 美咲みさきが薬と水をお盆の上に載せて持ってきた。

「母さん、心配かけてごめん……。もう、大丈夫だから。それと、お腹が空いた————」

「だと思って、もう準備は出来ているわよ。雪菜ちゃんもおぼろちゃんも一緒に夕食にしましょうか。二人とも灯真をよろしくね」

 床に持ってきたお盆を置くと、部屋から立ち去ろうとする。

 だが、灯真の顔は引きずっていた。

「え、ちょっと待って……。母さん、朧の事が見えるの?」

 恐る恐る尋ねる。

「あれ言ってなかったっけ? 私もあんたと同じ妖が見えるのよ」

「は、はぁあああああああああああ! そんなこと一言も言ってなかったんじゃないか!」

「だって、訊かれなかったから」

「マジかよ……」

 思わず、衝撃的な発表をされて、灯真溜息をついた。

 甘酸っぱい春が少しずつ消えていき、梅雨入りが近づいてきているこの季節————

 出会いと別れ、それが春の桜の花びらに乗って消えていく————

 そして、新たな一歩を誰もが踏み出す季節なのだ————

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