~災の運命日~


 四月二十一日。木曜日。

 世界が真っ暗になったあの日、僕の世界はガラリと変わった。

 前の週に怯えて帰ってきたきり、家はおろか自分の部屋からすらも出られなくなってしまった姉さんが心配で、本当は早く帰りたかった。それでも、すっかり弱りきった姉さんのことをひとまず後回しにしたのは、好奇心こうきしん旺盛おうせいで向こう見ずな双子の方も放っておけなかったからだ。

 その日、学校が終わった僕は、そのまままっすぐ家には帰らず、永未と夢香エミユメに付いていくがままに品川しながわへと出向いていた。

 品川で行われているという、双子たちの好きなアニメのイベントへ行くと、学校わりに彼女たちが急に言い出したのだ。翌々日の土曜日に親に連れて行ってもらえばいい、と僕は言ったが、なんでもそのイベントは明日の金曜日が最終日だから、そういうわけにもいかないらしい。しかも、一日の開催かいさい時間は午後五時半までだという。

 方向ほうこう音痴おんちではないにしても、色々と抜けている二人が複雑な東京の交通機関の乗り継ぎが出来るとは思わないこともあって、ボクも同行することにしたのだ。

 六年生の授業は、基本的に六時間目まである。けれど、五年生のときの時間割と同じで、木曜日だけは五時間目で終わるのだ。そして、それがいけなかった。

 品川までの電車を調べたところ、授業終わりから乗る氷川ひかわだい駅から、副都心ふくとしんせんの快速列車と山手やまのてせんの快速にうまく繋がる時間だった。一時間に一本の、東京メトロの快速列車に、間に合ってしまう時間だった。

 無事にイベントの場所に着いた僕たちは、品川からそう遠くない魚市場しじょうで発生した大型ディザイアーの襲撃に、居合いあわせてしまったのだ。

 トイレにこもっていた双子は、初めの避難誘導から遅れてしまう。それに気付いた僕は避難する人たちの流れから外れて、半分麻痺している体を引きずりエミユメたちが残った施設に戻る。けれど、僕が戻ったちょうどその時、彼女たちには魔法少女の適性てきせいがあると、精霊せいれいのヤツらが二人と契約したところだった。

 永未えいみ夢香ゆめか。二人をあの怪物のところへ行かせてはいけない。

 僕たちが生まれたときにはもう日常的な存在だった、影の怪物ディザイアー。その中でも明らかに異常だと分かる巨大さ。イベント会場のある施設に入ろうとした直前に、僕ははっきりと見た。ベテランらしい魔法少女が何人も、手も足も出ずに蹴散けちらされるさまを。

 半分言うことを聞かない体で、教科書で見た和服っぽい姿魔法少女になった彼女たちをどう止めるか、必死に考えた。考えに考えに考え抜いて、そして自身の無力をさとった。

 姉さんが引きこもるようになった時も悟ったはずだった。さらにもう一度、思い知らされることになるとは思わないだろう。

 どれだけ声を振りしぼっても、帰ってくる言葉は「「大丈夫やって! 五和夫いわおくんらのことはウチうちらが守るさかい!」」だった。

 左半身に文字通り足を引っ張られて床に手をく僕に、ぱから、ぱから、と近づいてきたそいつは、無表情に笑いかける。


「おっほほほほほ。おやおンや。至極、ほうじゅんンなっお不幸を、絶望ぜーつぼうされていっるおつらでっすンね。家族おもいな足手あっしでまといっさン」


 僕のパーカーのフードをつかみ上げるその笑い声に、二人の魔法少女が振り向いてくれたのは、良かったのか悪かったのか、僕は今になっても分からない。

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