6 ~帳の無少女~
それは丁度、
「お……ねがい、トモナ……! 私、を……弟の、
私の
やせ細った見た目以上に軽いお姉さんの体を抱えて、飛び出したマンションからほど近い運動公園。その中で嫌な気配を感じた。
大きな獣の暴れる気配を頼りに陸上広場へ辿り着く。そこに、見知った少年少女達が七人
それを目にした途端、既知の顔が五つに減ったのだ。
目の前に並ぶ人物の数は変わらない。
「うっそ……」
現場について早々、離れていてもギリギリ耳に届くミサキさんの推理を聞いても、にわかには信じられない。
けれどそれは、いつかルナちゃんの
あれは多分、
それぞれ
しかしこれで
そのとき、倒れた木々の上でこちらの様子を窺っていた、鳥っぽい巨大な影の怪物が動いた。
推察がディザイアーとシンクロでもしたのか、
「「「きゃあっっ!!!!」」」
微かに鳥型ディザイアーの初動を見納められたか、と思った瞬間、六人の少年少女達が散り散りに吹き飛ばされる。
その衝撃から
吹き飛ばされたミサキさん達は、存外、転げ飛ばされた程度のもので、彼女達を突き飛ばした衝撃の主は、影の怪物ではなかったのだ。
先程と同じ場所に、実際の衝撃の主たる彼女は立っていた。
「マジ……? 魔法……使って無いっしょ、コレ」
それは、かつて環状七号線でリサ先輩と共に魚ガエル型ディザイアーに吹き飛ばされた時以上の衝撃だったはずだ。それなのに、
つまりイワオくんや
転がったままのミサキさんの呟きが本当なら、彼女の素でのパワーは、魔法を使えずとも大型のディザイアー達と大立ち回りをしてみせるルナちゃんと同じくらいのものだろう。
渾身とも見て取れる一撃を放った鳥型リザイアーは、いとも
「アカンお姉ちゃん!! 逃げて!!」
「ちょヤバっ、エイミー!!」
影の巨鳥を中心にして、瞬く間に広がる微かにしか見えない白い膜が、
「お姉ちゃん!!」
「
彼女の周りに転がった中で、一番近い場所に留まった
「エイミー! ダイジョブ……いやなんで大丈夫なん?!」
彼女を除くこの場の誰もが、口を開け、目も見開いていた。
理由はミサキさんの驚きと同じだ。足元の芝生や、弾き飛ばされたディザイアーの周りに倒れた木々が白や
今の
しかし、
ひとまず『
彼女のそばに集まる、ミサキさんと
『彼女』はそこに居るのに、ルナちゃんが見当たらない。
そう、黒い和服ドレスの魔法少女の姿をしているのは、深輝ちゃんなのだ。
「えっ――と……み、ルナ、ちゃん? ……だよね」
凛々しくディザイアーを警戒する姿勢、公園の照明灯に煌めく
「その反応……やはり、トモナも今の私は、あの子として見えているのね……」
「あ、やっぱそれって
「ええ……
「は、は……辛辣ぅ」
分かりやすく苦々しい表情を見せるルナちゃん。そんな彼女の衣装はこれまで、多様な色の変化をさせてきた。けれど今は、光を全く寄せ付けない
頭上の都会の夜空と同じ
林の中でもがくディザイアーの様子を
魔力が”少ない”、ではなく、”無い”状態である以上は、魔法少女の形を
もしかしたら、
しかしそれは仕方がない。
戦う力を、身を守る
普段あの影の怪物と戦っていたルナちゃんからすれば、なおのことだろう。
気休めでもいい。
お腹の下辺りが、ギュッと締め付けられた気がした。
急に体が重くなる。
「ぁえ――?」
それどころか、軽かったはずの
「わっ! っちょ、ぷぎゃ!!」
「きゃっ」
「『ぷぎゃ』って、あなた……。――ってその
「あたた――へ?」
抱き上げていた
それに気付いてか否か、ルナちゃんの声に突き動かされるように、尻もちを着かせてしまった
その違和感の正体を、見下ろした自分の服の色を見て納得した。
「と、トモナ……? ごめ、ん、重かったよね」
突然
間違いない。変身が解けたのだ。
いや、それどころかこれは。
「ともなー、もしかしなくても、
「た……多、分……?」
「「なんで?」」
「まさか、あの怪物の影響でトモナも魔力が――!?」
「ううん。さっきの攻撃は受けてないよ」
同じタイミングで、似たような症状が起きたのだ。ルナちゃんがディザイアーの
もし欲圧の影響だとするなら、
ただ、一つだけ思い当たる、腰が
「こ、
「は…………? ポーチって……。え、ちょっと待って。まさか、それで魔法少女の
「ど、どうだろう……。魔法少女になってからは特権の格安で買えてたお薬で止めてたからよく分かんないのと、今それ以外に考えらんなくて……。み、ミサキさんっ」
「え? どゆこと。なんで今あーし振られたん? ……あー。えっと、もしかして女の子の――」
「わっわー!」
「――だと魔法少女になれない的な話?」
緊急事態とはいえ、イワオくんがいるこの場ではっきりとそれを口に出されると、
途中を
「んんー。っても、そんなんで変身できないとかみたいな話は聞いたことないけどな……。別に重そうとかってカンジでもないんでしょ。まぁ、そういうときの女の子は出動免除されたりはするけど、でもやむを得ないときとかはみんな普通に
「なんにせよ、ミキちゃんと
目下の問題に頭を悩ませる戦えない中高生組とは違い、
しかし対して、人類を長年
グルグルグル。とディザイアーは真っ黒なくちばしから
はばたかせる翼は力強く、
たちどころに突風が吹き荒れ、
きらめく一等星を背に、
くやしいが、幻想的な印象を受けた。
いけだかに羽を震わせる。
「にゃあ……! みにゃ――ミサキさん!」
「分かってる! 噛みまくりっしょ。あの
「ちょ、えー、あれは届かへんて……」
恐らくは、
「ど、どういうこと!? ミサキさん」
「
「「「!?!?」」」
それはダメだ。
なんとかしなくちゃいけない。けれど、百メートルは越えていそうな程までに高く飛んでいる鳥型ディザイアーには、仮に魔法が使えたとして、テリヤキの炎魔法でもギリギリ届きそうにない。
他の魔法少女が到着する様子も、情報もない。どうしたらいいのか。
そうこうしているうちに、鳥の大型ディザイアーの
こんなとき、リサ先輩なら、どうするのだろうか。あるいは
次々とベテランの魔法少女達が思い浮かんでしまう。
でも、今ここにいない人を頼っていては、強くはなれない。
「ど、どしたともなー。急に。恐怖でマゾにでも目覚めたん??」
魔法が使えなくて、変身すらもできない、
胸の奥のテリヤキに、鼻で笑われたような気がしたのだ。
自分で、自分達の力で、こんな状況を
そう思い、頭上で『
あの、メイデンさんの操る巨大ロボットは、忘れることなどできない凄まじさだった。凄いと言えば、初めてルナちゃんと一緒に戦った時の彼女も凄かった。
悪況の突破力だけで言うなら、
そこまで思い起こしたところで、頭の中でなにかがはじけた気がする。
視界の端には、
凄い。そう凄いのだ。強く魔力を込められたルナちゃんは、巨大ロボットは、どんなものでも打ち破ってしまいそうな
何かと何かが、繋がる。結びつく。
「ルナちゃん!」
「は、はい!?」
自分の手を見下ろす。学校のブレザーから伸ばすこの弱々しい手では、
この手を、
「お願いルナちゃん。力を貸して。
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