3 ~淡の桃少女~
「
空気を
衝撃が起きる直前、地震などが起きる前に動物たちが見せる動揺を
そして、画面に向かって折り
「ディザイアー、です」
ディザイアー。
その名前を耳にした瞬間、これまでも強く打ち付けていたのであろう私の胸の
しかし、あの影の化け物が起こしたにしては、今の衝撃はあまりにも《不自然すぎる》。
なんというのか、物理的に世界を
なのになぜか、助手少女・
あの日。
一年前のあの日、私と
強い緊張から解放されたばかりの左腕が無意識に
恐怖なのか怒りなのかは分からない。いや、恐らくは恐怖の方だ。あの化け物共が現れた時は、いつも涙が
「あ、あれ?! トモナーは!?」
自分が曖昧になりそうになる意識。
そこへ、先ほどとは違う
改めて覚めた視界でミサキの
普段から落着きが無いとはいえ、この数秒の間にどこへ消えたというのか。
「う、うぅ~ん。まああの子は
ミサキも辺りを見回し
「とりあえず、あーしはマホカンに連絡して状況を確認するからちみっこたちは早く避難しろし!」
「ミサキさん、それは私用の携帯では」
「え。あーっ、ほんとだガラケーじゃん!」
私たちの方へ振り向き、近くの避難所指定されているのであろう施設の方向を
「と、とりあえず行くっしょ
「えっ。ちょ……は、はい! すみません。私たちはこれで、失礼します。じきに、
普段はスローペースな話し方の
さしもの女子高生探偵でも、こうも不測の事態が重なれば分かりやすく動転するらしい。
そして彼女たちが去るのと同時に、私たちの携帯端末が、緊急警報の知らせをうるさく届ける。
ともかくとして、残された私たちは何ができるというわけでもなく、とりあえず
「あ、あれ? 双子たちもいない――」
混乱にバタついていたミサキのおかげで逆に冷静さを
私も慌てて振り向くが、
「ってあー! あの子たち。ミサキさんたちを追いかけて! ……どうして?」
「っ……! 仕方がありません、私たちも追いましょう……!」
「う、うん!」
あの姉妹が何を考えているのかは分からないが、連れ戻すにせよ一人ではどうしようもない。
双子が追いかける、恐らく
恐い。けれどもそれを押し殺して、今にも折れそうな足を
避難を行う人が次第に増えていく城北公園
「あなたたち、こんな所まで
後から付いてきた少女達を、やはりというか既に取り押さえているミサキ。その横に
林と言っても過言ではない園内に、ぽっかりと開いたトラック状の広場だ。そこに、巨大な影の化け物はいた。
早くに辿り着いた四人が向けているのであろう意識の先で、ディザイアーはうずくまり何かをしている。
「あんまじっとは見ない方がいいよ。野生かどっかから逃げてきたんかは分かんないけど、普段
先輩と二人で手ごろな太さの木の
私の隣で覗いていた
「捕食……って、ディザイアーは生き物とは違う存在なんじゃ……!」
「
ミサキは化け物を横目に収めながら、放せと言わんばかりに暴れる双子を抑え続ける。自称であれど探偵と名乗るだけあってか、見た目や喋り方からくる印象とは裏腹な対応力だ。
しかし前回、初対面の時にミサキは探偵
どこか信用し切れない彼女の横顔は、こんな状況下でも余裕ぶった雰囲気を表情へ宿している。
すると、私がそんなことを考えてすぐに、女子高生探偵の口元が引き
「ッッ!!
両腕に抱える
彼女の顔色を
「木が倒れるっしょ! すぐ
小枝や雑草に土といった自然が
私と反対側へかろうじて飛び退いた
大きく息を吸う。口は
慌ただしい感情が、一周して冷静にそれらの状況を認識している。口の片隅に張り付く髪の毛が
暖かかった日中の面影もない冷えた地面から離した、小刻みにしか言うことを聞かない手で髪を取り払おうとした視界の端で、それは揺らめいた。
木々の奥の影に紛れる化け物がこちらを振り向いたのだ。
そこで
いわゆる《かまいたち》というものだろうか。鳥の形をとった化け物がこちらの気配を感じ取ったのかどうかは分からないが、音の速さで私たちの命をも
女子高生探偵の声が
「ぁうっ」
いつもであれば湧き出すのであろう
そのとき、
情けなく小さな短い
何とか抑え込んでいたはずの感情が、
改めて感じ、確信した。母さんと、父さんを奪ったあの怪物と同じ異質さを
私は何もできない。無力なのだ。あの時と、同じように。
意識がブレる。
このまま、
「「起きてミキちゃん!」」
それを
小さな対の体は両脇から私を抱き上げる。
「えいみ……ゆめ、か……」
力に自信がある
私と違い何事もなくたどり着いた
双子たちは私をミサキに預けると、それぞれの手を取り合い
「ダイジョブ? ミキちー」
《ミキちー》。聞き慣れない単語だが、状況的に私のことだろうか。
その場に座り込む私の肩を支えてくれるミサキの声に、小さく
それにしても、いったいどこで私の名前を知ったのか。聞いたとしても恐らく、女子高生探偵だから、とでもはぐらかされるだろう。それとも、
正直、今にも意識が遠くなりそうな程に恐怖が自我を侵食してきている。そんな
「魔法、少女……。そういえば、国家魔法少女はまだ来ないのですか?」
「んー、ちょっち遅いんねー。……ってのも、どーもさいたまの方でもでっかいディザイアーが出たっぽいんよね」
「どうやら、この
つまり、この探偵魔法少女が戦えるのかどうか次第で、私たちの
そして、恐らくは――
「あともう
やはりと言うか崖っぷちだった。
そのタイミングを
もし威嚇を目的の一つとしてしていたのだとしたら、それは効果てきめんだった。
影の巨体の周りに
次に予想される確信めいた行動を、どうか思い過ごしであってくれと願うが、黄昏漂う空の面積は、涙が
焼け石に水、どころか
耳を
「ま……
「エミユメに、
見た目の印象にそぐわない高い声で放たれた、パステルピンクの少女の低い
それを認識して安心でもしたのか、私の意識は、記憶は、そこで
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