終章 ‐ これから

   ~明の暗少年~


 日曜日。

 着ているパーカーをぎ捨てたいほどに暑い日差しの下、いつものようにアキラに買い出してもらった買い物袋を持って、マンションを目指す。

 今日は昨日に続きヒドい暑さだから、買い物を頼んでいるアキラを長く外にいさせるわけにもいかない。だからいつもの受け取り場所である家の近くの小川から少し足をばして出向いたが、ここまで暑いと僕もあやうい。

 アキラがおこづかいで買ったという、半分に分けられるチューブ状アイスの片割れをくわえながら、フードの中でされる頭で考える。

 僕のことを探っているらしいエミユメたち。

 この間出会であった不思議な中学生『ともな』。

 どこか、みょうに馴染む空気をまとう彼女は多分、僕たちのことに、薄々かんづいている。

 僕の【目的】を邪魔するのならどうにかしないといけない。姉さんを守るために。

 彼女の声が、耳によみがえる。



あたし、あんまり頼りにならないかもだけど、頼ってくれたら、力いっぱいお姉さんを助けるから!』



 頭を振って、都合つごうのいい過去の声を追い払う。

 誰にも、頼るな。守るべきものは、僕の手で守る。

 空になり、くしゃくしゃにへこませたアイスチューブを右手で握りめる。

 家はもう目の前だ。

 改めて固く決意しながら見つめるマンション。その近くの公園の前を通り過ぎようとした時だった。

 それはほとんど勘のようなものだった。

 いやに覚えのある、空気。気配のようなものだろうか。

 それに引っ張られるように視線を向けた、遊具が二、三個あるくらいの公園。そこに、数人の男子と、一人の若い男が何かを囲んでいた。

 その男には、見覚えがあった。

 いや違う。そんな程度のものじゃない。

 あいつだ。

 どうしてこんなところに。

 二度と会いたくなくて、そして探していた男。


 ヤツだ。



 戻らなくちゃ。

 アキラが買ってきてくれた食材が暑さでいたんでしまう。

 激しい運動なんてしてないはずなのに、心臓がバクバクと胸を打ち鳴らす。

 そうだ、暑くて頭がどうにかなりそうだ。早く帰ってクーラーですずもう。

 そこで、元は黒かった金髪の頭がこちらに振られる。

 すんでの差で歩き出した。はずなのに、ヤツと、目が合った気がした。

 無理やり気付いていないフリをしながら、マンションへ入り込む。

 さっきよりも心臓の音がうるさい。


 やっと、見つけた!

 とうとう見つかった!


 姉さんを守らなくちゃ。


 姉さんには、僕しか――!



 ねえさんには――――

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