4 ~双の佳少女~
不幸や。
何がっていうワケやないけど、ウチらは、世間一般的には不幸な内や。
お母ちゃんを
なんでウチはお姉ちゃんみたいじゃないんか。なんでお姉ちゃんは、ウチみたいにマシな顔じゃなかったんか。
ことあるごとに、
幼稚園まで
変わらへんのは、
なんで。
なんでお姉ちゃんばっかりが、バカにされんとあかんのか。
ホンマ、お姉ちゃんの凄い所が分からんアンタらも――
不幸やで。
「だ、ダメぇ! そんなに激しくしないでぇっ!」
「「
五月二十一日。
お姉ちゃんと二人、ウチらは
夏かと間違えるくらい、うだるような暑い日差し。それが
さっきから、
「そ、それよりも。イワオくんの捜査は今日はしないの?」
頑固な
ミキちゃんにいたってはウチの首根っこを猫ちゃんみたいに
「そんなことよりも魔法少女やん」
「
「生って……」
「あなた達が頼んできていることを”そんなこと”と言うのなら、私達はもう協力しないわよ」
「「うっ……」」
ウチのえりから手を離し、言葉を選び
これは、例の【脅し】も効かない感じのヤツだ。
「ご、ごめんなさい!」
「マジメにやるから見捨てんといて!」
ウチらに背を向けるミキちゃん。ここで見放されてはどうしようもないウチらは、彼女の
「わーっ、伸びる伸びる。分かったから
ウチにしたことを棚に上げ、ミキちゃんは
振り向くミキちゃんの
そして、なぜか一緒に隣に座る
「……それで、今日も彼のことを調べるのは良いとして、一体どうするの」
「そ、それは……」
「
小さいため息の後、思ったよりも早く口を開いたミキちゃんの問い掛けに口ごもるウチの代わりに、お姉ちゃんが答える。
ウチも同じことを考えたけど、腕を組むミキちゃんの返答は、想像通りに厳しい内容だった。
「この一週間そればかりをしてきて、何か収穫でもあったかしら?」
「それ、は……その――」
「
「「…………」」
なんとか絞り出した唯一の成果も、ウチが口にするよりも先にあっさりと切り伏せられる。
日差しの暑さとは別に、
目の前のミキちゃんと目を合わせられず、同じく視線を逃がしたお姉ちゃんのそれとぶつかり、なんとなく気まずくなって反対の左側に向け返す。
すると、その視線の先の
「あ、あの~……」
ウチが
「お、お姉さんって今どうしてるのかな?」
「……誰のですか?」
「えっと、ほら。確か、イワオくんってお姉さんと一緒に暮らしてるん――だよね。お姉さんが居るなら、足が悪いイワオくんがお買い物に出なきゃなんないこと……って、ないじゃないかな? って……」
聞き返したミキちゃんとウチらに、アタフタと
「それはそうかもしれないけど、イワオくんのお姉さんが居なくなったから、
「でも
ウチらがパッと思い浮かんだ反論をコマリちゃんが投げかけるが、
「男の子がいらないもの……? ――あ。それは、彼のお母さんの――」
そこまで口にして、しかしミキちゃんはこの一週間でウチらが
「いえ……。イワオくんのお家は、ご両親はずっと前に海外に働きに行ったきり……。だから、
ミキちゃんの推理に、
そこで一瞬、今までモヤモヤしてた目の前が、ゆっくりと晴れていくような感じがした。
「今まではイワオくんに何か問題が起きて、異変が生じたという
ミキちゃんの厳しい意見はともかく、今の話が本当なら、取るべき選択肢はそう多くなくなってくる。
「とりあえず、一回、
お姉ちゃんの呟きに、ウチだけじゃなくコマリちゃんとミキちゃんもうなずいた。
これまですれ違っていた目的と目標が合わさったなら、あとは行動あるのみだ。
地面に座っていた
その時だった。
ウチらが居るベンチの近く。すぐそこの遊歩道を行く二人組の男の人たちが、たまたま歩き去ろうとしているところ。そこでその二人組の会話がウチらの耳に入ってきた。
「すっげ。そこのガキ見てみ、可愛いのが二人もいるぜ」
「ん? ほんとだ。ロリはキョーミないけどあれはいいな」
「だろ。つーかその隣ヤバくね」
「確かにあれはないな」
「あんな
「それな。つーかあんなのと付き合わされることになったら泣くわ。自腹切ってでも整形させたいな」
ニヤつく二つの視線の先は、ウチの右隣り。
無意識に着火する意識の中、四つの
それを見た瞬間、爆発した。
「――ふっザケんな!! お姉ちゃんがブスとかあんたらの目ぇ腐り落ちてんのか!!」
「は……!?」
「お姉ちゃんの見てくれに騙されてるアンタらの
「な、なにコイツ。おねえちゃん……?」
こいつらも、他のヤツらと同じで、お姉ちゃんを知らんでブジョクするんや!
流れ出る
「お姉ちゃんはあんたらごときが
どいつもこいつも、お姉ちゃんを顔で見る。
そんなのは、お姉ちゃんの”ホンマ”を隠すためにお母ちゃんがくれただけのモノなのに。
「
知らず知らずのうちに数歩勇み出していたウチの後ろから、
驚き見開いた目線だけを向けたウチの隣に続いて立ったのは、
「
「
お姉ちゃんの漏れ出る声が、
それは、ウチが今まで、言い切れなかったこと。
「え……なに、コイツこのブスの妹なの?」
キッ。と、なおも分かっていないダメ男どもを
それが、この時のウチの最後の抵抗だった。
また意識しないで踏み出した脚は
「
熱く、暖かい腕がウチを
「あんなけ
そのままお姉ちゃんが抱き上げてくれるのを、ウチはモウロウとする意識の中、されるがままにするしかなかった。
「えっ。こいつ、同じ体格の妹を片腕で軽々……!?」
「力持ちってレベルじゃ――!」
ウチを抱くお姉ちゃんが、一歩前に出る。
「すんません。お兄さんら。うちはこれから
ぐわんぐわんとする頭はもう、周りがどうなっているか教えてくれないけど、やっぱり、お姉ちゃんはお姉ちゃんだ。それみろ。
「
「ありが――キちゃん」
薄れゆく意識は、ゆっくりと現実と脳内を
見覚えのない
場所は、知っているけど、分からない。ただその感覚だけで、ぼんやりとしている。
「エミユメ。君たちは絶対、危険になんて
背中を向けながらそう言う彼女は、左手と左足を確かめるように
「おっほほほほほ。これンはまた美しい…………
気持ち悪く笑う変質者もよそに、フリルがいっぱいのドレスを広げて、薄いピンクの女の子は何かと戦う。その
病院で目を覚ましたウチは、結局その日は家に帰され、
一日
窓の外の
「あれ? お姉ちゃんなんか
「ん? なんも
「ううん。ほんなら……なんでもない」
なんだろう。
いつ、どこで誰が言ったのか分からないけど、なにかを言っていたのが頭に浮かんだような、そんな気がした。
「おっほほほほ。
第三章 - 不幸 完
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