3 ~占の少女的な~
「えっと、ここは……?」
緑が
「ふっふーん。ここはあーしのお気に入りの場所じゃん。人もあんまり来ないかんねー。まあ見つけたのは
「それを
得意げに屋上テラスの通路を奥へと進むミサキさんは、少し大きめの植え込みの陰へと入っていく。
ため息を
「うっそ」
「どうして人があまり来ないようなところに売店があるのよ……」
「らっしゃーせ……いらっしゃいませー」
ルナちゃんの呟きに、カウンターに
「そして言い直したわりに態度は一ミリも変わらないのは、ツッコんだら負けなのかしら?」
「あーし、いつものピスタチオミルクティーキャラメルクリームアーモンドタピオカトッピングのレギュラーで」
「毎度、よくそんな呪文みたいなこと、すらっと注文できますね。私はミルクで」
「かしこまりました。そちらの方々はどうなさいますか?」
「あはは……負けみたいだねー……」
「…………」
変わらず窓口のカウンターに
それから屋上テラスの真ん中ほどにある丸テーブルに、
それぞれのドリンクを受け取り、配送ロボットが奥の植え込みへと戻っていくのを見送っていると、しびれを切らしたようにルナちゃんが話を切り出す。
「それで。ただお茶をしに来ただけではないのでしょう、グダグダとするのは好きではないわ。さっさと本題に入りなさい」
「そういえばルナちゃん、
「お、その設定
直接は初めて会う人だからか、第三会議室を出たときから、ルナちゃんはミサキさんに対して最初の
にしし、と笑いながら「設定っても野生なんはホントだけど」と付け足すミサキさんに、ルナちゃんは言い放つ。
「別に、私は普段と大して変わらないつもりよ。ただ、この
「あっはっはー。いいヨ。のらちーはそれで。でもその言い方だったら、フレアーには気を
「ちょ、チがッ――!! そこ、ニヤニヤするな! ――ああもう。いいから本題に入りなさい本題に! 話が
「えー。今のはあーし
鋭い視線を送るルナちゃんから逃れるように
「んー。ウマしウマし。さてっと、まー話ってのは、相談なんよね。相談ってか魔力貸してー、的な」
「魔力?
満足そうな笑みからいつもの不敵な笑みに戻ったミサキさんの話題に、
無意識ではあったけど、思い返してもルナちゃんのことを他の人はよく知らないだろうし、こと魔力に関する話なら、
「そ。まー、見てもらった方が早いんじゃん」
言うや、ミサキさんが制服のミニスカートのポケットから取り出したのは、
物語やテレビでしか見たことのないそれは、薄い雲から顔を覗かせた西日に照らされ、きらりと小さく幻想的な光を反射させた。
そのビー玉にもう片方の手を
そっと丸テーブルの上に置かれたそれは、いわゆる、水晶玉というモノだろうか。
また別に取り出されたハンカチを水晶玉の下に
今度は両手をゆらゆらクルクルとさせていると、水晶玉の下に魔力の
作業が終わったのか、「お、出た出た」とミサキさんがそれを覗き込む。
「えーっとなになに。……あ、やべ。ナンか変なん知っちった……」
「変なの……?」
ミサキさんの不穏な反応に、ルナちゃんが
水晶玉から顔を離し、気まずそうな様子でミサキさんは頬をポリポリと
「えーっと……プンらないでね。のらちーって、こないだ生身のフレアーと会った時に一緒に居た
「――ッッ!!」
「わー! タンマタンマ! あーしこー見えて探偵だから。ちゃんと
勢い良く、という言葉も過小に聞こえる衝撃で立ち上がり、座っていた椅子を遥か後ろへ吹き飛ばし正面の丸テーブルを激しく揺らして高校生探偵魔法少女へ襲い掛かろうとする
殺気がこもっていたように感じたのは、
「し……死ぬかと思ったし…………。あーし戦闘系の魔法少女じゃないし、まじビビったぁ。あやべ、ちびった……? あ、良かったちびってない」
「ミサキさん、きも、気持ちは分かりますが、品がいつも以上に
「それで、続きというのは?」
いつの間にか自分が吹き飛ばした
近い将来、ルナちゃんと
詳しいことまでは分からないけど、そこからミサキさんはルナちゃんと
「……………………そう」
ミサキさんの話を聞き、彼女がどう反応するのか気が気ではなかったが、そんな
その様子を窺っていたミサキさんは、緊張した面持ちの中に安堵の息を小さく吐く。
「え、えーっと、今のってミサキさんの魔法……? 未来が分かるの?」
「あ、サンキュフレアー。んー。あーしの魔法は、
「占い……。それはさぞ便利だったでしょうね。それで探偵として名を売って、国に
さっきまでの
しかしミサキさんは、そんなルナちゃんの反応を予想していたのか、また楽しそうに笑って答える。
「あっははは。そんな
「そこで、フレアさんにご協力を、とお
「そだそだ。今言った通り、あーしの魔法はちょっち使いどこがムズイんよね。だから普段は足と
「な、なるほど」
正直、流れ込んでくる情報の勢いが良すぎて、
「つまり、頭が足りずに捜査が行き詰ったからフレアに泣きつきたい、と。そういうことね」
「おぉう、
「……それは、
今しがた、魔法を使っていたときと同じような眼差しを
それを見て、一考を挟んだルナちゃんは小さく息を吐き、浮かせていた背中を椅子の背もたれに預ける。
「……いいんじゃないかしら。私には、デタラメを語っているようには見えないから、あなたが決めなさい。フレア」
「マジ? 協力してくれんの?」
「うん! もちろんお手伝いするよ! どうすればいい?」
「二つ返事をすればいいとは言っていないのだけれど……。まあいいわ」
ルナちゃんの続くため息のあと、ミサキさんの説明に従って
なんでも、ミサキさんの魔力だけだとその場にいる人のことだけしか分からないけど、それに加えて
「そ! だからフレアーは適任なんよねー。そうそう、そんなカンジそんなカンジ。お~。いいねー。ヨシ、そろぼちこんなもんかなー」
占うのは、一つだけ。ミサキさんが
とりあえず言われるままに手を置き、注ぎ込めるだけ魔力を注ぎ込むと、ミサキさんは目をキラキラさせて水晶玉に手を
一転してまた真剣な表情で、魔法陣を浮かび上がらせて水晶玉に
そこで、ふと頭に思い浮かんだ疑問を
「あれ? そういえばミサキさん、変身してないのに魔法が使えるの?」
言ってから、占い中に話しかけて良いものかと口を押さえるがミサキさんはそれに笑って答えてくれる。
「あっははは。
占いが終わったのか、
「魔法ってのは、誰かを”笑顔”にするためのもんっしょ? あーしの
「――っ!! うん!!」
「だから、あーしも探偵として誰かを笑わせたい。っと、さーてなになにー?」
ミサキさんも、方向性は違えど同じものを望んでいる。そのことに、
明るい口調で、希望を語る彼女は視線を眼前に戻す。
水晶玉に出た事件に関する真実。それを、ミサキさんが覗き込む。
「…………なーる。やっぱあーしの見立て通り、
「いったい何が分かったというの。あなただけで完結していないで腹の内を吐き出しなさい」
「んー、打ち明けるのは全然いんだけど吐き出したらタピ出てくんよ――あゴメン今のナシ」
一瞬
『少女ならざる少女の
「ちまっこいってなんなのよ。ふざけているのかしら?」
「いや、それに関してはあーしの趣味だけど、割とガチであーしが選んで出てるわけじゃないんよ」
「ラッキーアイテムが引力というのはどう説明するの。ふざけていないのでしょう?」
「んー。それはショーミあーしも分かんね。――あ、待ってホントだからおちょくってないからガチプンはカンベンしてちょ!」
なんとか
他にも
「さーって、暗いハナシはここまで! フレアーが
ミサキさんは話を区切るように両手を叩くと、それを盛大に上げて、明るく振る舞う。
なにか占ってもらうモノ。
今後の
「そうだ。
「強く? 世界を、ってまたでっかく出たナ」
「うん。
そこまで言いかけて、いつかの幼さの残る国家魔法少女が、他の人に聞かれるのはダメだと言っていたことを思い出す。かつて人類史を
ところが、慌てて口を
「あー。むぎっちねー。へー。ってことはフレアー、この時代の
「え……? み、ミサキさん、なんで知ってるの?」
「んー。知ってるってか、あーしがマホカンと知り合ってちょいした時に、むぎっちが『探偵の魔法少女だったらどうせそのうち探り出しちゃうだろーから』ってねー。いっそのことて教えられて口止めされてたんよ」
「信用されているのかされていないのか、分からない打ち明けられ方ね……」
お互い口止めされてることを
そこで、
つむぎちゃんに候補の一人だと言われたときは思い浮かばなかった、【この時代】のことを。
「そういえば、どうして
「あー。あの
「世界最強……?」
「うん。
タピオカミルクティーを手に持っていたミサキさんが、それをテーブルに置いて付け加える。
「んー。そーだね、
「……。そんな魔法少女が居るのなら、世界中で認知されていないというのはおかしいでしょう。現に私は
ルナちゃんの疑問は、
今ミサキさんが言ったとおりの人なら、
しかし、そんな
「まー、そーだろね。
それでも、彼女が最強の魔法少女だと各国の国家魔法少女達の間で
――
「……あなたの探偵としての技量が、口だけではないのは分かったわ。
いつの間にか
「そんなことより」と続けるルナちゃんは平然とグラスを丸テーブルに戻す。そしてそのあとの、テリヤキを元に戻す方法を直接聞き出すべきでは、という彼女の提案に、
けれどそれを聞いたミサキさんの答えは、分からない。だった。
「分からない?」
「いや、
新しく占った水晶玉の内容とにらめっこするミサキさんだったが、
ミサキさんの方でも情報を集めてみる、と申し出てくれてたけど、
―――
「えーっと、成人してちょいくらいには永遠のパートナーと屋根の下、だってよ。いーじゃん。
「
「イヌ?」
「……あー、多分、
「なーる。――。んー?
「それは占うまでもなく誰の目にも明らかでしょう」
「あっははは。確かにそーだけど、あれでもあーしの知り合いん中じゃ割と
「じゃあ次
「――。ん、んー、タブン
「そっ、かー……」
「ま、まー無理とは出てねーからいけるっしょ。……それに
それからは、恋愛や将来のことをいくつか占ってもらってミサキさんの相談会はお開きとなった。
ミサキさんの「またお茶しよーねー」という声を背に
そのあとの帰り道、
「あー、めちゃアゲアゲな女子会だったし。フレアーも
「おおよそは推理通り、というところですか?」
「まーにー……。捜査ちょっちベクトル替えてみっかー? ……お。フレアーの魔力ちょびだけ残ってんじゃん。ついでにあの
「……?! それは、どういうことですか?」
「…………あっはははは。ウケる!
「じゃあ
「分ーってないなー、
「そんな気楽な内容ではないと思うのですが……」
「まー、いーじゃん。さてあと一回分はーっと……――」
「……
「い、いやいやいや。いやさーっすがにこれはないっしょ……。あ、っはは、ちょっちちょーしノッて
「……?」
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