第三章 - 不幸
1 ~怯の帰姉女~ ※閲覧注意
不幸だ。
僕の
あるいは、
僕も、不幸ではあるのだろうとは思う。
けれど、僕の体が不自由になったことに
でも、
不幸だ。
「あ、イワオくんだ」
五月十九日。
木曜日の授業を
いや。少し
小さいながらも車通りの多い表通り、その道路に
僕が口を開くよりも先に、見知らぬ中学生のお姉さんは、しまった、とでも言いたげな
「……お姉さん、だれ?」
目線だけでなく体ごと中学生のお姉さんに向かい合うと、彼女は
「…………」
「……いや、思いっきりお姉さんが僕の名前呼んでたよね」
「…………えへへ……」
顔の表情は変えず、しかし少しだけ
しっかりと向き合った
こんな体になる前もあまり人付き合いをしない
僕が
「えーっと、
明らかに不審なセリフに、僕は
それを見て、中学生のお姉さんは分かりやすく
「――あっ! いや違っあ、あー、えっと、あの、えぇ~…………えへ? ……じゃない、ど、どうしよう。えぇっと……
「……コマリ? もしかして、コマリ姉ちゃん……?」
「へ――?」
あたふたと、
コマリ姉ちゃん。クラスメイトの、数少ない友人がたまに話題に出す近所の中学生のお姉さんのことを、確かそういう
「
キョトンとした顔で僕を見つめてくる中学生のお姉さんを、僕も見つめ返す。中学生のお姉さんは、分かりやすく「
この様子だと、深くは何も考えていないだろう。
何も考えていないなら、どうして僕のことを知っているのかを探りやすい。それとも、何か
「……いいよ。一緒に帰っても。途中までなんだったら別に」
「――! ホント!?」
パッと顔を明るくさせて、中学生のお姉さんは
僕が首を縦に小さく振り、短く「うん」と
このまま
遅れずに横を付いてくる
「……お姉さん、名前はなんていうの?」
「
何の
年下が相手とは言え、少し
そんなともなの無警戒さに、僕は微小のモヤモヤを抱えるのを感じた。
とはいえ、僕の感情はさておきチャンスではある。であれば、
「ともな」
「あ、さっそく呼び捨てなんだ」
「《僕の体》のこと、誰から聞いたの?」
「え……?」
視線だけでなく、意識も僕の方へ向けられるのを感じる。
「僕は、
「……? うん」
青信号。
「ともなはそれを不思議に思うようにも見せず、
「え? え……あ、あー……」
「もしかして、
「えっ!?」
分かりやす
近頃。正確には、うちの生活がガラリと変わって少ししてから、あの
そして最近、学校の外でその変化がよりはっきりと出てきたように感じる。多分、僕のことを
あの事までは届いてはいないだろうし、誰にも掴ませる気はないけど、何もしないままでは、もういられない。
ともなは、帰り道が途中まで同じだと言った。それはつまり、僕の家を、あるいは通学路を知っているということだ。
ともなが僕に声を掛けてきたのは通学ルートの大体
それに、僕が怪しんでいることをともな経由でエミユメたちに伝われば、少しは
「やっぱり」
表情から僕の思考を読ませないように、赤になった信号に顔を向けたまま続ける。
「あの二人のことだから、何か
「な、なにを……? う、うぅ~ん」
ともなは少し考える。
信号が青に変わり、歩き出した頃に、ともなの
「えぇっと……イワオくんは事故で体が
「
細かいところまでははっきりとはしないけど、おおよそ見当がついた。
あの双子は、変な機転は
隠す
その後も、しばらく歩いて聞き出そうとしてみたけど、他に
「あ!」
「っ?! ……他にも、何かあったの?」
知っていることを全て話しきったかと思っていたともなが、少しの距離を静かに歩いていたかと思うと急に声を上げる。
一瞬
「え? あ、ううん。えっと、
「……は?」
どんな情報が残っているのか、心の中で身構えていたが、出てきたのは
「……いや、僕は生まれも育ちもこの町だよ。大体、
「そ、そっか。そうなんだ」
それで納得したのか、
「……まあ、間違ってもエミユメたちの前で
「ゔっ……」
「言ったのか……。あと、エミユメたちの前では関西弁じゃなくて
「そ、そうなんだ……。(なんかちょっとメンドクサイな……)」
表情
そんな、
すぐさっき、さらりと
「そうだ。そういえば
「――――!!」
「最近見かけなくなったって言ってたけど、なにかあったのか――」
「――まれ……」
「へ――?」
その一瞬だけ、身体の左側の感覚が全身に
思考に引きずられて知らずに足が止まった僕に振り返るともなの顔は見ずに、僕は小さく吠えていた。
「何も知らないくせに、姉さんのことに触れるな」
『
あの痛々しい、普段の面影を
「
すぐさま冷静さを取り戻し、そこで僕は口を閉じる。いや、まだ
出しかけたセリフごと、
盗み見るように、目線だけで見上げたともなの顔は、驚きで、しかし、次の瞬間には
「……!」
「そっか、ごめんね、勝手に
「――ぇ!?!?」
思わず、音になりきらない声が
どうしてそれを。
そう。
走り出すのではなく、逃げ出していた。
「あっ」
走れない体で逃げ走る背後から、
「……えっと、
その、後ろから耳を打つ中学生のお姉さんのセリフの
掴まれる。
バタン! と玄関のドアを音を立てて閉めたところで、まるでそれまで息をしていなかったかのように息を
それと同時に、奥の部屋からお皿が
息つく
靴を脱ぎ捨て、駆け寄ったリビングのドアを開ける直前で思い
「ごめん姉さん」
まだ残っていた逃げ帰ってきたときの心臓の
「僕だよ。びっくりさせちゃって……ごめん」
今度はいつもの、声変わり途中の
テーブルの向こう。
そのすぐそば。
「
力無く頭を抱え、キッチンに
口の動きだけで聞き取ったその声は、人の
その姿、その声が、過去のそれと
『助けて、
忘れもしない四月十五日。
ドアが閉められた
ちょうど部屋から廊下に出たところで耳にした声は、今まで聞いたこともないほどに
その声にかろうじて持ち上げられた姉さんの顔には、今まで
『スト――オト、コがっ……ァァァぁぁ。ぁぁ、ァァァァァぁぁぁ――――』
たどたどしく駆け寄った僕の体に
僕が
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