~初の魔灼乙~


 商店街のパーティーホビーショップで手早く《それ》を買った彼女と、私は共に商店街の路地裏へ移動した。

 かたわらに置かれた再生紙さいせいし紙袋かみぶくろから覗くに少なからずのあきれを覚えながら、意識を彼女へ戻す。

 再び手渡された彼女のトートバッグを持って、少し距離を取り見守る。

 そこで、私は珍しいものを見た。

 先ほど垣間かいま見た、先輩らしからぬ表情かおだ。

 を楽し気に抱えていたときとはうって変わり、疑いようもない真摯しんし眼差まなざしで、両手を自身の胸の前で合わせる。そっとまぶたが閉じられ焦茶こげちゃ色の瞳が隠されたかと思うと、それは一息ひといきく間もなく起こった。

 彼女が身に着けているペプラムとショートフレアスカートが一瞬にして光に解け去り、赤茶あかちゃの髪が灼熱しゃくねつあか色に染まり変わるのに気付くよりも早く、燃え上がる色のドレスへと換装かんそうされた。

 無風のはずの路地裏に、がれるような熱風が私の全身をすり抜けていったかのように感じる。それにうながされるように前髪や横の髪を意識に収めるが、頭の揺れに振れるだけで、なびいてはいなかった。

 まばたきをしていなかったのか、乾燥した眼をうるおすために、数回まぶたを上下させる。

 そうして再度意識を戻した先に立っていた彼女は、今しがた呆気あっけにとられたときとはまるで違う存在だった。

 いや。目の前の彼女は、まごうことなく先輩自身だ。だが、認識をまぎらせる魔法とやらは使えないという話を聞いていても、それを一瞬うたがってしまうような、そんな、別人のような存在感を放っていた。

 初めて目にした、魔法少女。

 これが、魔法少女まほうしょうじょ

 これが、


 。かうろだのたっかなれくてれ現は女彼女少法魔、時のあ、てしうど


 刹那せつなほうけて見惚みとれてしまっていることに気付き、それをごまかすように短くせきばらいをする。どこか、胸の奥深くが、妙にチリチリとしたような気がした。

 私のせき払いに赤茶あかちゃ色の瞳が反応する。

 熱気をともなったその視線は、先ほどの眼光や彼女の内に燃える炎のさかりとは裏腹に、優しく包み込むような眼差しだった。

 うわついた感情を意識し、それを悟られないように、ふと頭に思いかんだ言葉をれ流す。


「ま、馬子まごにも衣裳いしょう…………とまでは言いませんが、その、お似合い、ですね」

「えへへぇ。ありがとう」


 色の彼女は笑顔を返す。

 多分、言葉の意味には気付いていないだろう。ヨシ。

 こう不幸ふこうか私の心情など知るよしもなく、トモナ先輩は、笑顔をゆるめ小さく深呼吸をした。


「よし。行こっか」


 そう言って、色の魔法少女まほうしょうじょは商店街のおもて通りへと走り出した。

 忘れることなく紙袋の中の鹿しかを取り出し頭にかぶって。







 私のときめきを返せ。

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