3 ~轟の壊少女~


 五月十四日。

 晴れ渡るお出かけ日和びよりな土曜日でありながらも、あたし達は豊島としま区の魔法少女まほうしょうじょ保護管制局ほごかんせいきょくは地下練魔場れんまじょうこもっていた。


「ふっん、ぬぬぬぬぬぬぬぬ…………――」


 あか色の杖を両手で握り締め、魔法少女に変身したあたしは杖の先を睨みつけながら、気力のかぎりに魔力を込め上げる。


「はい。そこでち放つ!」

「え、えぇえい!!」


 閑散かんさんとした練魔場に通るけわしい視線で腕組みをする薄白はくびゃくの少女の掛け声に、突き動かされるように杖を振り上げ、前方に向かって込め上げた魔力をき出す。

 ぽひゅぅぅぅぅ……。という効果音が似合いそうな貧弱ひんじゃく極まりない勢いで、理科の実験で使うガスバーナーもかくやといった火力のが杖の先端の玉から放たれる。

 耳が痛くなるような静寂せいじゃくが練魔場を満たす中、野良のらの少女のかすかな吸気が、二人の――正確にはあたしの――いたたまれない沈黙を破るように静かに響く。


「……それじゃあ、次はもう少し出力を上げてってみましょうか」

「せめて何か言って!? いや言われてもヘコむけど! 何も言われないとそれはそれで悲しくなってくるから!!」

「…………」

「うぅっ……」


 ルナちゃんの無言の圧力にうながされて、さっきと同じように練り上げた魔力を杖へ込めていく。

 さっきよりも、少し、強めに放つ、イメージ。

 あたしの集中が伝わったのか、ルナちゃんはするどく指示する。


「いま!」

「っ! えーぇえい!!」


 それに合わせて、前と同じ動作で、今度は空気を切る音を鳴らしながらつえを振り下ろす。

 瞬間、ッッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!! と、数十メートル離れた仮想かそう対象オブジェクトバルーンが三、見る間に焼けかされていく。合成ごうせい強化きょうか特殊とくしゅカーボン樹脂じゅしでできたそれは、練魔場のほとんどを埋め尽くす程の業火ごうかしずまってから少しして、焼き消えたバルーンに置き換わるように同じものが床の接合口からもう一度新しくふくらまされる。

 冷や汗がひっきりなしに顔中を流れ落ちるのにも気は回らず、ちら、とルナちゃんへ視線を移す。

 鼻の付け根を左手で押さえる野良の少女は、今日一番のため息をいた。


「……だから、どうしてあなたは一か百かでしか炎を出せないのよ」

「だ、だってあたし、炎の魔法を使えるようになったの最近だし――」

「最近と言っても、今まで魔法を使う機会は少なかれどあったでしょうに。確かにあなたは見たままの感覚かんかくで不器用だけれど、小出こだしにしたりとか集約させたりとかは出来ていたでしょう!」

「しゅーやく……?」

「一つところに集めてまとめることよ」

「そんなことしてたっけ? あたし

「していたでしょう。一昨日おととい! あれは何だったのよ!」

「えっ、そ、そうなの? 一昨日おとといは……夢中だったからよく分かんないや……」

「あなた、本当に……。感覚派といっても限度げんどがあるでしょう……。これまではどうにかなっていたとはいっても。いいえほとんどなっていないけれど、いくら魔力があるからと言っても、最大火力かりょく無闇むやみ矢鱈やたらに振りいているだけではどうにもならないわよ!」

「は、はい……」


 ルナちゃんにそうお説教されるあたしは、今の大放出で既に十八の仮想対象オブジェクトをき払っている。全て、体育館のような練魔場の半分を埋めくすくらいの炎で。



 一昨日、深輝みきちゃんと一緒に帰っていた時に起きた突発的なディザイアーの出現で、不意にルナちゃんと緊急時以外で再会することが出来た。

 あれやこれやと驚くことがいっぱいあったけど、国家魔法少女のつなぎちゃんとわかれた後に、ルナちゃんはあたしに話しかけてきた。


『あなたももう、おおよそさっしが付いているでしょうけど、私は十六女いろつき深輝みきと肉体を共有している』


 おおよそも何も、本当は良くは分かっていなかったけど、『初めて知った』と思いながら、話のこしるのも申し訳ないのでそのまま何も言わずに話を続けてもらった。

 その時に、『色々と話しておきたいこともあるけれど、明後日みょうごにちにこの子――十六女いろつき深輝みきをお化け屋敷などの、どこか驚かせられる所へ連れ出してくれないかしら。その後にでも、改めて話をしましょう』とだけ言い残して、気付けばルナちゃんの姿はなくなっていた。

 その後、ルナちゃんが立っていた場所に崩れ落ちていた深輝みきちゃんを介抱して、今日、土曜日に遊びに行く約束を――少し強引に――取り付けたのだ。



 そして今日、お昼前に深輝みきちゃんと落ち合ったあたしは、少し早めのお昼ごはんを二人で食べてから、浅草あさくさ花屋敷はなやしきに新しくできたというお化け屋敷に行った。

 深輝みきちゃんの普段ふだん聞き慣れない可愛らしい悲鳴などを聞きながら中を進み、お化け屋敷を出た時には、一緒に歩いていたはずの深輝みきちゃんはどこにも居らず、代わりに和服めいた白い衣装を身にまとったルナちゃんが隣に立っていたのだ。

 それから、あらかじめルナちゃんに言われてあたしが用意していた服に着替えた野良のらの魔法少女に、どこか気兼ねなく魔法を使えるところはないかと聞かれて、豊島としま区は今ここにいたる。

 初めて入るのであろう魔法少女まほうしょうじょ保護管制局ほごかんせいきょくの施設に興味きょうみ津々しんしんな反応を示していたルナちゃんは、人払いをした――そもそも練魔場れんまじょうを使う人はあまり居ないのだけど――この練魔場に来るや、これからの戦い方やお互いの出来ることを確認しようと言い出したのだ。

 わざわざそんなことをしなくても、と反抗するのは出来なくはなかったけれど、「あなたには前科があるでしょう」と言われてしまえばそれまでだ。



 そして、


 ドッゴオオオオオオオオオォォ!!


 気を取り直して挑んだすえの今日七度目の大放火により、二十一目の仮想対象オブジェクトをまたたに消し炭と化した。


「なんで上手くいかないの!? テリヤキ、あたしが魔法使うの補助してくれるって言ってたのに!!」

「そんな都合の良い話ばかりな訳ないでしょう。あの魔法まほうねこが補助しているのは魔法の発動・行使であって、制御せいぎょするのはあくまであなた自身なのだから」

「発動とかを手伝ってくれるならその後くらい頑張ってくれてもいいのに! いまどきアフターサービスしてくれないお店トコなんて流行はやらないよ!」

魔法精霊獣まほうねこと融合するのを流行はやらせてどうする!!」


 野生のらの魔法少女に、食い気味ぎみに怒られる。

 ルナちゃんがさっきよりも深く長いため息をくのと同時に、仮想対象オブジェクトがポコンっ、とふくらむ。

 それを見て吹き出しそうになるのをこらえていると、ルナちゃんはこめかみに手を当て考えを口に出す。


「そもそもそんなことが可能なら、捨て身になった精霊獣達が契約した魔法少女まほうしょうじょ達に、自身を宿やどらせて強化する手段が横行おうこうするに決まっているでしょう」


 ルナちゃんが言っていることは、分からなくはない。

 今の日本には、百人近い魔法少女がいるという。だけど、そのうち十数人の子が少し前のあたしのように、うまく魔法が使えなかったり、戦いに向かない魔法しか使えないらしい。もちろん、よく一緒に戦うことのある柚杏ゆあんちゃんやあたしみたいに例外もいる。魔法が使えなくても戦えていたのはあたしくらいのものらしいが。

 それでも、女の子達と契約している魔法精霊獣のほとんどは、ディザイアーを倒すことを目的にしている。そんな彼らであれば、多少でも融通ゆうずうが利くのならリスクを無視して彼女達との強引な融合ゆうごう敢行かんこうしてしまいかねないだろう。

 

「まあ、なんにせよ、あなたの場合すぐにどうにかなるものではないと、認識出来ただけでも良しとしましょう……。次は私ね」


 脱線しかけた話のすじを戻し、野良の魔法少女は少し離れた壁に備え付けられている操作盤に手をかざして、ホロウィンドウを浮かび上がらせる。案内してくれた職員さんの説明を聞いてすぐに理解したルナちゃんは、よどむことなくホロウィンドウを操作していく。注意ちゅうい喚起かんきのアラームが室内にひびきだし、視界の端の合成強化特殊カーボンバルーンの仮想対象オブジェクトが床に収納されると、代わりに練魔場れんまじょうの横幅の1/3はある厚みの大きい壁が、床からせり上がってくる。

 あたしの広げた両腕よりも幅のあるコンクリートのような衝撃対象壁は、練魔場をわずかに振動させて湧出を終え、同時にアラームも鳴り止み室内は静寂せいじゃくを取り戻す。

 ルナちゃんがホロウィンドウから手を離すと、壁際に投影されていたそれは自動的に消滅した。薄白はくびゃくの衣装をまとう野良の少女は、練魔場の真ん中に現れた分厚ぶあつい壁のそばに移動する。


「とは言っても、私の場合魔力まりょくはないからただ殴るしか出来ないのだけれど」


 右手を高さ五メートルはありそうな対象壁に沿わせるルナちゃんは、少しそれを触っていたかと思うと、


「これでは少し難しいかもしれないわね」


 再び練魔場壁際かべぎわのホロウィンドウを操作する。

 またアラームが鳴り響いて出てきたのは、今しがた設置された対象壁と同じものがつらなったものだった。そのおおよその奥幅は、学校のプールよりもやや短いくらい。つまりは二〇メートルほどか。


折角せっかくの機会だから、普段は使うことのないフルパワーでいってみようかしら」


 万が一、ディザイアーのコアを外した時や、不測の事態が起きた時のためにある程度の魔力を残すことを考えて攻撃を放っているというルナちゃんは、あたしを下がらせ、衝撃壁の一、二歩前に立つ。

 薄白はくびゃくそでを揺らして左肘を引き、深く息をく。そして鋭く息を吸い上げ、練魔場全体に響き渡るほどの気合に押し出されるように、ルナちゃんの左肩から目にも止まらない勢いで白色の鉄拳が撃ち込まれた。

 鼓膜こまくを強く打ち付ける野良の少女の気合に勝るともおとらぬ轟音が、中規模体育館大の練魔場の空気を刹那せつな、支配する。

 衝撃の強さに対し虫かごのごとき狭さの練魔場に走り渡る、”余り”とは思えない余波に押しまれ、よろめき尻もちを着く。

 思わず耳をかばった両手を怖々こわごわと下ろしてすぐにあたしの鼓膜を打ったのは、厚さ二〇メートル前後はあった対象壁が八つ角だけを残して跡形あとかたもなく粉々になり、ガラガラと音を立てて崩れ去る瓦礫がれき類の振動だった。

 そして、続いて幼さのいささか残る少女のため息が、耳に届く。


「はぁ……はぁ……。――はぁ、少し、やり過ぎたかしら」


 今まで目にした中で、少なくとも東京暗転ブラックアウト事変の時の強化された一撃をのぞいてもっとも激しい衝撃が、びりびりと肌を痺れさせた。それに、あの時ほどではないと言っても、傍目はためから見れば大差はないに等しい。まるで戦闘機に爆撃でもされたかのような――そんな経験はないが、分かりやすく言い例えるならばそう表現するのが妥当だとうに思える。

 右手の壁。ルナちゃんが操作していた設備操作盤の少し横。さっきのものとは違う少し大きめのホロウィンドウが、いくつかの文字や数字を映し出す。

 g。Kg。T。と移り変わる数字やアルファベットの表示が、数秒とせずに落ち着く。

 練魔場の床からおしりを持ち上げる。軽く息を切らすルナちゃんと一瞬、顔を見合わせて、ホロウィンドウに表示されている内容を読み取る。

 そこに書かれていたのは、


 ただいまの最大瞬間衝撃値

 TNT13MT

  属性値0 対象属性測定不可

  操作未入力の場合、180秒後に

  除去・清掃シークエンスに移ります。


 たった今、ルナちゃんが衝撃対象壁を殴り壊した時のであろう数値だった。

 属性値ゼロ。それに関しては、納得のものだ。ルナちゃんは魔力が極端に少ないから、魔法はまともに発動できないらしい。だから、純粋に魔力をまとわせたこぶしりでディザイアーと戦っている。

 気になるのは、その前の表記だ。

 TNT――というアルファベットの意味は分からないけど、その後ろの数字についているМT。これはどこで記憶したのかは覚えていないけど、確か読み方はメガトン。だったはず。

 十三メガトン

 単位たんいの意味としては、何か大きい数値を表しているのは分かるが、この数字がどれだけの強さなのか、いまいちピンとこない。

 数字だけを見るとなんともはかがたい計測値に頭の中で首をかしげていると、声を戦慄わななかせてルナちゃんがつぶやくのが、耳に入る。


「え……。こ、この壁、どれだけ丈夫だっだの……?」

「ルナちゃん、この数字って、そんなに凄いの?」

「ちょっとした隕石いんせきの……落下エネルギーみよ! それを……ただ壁がこな微塵みじんになる程度で済むなんて…………」


 これは”程度”と呼べるのだろうか。

 左肩を右手で抱きながら、ルナちゃんはコンクリートのような衝撃壁の残骸ざんがいに目を落とし静かに叫ぶ。

 隕石の、落下エネルギー。分かりやすい例えのようであまり実感のない目安めやすに、現実に頭をひねあたしの近くで、怪しさ全開の男性の笑い声が上がる。


「あっはっはっはぁ。ものすごい音と衝撃が伝わってきたものですからぁ、様子ようすを見に来てみればぁ、これはまた壮観そうかんなことになっていますねぇ」

「っ!」

「こ、近藤こんどうさん!? いつのに!?」

「つい今しがたですよぉ」


 張り付いたようなうすら笑いで、スーツ姿の男性はおどけるように答える。そして、気配も感じさせずに現れた近藤こんどうさんの姿を目にするや、野良のらの魔法少女はまたたに警戒の色をまとわり放つ。

 そんなルナちゃんの負のオーラも気にも留めず、近藤こんどうさんは壁際のホロウィンドウに視線を移す。


「あっはっはぁ。これはこれは、珍しいぃ数字が出ていますねぇ」


 いで、元の絶壁さの面影もない瓦礫に目を移し、近藤こんどうさんはルナちゃんへ顔を向ける。

 それはひとごとか、「なるほどぉ」と小さく言った近藤こんどうさんは、深縹こきはなだ色のスーツを音もなく身体を動かし薄白はくびゃくの少女のそばへ歩いていく。

 ルナちゃんは、しかし警戒の色を濃くさせるだけで、近付く近藤こんどうさんの一挙一動をその場で黙って見届ける。


「っ……」

「あっはっはぁ。私では抵抗はあるでしょうがぁ、少ぉし、失礼しますよぉ」


 お互い触れ合えるような距離にまで詰めた近藤こんどうさんは、何も変なことはしない、とでも言うように両手を上げてひらひらさせ、野良のらの少女の左腕にその手を伸ばす。

 左肩に当てたままの右手はそのままではあるが、以外にも、ルナちゃんは近藤こんどうさんの手を振り払ったりはせずにただ黙ってその挙動きょどうにらみ続ける。

 ルナちゃんの左腕やひじを軽く触っている近藤こんどうさんが何をしたいのかは分からないけど、あたしはハラハラとしながらそれをながめているしかなかった。

 五秒ほどか。それは存外ぞんがい早くに終わり、うすら笑いを張り付けたまま、近藤こんどうさんは軽い口調でげる。


「…………」

「あぁ、やはり。しかしこれだけで済むとはぁ。いやはやぁ」

「えっ?」


 近藤こんどうさんの漠然ばくぜんとした発言に、思わず声がれる。


「私はぁこう見えて、いくつか民間みんかん資格しかくゆうしているのですがぁ、よろしいですかぁ?」

「……」


 ルナちゃんの沈黙をどう受け取ったのか、近藤こんどうさんは「それではぁ、少ぉし失礼しますよぉ」と言ったかと思うといきなり彼女の左腕に抱き着いた。

 いかりにちた野良のら魔法少女まほうしょうじょに、暗いスーツの男性が人間の原型も無く蹴り飛ばされる。そんな姿が即座そくざ脳裏のうりに映し出されたが、近藤こんどうさんは近藤こんどうさんのまますぐにルナちゃんの腕から離れた。


「ちょっっ!! …………え?」


 一歩二歩と離れる近藤こんどうさんに構わず、ルナちゃんは左肩を数回、小さく回す。


「これだけの衝撃を放っていながら、亜脱臼あだっきゅう程度でむのはぁ、もはや関心しかないですねぇ。生身なまみの人間であればぁ、その場で上半身の半分は消し飛んでますよぉ。骨ごと。あっはっはぁ」

「うっそ……」


 笑い事ではないことをさらっと笑い流し、近藤こんどうさんは続ける。


「もうほとんど心配はありませんがぁ、しばらくは変身を継続しておいてくださいぃ。数分と掛からずに、痛みも取れるでしょうぅ。まあぁ、ここにいらっしゃるうちはかれることはないでしょうがぁ」

「……そうね。は、れいにも借りとも思わないけれど、一応いちおう覚えておくわ」

「あっはっはっはぁ。ありがとうぉございます。構いませんよぉ、お気になさらずぅ」

「あとコンマ一秒七三はなれるのが遅ければ、愉快ゆかいな土曜クッキングに使う特大のき肉を用意するところだったけれど」


 薄ら笑いの張り付いた近藤こんどうさんの顔中に、あますところなく汗がき出す。この練魔場そんなに暑かったかな。

 注意をうながすアラームがまた練魔場に鳴り響き、粉々になった対象壁の瓦礫がれきが自動で片付けられていった。


 どうやら、ルナちゃんはパンチを繰り出した反動で、肩がはずれかけてしまっていたらしい。今までは、本気で攻撃をする、といった状況になることはなかったから、まさかこうなるとは思っていなかったのだとか。

 近藤こんどうさんが言うには、最低限の知識さえあれば自分で処置しょちが出来るくらいの程度だったみたいだけど、あまりお勧めできる結果ではないらしい。それに関しては、あたしも同意できる。

 半月前の、名古屋人型ひとがたディザイアー戦の一幕がよみがえる。むらさき色の怒りにち満ちた、狂気とも言い例えられる、戦いぶり。できれば、ルナちゃんには自分の体を大切にして戦ってほしい。戦いのない世界になってほしいけど、それは多分、かなわないだろうから。

 そんなあたしの思いもよそに、薄白はくびゃくの少女は深縹こきはなだ色のスーツ男性に向かい合う。


「……今日の目的は大方おおかた済んだけれど、しばらく出られないのならそれはそれでいいわ。いぬ。あなたは国家魔法少女国の狗共の補佐などをしているのでしょう」

「……ええぇ。この東京地区の半分ほどは担当していますよぉ」


 唐突とうとつな話の内容の先が自身に向けられているとは思っていなかったのか、近藤こんどうさんは一テンポ遅れて答える。


「なら、これもいい機会だわ。いぬ。あなたの口にできる、魔法少女の魔法について教えなさい。私も含めて、トモナ――フレアも無知と然程さほど変わらない。情報がらなさ過ぎる」


 そこで、野良のらの少女の言わんとすることを理解したのか、近藤こんどうさんはまた「なるほどぉ」と言ってうなずく。


「ええぇ。かまいませんよぅ。とは言ってもぉ、私も知っていることは多くはありませんがぁ」


 そう付け足す近藤こんどうさんは、壁際かべぎわのホロウィンドウを起動・操作し、床から三つの簡易かんい座席を現わせる。


「立ち話もなんですからぁ、お茶でもいただきながらにしませんかぁ。流石さすがにそろそろぉ、文字数が多く感じられるでしょうから、次の話にでも持ち越しましょうかぁ」

「そうね。尺もあまり長すぎるときが来るでしょうし、ここらで一区切りするのが妥当だとうね」





 ルナちゃんと近藤こんどうさんが何を言っているのかよくは分からないけど、どうやら一旦いったん休憩らしい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る