7 ~いつかみんなを護れる魔法少女になるために~


「次、ヤツの左側へ少しずつ、連続的にほのおを撃って。街路樹がいろじゅ沢山たくさんあるけれど気にしたら駄目だめよ」

「っ、うん!」


 ルナちゃんのゆびす方向、落ちている瓦礫がれきに黒い影の手を伸ばそうとするディザイアーのそばへ、小出しにした炎を飛ばしていく。いつも力任ちからまかせに魔力を打ち出しているから、これがまた難しい。

 向かってくる炎の気配に気付いた人型ディザイアーは、出しかけていた手を引っ込め、着弾する炎の玉からのがれるように一歩また一歩と次々によこへ身をずらす。

 道をはさんでビルとビルの屋上を飛びながら撃ったから、炎の玉はまばらに街路樹や歩道、車道を燃やしていく。


「それでいいわ。やつは度重たびかさなるトモナ……フレアの魔法の攻撃で危機きき意識いしきを持っている。捨て身で近接攻撃をこころみてこない限りは、十分な牽制けんせいになるわ」


 ルナちゃんが言うとおり、あたしの魔法をけたディザイアーは、道や街路樹を燃やす炎から距離を置こうとしている。


「今度はヤツに近づきながら杖に魔力を込めなさい。炎の力ではなく、純粋な魔力そのものでいいわ」

「え? あ、う、うん」


 街を燃やしてしまっている罪悪感に心を引っ張られかけるもないうちに、ルナちゃんの指示が飛ぶ。

 着地したビルの屋上をルナちゃんが飛ぶのに続き、あたしも転落防止用のさくを蹴る。強く握られた手にみちびかれながら、反対側の手に握る色の杖に魔力を込めていく。

 目の前には、低くうなる影の巨人。その巨人は向かい来る私達あたしたちへ両手を伸ばし、目障めざわりな少女達をその手におさめんといさみかかってくる。


「今よ! ヤツの顔面へ向けてはなちなさい!!」

「っええぇぇい!!」


 ルナちゃんのけ声に合わせて、練り上げた魔力を力一杯ちからいっぱいき出す。


「ギっ!? グゥぃウェああアアああ!!」


 目前もくぜんまでせまってきていたディザイアーは、不可視の魔力放出に押し戻され、バランスをくずしてもんどり打つ。


「次っ! 私を投げなさい」

「えぇ!?」

「いいから早く! そして炎をいて戻ってくる!」

「は、はい!」


 ルナちゃんに言われるがまま、彼女と繋いでいた手をちからの限りに倒れ込んだディザイアへ向けて、薄黄うすき色の魔法少女を放り投げた。ちゅうを飛ぶルナちゃんは、起き上がろうとする人型ディザイアーに対して足を向け、蹴りかかろうとする。

 それに反応した巨影の怪物は、中腰のまま両腕を持ち上げてガードした。が、ルナちゃんの一撃を受け止めた影の双腕そうわんは、予想以上にビクともしなかった。


「グあ?」

「フレア! そのまま炎をこいつへ浴びせなさい!」


 ふせがれたディザイアーの腕を蹴って跳び帰ってきたルナちゃんの手を取り、ルナちゃんを投げた反動をおさえて飛ぶために噴き出していた炎を、防御の姿勢で立ち止まっている人型ディザイアーへ向け返す。

 反応が少し遅れたディザイアーは、炎の攻撃をもろに受けてその影の体を燃え上がらせる。


「グゲっっ、ガァアああアアアア!!!」


 どうやら、ルナちゃんのりの威力いりょくを警戒していたらしく、避けられないとんで重い一撃を受け止める体勢でいたらしい。

 それを見こして、ルナちゃんは魔力の無いことを逆手に取ったのだという。


いてはいる……だけど決定打にはほど遠いわね」

「グ………ゥぐ、ガ………!!」


 うめく人型ディザイアーは身をるい炎を払うが、その黒影の体はところどころがボロボロに崩れているだけだった。それも、振り払われた炎がき消えるそばから再生が行われていくのがはっきりと見える。

 最大出力の炎を浴びせたはずだけど、全体的に分散したからか、影の怪物の足をわずかに止める程度に終わってしまう。


「ご、ごめんね。上手うまく魔法使えなくって」

「気にしても仕方ないわ。そもそも使い始めの魔法で脅威きょうい程度ていどが最高レベルの怪物かいぶつとやり合おうとしているのが間違っているのだから。と言っても、異様の怪物とて無限に再生できるわけではないわ。このまま戦い続ければいつか限界までけずりきれる。けれど………」


 あたしと一緒に道路の真ん中に着地したルナちゃんは、そこで言葉をにごす。


「ルナちゃん?」

「それはあなたに相当の無茶をさせることになる………」

「それなら大丈夫だよ! あたしなら――」

「あなたねぇ。私に無茶するなと言っておきながら、あなた自身が無茶するのを私が許容きょようするとでも――!」


 ルナちゃんが最後まで言い切る前に、あたし達はその場をび上がる。

 タッチの差であたし達が立っていたところを、巨大な影のこぶしが叩き割った。回復もそこそこに、ディザイアーが攻撃を仕掛けてきたのだ。

 視界のはしっこで、黄色きいろっぽい影が飛びねる。

 リサ先輩だ。

 あたしとルナちゃんが一緒に戦うのを見て、動けない魔法少女達の退避たいひを優先に切り替えて動いてくれている。

 他にもくすんだしろ色の馬達が辺りを駆け回っているのが、ちらほらと目にうつる。ヒサキさんもリサ先輩の手伝いをしているんだ。どこかしらから元気な高笑たかわらいが聞こえる。

 二人のおかげで、彼女達への心配が少しは減ることになるだろう。


 問題はこっちだ。

 ルナちゃんのするどい指示のおかげでディザイアーへ有効な攻撃が通り始めたが、さっき彼女が言ったとおり、お互いの紙一重かみひとえの回避や決定的なダメージを負わせられないまま、ずるずると神経をすり減らす戦いが続いている。

 魔力まりょくはまだ少し余裕よゆうがあるけど、それよりに先にあたし気迫きはくが消え去りそうな恐怖もある。人型ディザイアーの耐久力か、あたしの魔力か、あたし達の精神力か。そのどれかが最初にこと切れるかが、この戦いの終幕しゅうまくの合図だろう。


「トモナ!!」

「うっ!!」


 かわし、撃って避けていた攻撃が、あたしの脚をかすめる。

 苦しまぎれの炎でディザイアーの追撃をいなして、ルナちゃんに引っ張られながら気力の限りに跳んだ。


「とも――フレア!」

「―――っ……」


 乗り捨てられた大型トラックの荷台の屋根に降り立つも、すぐにがたい痛みにひざを折る。

 さっきのにぎつかまれたところに、続けてのダメージ。ルナちゃんの手を取り、震えながらも立たせるが、正直しょうじきそれが限界だった。


「フレア。無理しないで。先程さきほど痛めた方のあしでしょう!?」

「だい、じょうぶ……! ちょっと、こっちの脚を使わなかったら、すぐ動かせるように、なるから………!」


 ルナちゃんと握る手に、いやあせがしっとりとまとわりつく。申し訳ないな。こんな気持ち悪い手を握らせて。

 そう考えた瞬間、手を引かれ、かかえられたかと思うと、トラックの屋根を走り、大きく跳び上がった。


「ル、ルナちゃん!?」


 いきなり目の前に近づけられた奇麗なお顔に、戸惑いに彼女の名前を呼ぶ。


「無茶は、させはしないと言ったでしょう。それから、さっきから上の方でエンジン音が聞こえてくるのだけど、何かしら。自衛隊じえいたい、というわけではないでしょうけど」


 確かに、言われてルナちゃんの腕の中で耳をませると、いかめしいエンジンの音が遠くから近づいてくるのがかすかに聞こえる。

 そこで今の自分の状況に気付き、降ろしてもらおうと暴れるが、


「これは仕返しよ。あなた、私を抱えて運んだでしょう」


 と更に強く抱き上げられてしまう。なるほど。それは、仕方がない。よしんば甘えてみよう。こんな美人さんにき抱えてもらえる機会なんて、まずないだろうから。の男子よ、うらやうらみたまえ。

 などと小鞠こまりちゃんに怒られそうなことを考えていると、近づいてきていたエンジン音が私達あたしたちの居る名古屋なごや市の上空をる。

 その違和感に最初に反応したのは、皮肉なものにディザイアーの方だった。


「グ、るァ?」

「あれは、まさか!」


 続いてに気付いたのは、あたし達の近くの魔法少女をかつぎ上げようとしたリサ先輩。

 釣られるようにあたしとルナちゃんが見上げた先にあったのは、名古屋の空を舞いりる色とりどりの四つの影。

 ォォォォォォォォォ......


「あーはっはっは。ホントに人型ひとがただぁ! こりゃまた随分ずいぶんひどく暴れたねー!」

「なにを楽しそうに言うとんの。こんなボロボロにされたらウチら国家こっか魔法少女まほうしょうじょ面目めんぼくまる潰れやんか」

「まあそう言ってやるな。人型が出た時点で、こうなることは当然。むしろ想定そうていよりも被害は少ない方だろう。警報けいほう発令はつれいから一時間弱でこれなら表彰ひょうしょうモノだ」

か良か。役立たずがんたれ多いよかいいよいっちゃが。後ばわいらが相手をすればうてなえば良かとよ」


 ォォォ...ォォォォォォ......

 りゆく四つの声は、いずれも女の子のもの。ここからでも衣服がバタバタと空気をはためかせる音がかすかに聞こえるため、降下音にさえぎられないようお互いに大声を出しているらしい。

 そのシルエットは明確になってきて、色もはっきりと見て取れる。

 くろ深緑ふかみどり黄色きいろ、一人は後ろのそら色に溶けて分かりづらいが、みず色だろうか。


「それにしても、沖縄おきなわから大阪おおさかまで三十分なのはいいけど、ずっと座ってたのは疲れるよー! 横に重力がかかる旅客機ってどうなのさ」

文句もんくを言うな。アタシ達四人を乗せてうみを渡るのはさしものアイツでも魔力がたんだろ」

そんなそんげことこつよりも、足元の獲物えものばい」

「それもそうやな―――」


 ォォォォォォ......

 彼女達は、それぞれに握る武器を構えて、むかとうと影の拳を突き上げるディザイアーと激突する。

 結果は、火を見るよりもあきらかだった。

 ズガバキガガガガァァン!! と豪快ごうかいに撃ち込まれた四種の攻撃に、一切いっさい抵抗ていこうの気配もなくディザイアーは押し潰されたのだ。

 振り上げた右腕と、左肩に両脇腹りょうわきばらえぐられた人型ディザイアーは、セミメタル粒子りゅうしアスファルトを穿うがってわずかにバウンドする。

 しかしやはり他の怪物達とは違い、本能で感じたのであろう危機意識を即座に反撃へとあらわした。

 それでも、四人の強襲者きょうしゅうしゃ達はそれをもなく優々ゆうゆうかわしていく。

 ......ォォォォォォォ...ブォオオ......


「……いぬ。あなたあれを知っているの? 見たところただの国家魔法少女国の狗のようだけど」

「あれは、ただの魔法少女だなんて言えるもんじゃないわよ……。アンタも聞こえてるでしょ、さっきから徐々じょじょに近付いてきてる別のエンジン音」


 ォォォオオオ……ブォォォオオオオ……!

 あたしを腕に乗せながら問い掛けるルナちゃんに、リサ先輩はやや緊張気味に答えて南西へ視線をずらす。


 ブオオォォォオオオオ……オオオオオ!!


 近付いてくる騒音そうおんは、愛美あみちゃんがやってきた方とは反対側、ビルの向こうから響いてくる。

 ォォオオアアアアァァァン!

 あたし達の居る位置を少し過ぎた辺りで音は歪曲わいきょくし、北側を一直線に爆音をとどろかせる。

 轟音ごうおんに何かを感じたのか、人型ディザイアーはあたし達の横をすり抜けて、その姿が見える前から拳を振り上げた。


「あっ」


 思わず声に出てしまったあせりを、リサ先輩は手ぶりだけでおさえる。

 黒い影の怪物は、またたせまってくる爆音に合わせて名古屋なごや高速こうそく都心環状線としんかんじょうせんするどいパンチをり出す。

 その時、バァオン!! と高速環状線の防音壁の向こうから一際ひときわ大きい爆音をえらせながら、愛美あみちゃんと同じように、壁を軽々かるがると飛び越えてきた。

 二つの大きなくろいゴム輪は高速で回転し、内燃式エンジンで爆発音を打ち鳴らして、それはすさまじい影とエネルギーのかたまりを勢いのままに後ろのゴム輪ではじき返す。


「ゴグァ!?!?」

ォォオオンン!!!!


 バランスを崩しまたもす人型ディザイアーを通り越して、爆音の走者、オレンジ色の少女を乗せた赤黒あかぐろい内燃式大型二輪車はあたし達のかたわらへ降り立つ。

 そしてその両脇に、空から舞い降りてきた四人の少女達も立ち並ぶ。

 そのタイミングで、リサ先輩は先ほどのルナちゃんの質問の答えを告げた。


「……こいつらは、日本トップクラスの魔法少女達、日本の国家こっか魔法少女まほうしょうじょ最高峰のマギアールズ、五つ葉の白詰草フィブスクローバーよ」


 リサ先輩が言い終わるのと同時か、影の巨人と五人の魔法少女達がぶつかり合う。先ほどまでのあたし達や他の魔法少女との戦いとは違い、彼女達は、さながら子供とたわむれるかのように人型ディザイアーを相手あいてる。

 その様子を見ていた薄黄うすき色の少女は、ポロリと心のうちらす。


「………どうやら、日本最高峰というのは伊達だてのものではないようね。これは正直、純粋にすさまじいわ……」

「……うん。凄い」


 あたしも、無意識に相槌あいづちを打っていた。

 そしてそれは、まるでわたし達の、あたし未熟みじゅくさをしめしてるようなものだった。


「ふっき飛べー!!」


 水色の少女がそう叫び、無数の五寸ごすんくぎが宙に浮かぶ巨大な魔法陣から現れる。それは攻撃をかわされて無防備になった人型ディザイアーの胸の真ん中へ続々と吸い込まれていき、次の瞬間、せきを切ったかのように大穴をけた。


「ギァッ……ガァぁァアアアア!!!」

「「!?!?」」


 胸に大ダメージを受けた影の巨人の化け物は、くるまぎれの雄叫おたびを上げる。それは反撃の咆哮ほうこうとなり、周囲のあらゆる全てを吸い込み始めていく。


「これは……! 報告にあったなんでも吸い込むってゆう欲圧よくあつか………!」

「確か、どげん魔法まほう打ちこーんでもきよらんばい」


 深緑ふかみどりくろの魔法少女達が砲撃ほうげきやぬいぐるみの魔法を放つが、そのどれもが例外なく無残むざんに吸い込まれてしまう。

 オレンジ色の魔法少女はまとう修道服を棚引たなびかせながら、地面の瓦礫がれきにタイヤをませて吸い込まれるのをふせいでいる。


「わー。吸い込まれるぅー。こんなのよく止められたわねー……」

「あー。うん。これはちょっとヤバいな。アタシのこぶしも無事じゃ済まなさそうだ」

「てゆーか、なんであいつ死なないの! ディザイアーなら胸のコア叩き壊せば死ぬはずなのにー!」


 ボヤく黄色きいろの背の高い少女も、はげしい吸気きゅうきの嵐の中、直立不動でながめている。よくよく見ると、くつひらたいヒールのところにセミメタル粒子入りのアスファルトへ水色の魔法少女が撃ち込んだのであろう五寸釘が引っ掛けられているが、よくあれだけで飛ばされないものだ。

 そのみず色の魔法少女はというと、巨大な釘を地面に打ち付け、器用にしがみ付いて叫んでいる。

 だけど、そんな悠長ゆうちょうに見てはいられない。が言っていたとおり、吸収の欲圧これを破れるのはあたしだけなのだから。

 火の気配に気付いたのか、影の巨人の黒い視線があたしへ向けられたように感じる。


「ルナちゃん!」

「押さえているから存分ぞんぶんにかましなさい。フレア!」

「っ―――うぅ~~~~~~~~~りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 野良のらの少女に身を預けながら、立ちこめる熱い魔力を練り上げたそばからき飛ばしていく。

 あかい杖から放射状にさかる炎は、たちまち嵐の元凶へ押し寄せていき少しの抵抗の余韻よいんの後、爆発的に燃え上がらせる。


「ギガっ……クエェエアがァァァああアアア!!!」


 瞬時にその巨体を焼き上げられた影の怪物は、よろめき、近くのビルに倒れ掛かった。

 それを見て、黄色の衣装を身にまとう直立不動の魔法少女はつぶやく。


「フレア……………? へぇ、ネームレス、か」

「………それに驚異的きょういてきな魔力量や。なるほど、あの子があの人型ディザイアーの侵攻を食い止めてたってゆうことか。凄いな、普通に」


 何か気になるようなことが聞こえたような気もするが、深緑ふかみどりの魔法少女の感嘆かんたんを無視してルナちゃんの腕からさらに身を乗り出す。それよりもずっと感じていた違和感を、彼女達に伝えなければならない。

 抱き上げられる腕から身をよじって降りる。足はまだひどく痛むが、えられない程ではない。


「フレアっ!?」

「あたま!! あのディザイアー、頭が気持ち悪い! ずっと《られてる》!!」

「っ!! ――そういうこと」


 あたしの声をすぐ近くで聞いていたオレンジ色のライダー少女はそう言うと、赤黒あかぐろい鉄の馬を、バルルルルォォオン!! と低くえさせる。

 彼女の動く気配を感じたのか、影の巨人はもたれ掛かるビルの瓦礫がれきつかみ出して、次々に放り投げてくる。が、一切の掛け声もなく、オレンジ色の少女以外の四人の魔法少女まほうしょうじょは、それを阿吽あうんの呼吸でふせいでいく。


 バロロロロオオン!!


 赤黒いいななきが、ひびく。

 オレンジ色の言葉と共に。


I'm prayerアイム プレイアHis saint ヒズ セイントthat's sad desireザッツ サッド ディザイアーWe areウィアーDestroyerデストロイヤー――」

 バルルルルルルルルルルルルルルンンン!!!

don't worryドン ウォーリーbecauseビコーズgivesギヴズ―――」

 バォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!


 オレンジ色の少女の言葉がつむがれると同時に、今までで一番の爆発音が辺り一面にとどろわたる。

 思わず目を閉じすぐさま開けた場所には誰も居らず、つらなる轟音へ顔を向けた先、四人の少女達によって開かれた影の怪物の頭部への軌跡きせきの上に、彼女は走っていた。


saveor セイヴァー!!」


 ギャリギャリギャリギャリギャリィィィ!!! と空中で一回転された内燃式大型バイクの後輪は人型ディザイアーのひたいへ容赦なく叩き込まれ、


 ロロロロロロロロォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!

「ギ…………っ―――」


 次の刹那せつな


「ギャァぁアアアアアアアアアアあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああアアアアアアアあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


 影の頭の中から一瞬のうちに削り出されたどすぐろ真紅しんく宝玉ほうぎょくを、オレンジ色のブーツによって絶叫ぜっきょう断末魔だんまつまを響かせながら跡形もなく粉々こなごなくだき割られた。

 名古屋なごやのコンクリートジャングルに残響ざんきょうはなち、残された黒い影の巨体も後を追うように風にけ消えていく。

 オレンジ色の魔法少女がまたがる赤黒い大型バイクは、バオン!! とひときしてひび割れた本町通ほんまちどおりのアスファルトになんなく着地する。

 他の四人の魔法少女達も、なんでもなかったようにわらわらと討伐者とうばつしゃの元へ集まっていく。


 それは、どうしようもなく、格好良かった。


 そして、うたがいようもなく、助けられてしまった。



「………ルナちゃん」

「……えぇ」

あたし、強くなる。今のままじゃ、弱いままじゃルナちゃんが言ったとおり、本当に大事な人達しか、まもれない」

「それは、私も同じ。ただそれさえできればいいと、思っていたわ」


 いつの間にか衣装が白色に戻っていた隣に立つ野良のらの少女は、そう返す。

 その姿が、彼女の後ろの夕焼ゆうやけごとゆがんでいく。


「でも、それじゃダメなんだ。あたしは、の、笑顔をまもるために、魔法少女になった! 欲望よくぼうかなえるために、テリヤキと一緒に、魔法少女まほうしょうじょになったんだ!」


 熱い目頭めがしらを腕で強くこすって、決意を、決断を、もう一度むねに抱きめる。


「ルナちゃん。あたし、強くなる。みんなの笑顔をまもれるように。いつか――」


 胸の内にひそむ、相棒のねつを感じながら。

 鮮明せんめいになった、正面に立つ将来は美人さんになりそうな少女の可愛い顔を強く見つめながら。


「いつかみんなをまもれる魔法少女になるために!!!」

「……私も、分かりきっていたことを、気付かされた。人一人に出来る事には、限界があるということを。……だから、あなたとチームを組むわ」


 目の前の少女は、足元をふらつかせつつも、しっかりと大地を踏み、声をむ。


「マギアールズ、だったかしら。国家魔法少女国の狗にはならないけれど、それはいぬでなくとももうけられるのでしょう。大切なものを、この両の手からこぼとさないために、私も、なりふりかまっていられないわ。それにあなたなら、信頼はまだ無理でも、信用しんようはしてあげられるから」


 夕日に当てられてか、肌の白い美麗なお顔は、あかまる。


「――っ。……うん。………あと、テリヤキをもとに戻す! テリヤキは言ってた。戻すのは難しいって。つまり、不可能じゃない、ってこと。その方法を探すためにも、強くならなくちゃ。よろしくね。ルナちゃん。二人で、強くなってこう……!」

「……ええ―――」




 その後は、淡々たんたんと事後作業が行われた。

 あたし達は折り返しのリニアモーターカーに乗って、来た時とはまた違う形であっというに関東へ戻る。

 自衛隊や警察の人達が瓦礫がれきの撤去や死傷者の確認といった事後作業に入る前、ルナちゃんは一人抜け出す前に、あたしささやく。


「言い忘れていたけれど、私の存在は、あの子———十六女いろつき深輝みきには内緒にしておいてくれないかしら」

「え? あ……うん。いいよ、大丈夫。ルナちゃん秘密なんでしょ? 話せないことは誰にだってあるから。それに、ルナちゃんはルナちゃんだし、深輝みきちゃんは深輝みきちゃんだもん」

「――まったく、あなたって人は変わらないわね。………でも、そういうところは、変わらないままでいなさい」


 言って、薄白はくびゃくの少女はくるりときびすを返して歩き出す。

 無茶をしなければ、変身を維持したまま今日中に関東まで帰れるらしい。ただ認識にんしき疎外そがいの魔法は無理らしいから、一人の方が都合がいいのだという。少しさびしい。

 しかし、数歩すすんだところで、「それから」とルナちゃんは振り向いた。


「トモナ、これからはしたくのをやめなさい。あなたは抜けていることが多いから、よくミスをして落ち込んだりするでしょうし、気が滅入めいってそうしたくなるのは分からないでもない。けれど、下を向いてばかりだと大切なものまで見逃みのがしてしまうわよ」

「………?」

「あなたが護ったは、顔を上げなければ見えないものなのだから」

「―――っ」


 うつむいていた目線を上げた先には、とてもほがらかな笑顔があった。

 戦いの中で見せてくれたものとはまた違う、心があらわれるような、素敵すてきな笑顔が。


 そしてルナちゃんと別れたあと、リニアの駅で待っていたのは。


「お、来た来た今日は助かったわトモナ……いやフレアだったかしら」

「おーほっほっほ! 岐阜ぎふいちの魔力量とうたわれたわたくしを差し置くだけの働きでしたわ。トモナさん!」

G Jぐっじょぶ

「あんましやぐにたてなぐっで悪かったおしょーしだ。今日はありがとさまね。トモナちゃん」

「今日はホントに助かったわ。野良ノラのヤツにも今度サンキュってつたえといてくれ」


 それは、今日、確かにあたしまもった、一緒に戦った魔法少女達の、色とりどりのまぶしい笑顔だった。


 だから、あたしも、こたえる。



 誰にも心配させないような、今度こそ最後までつらぬく、最高の笑顔えがおで。





 終章 - 覚悟         完

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