3,汚れた水晶

そう思うと同時に嘗ての生活の断片化されたイメージが思い起こされた。

それはまるで液晶画面に映し出された「ある人物の1日の平凡な記録」と題したドキュメンタリー動画を抜き取って長い間磨かれていない手垢で薄汚れた水晶玉の中に移し替えたかの様だった。

そしてその動画のいたるところでは画質が荒く時折映像が乱れ音声にノイズがかかって破損していて、またある部分では人為的に編集され加工が施されていた。

鮮明なイメージはほとんどない。かすかに見えたとしても水晶の表面についた手垢、

主に油気の多い指紋に誤魔化されその模様を正確にとらえるのはできないことだった。この水晶玉の持ち主はズボラなんだろうと思った。

映像は頼りにならないのは分かったので音声にのみ集中することにした。

といってもその作業も決して容易いものではなかったし音声として全く形を成していないのにもかかわらずその耳に聞こえるどの単音も私の心をひどく疲れさせた。

これが実物のDVDプレイヤーを介して行うことができるならまだ楽なのだが

あくまで私の脳内のどこだかわからない場所にある水晶の場所をいちいち再確認しながらやらなければいけない作業なので余計に神経をすり減らした。

機械みたいに画像端子を抜いて音声だけで映像を視聴することができないからだ。

幸い私には時間はちぎって弄んだあと捨ててしまってもいいくらいあったので

目が疲れたらそれを言い訳に必要以上の休憩をとった。

動画のある一点 だいたい9:56秒あたりに差し掛かる度、胸が熱く疼いた。

その部分も映像は見るに堪えない散々なものだった。

黒ゴマを新聞紙の上にばらまいて液状化させたのち牛乳を適量混ぜ攪拌した

はじめからまともに書こうともしなかった落書きのような。

しかし音に注意深く耳を傾けてみるとどの場面にも貼り付けてある大量生産したノイズのなかに異物があった。音の中にある音ではない音に擬態した異なる別のなにか。

私はそれが何かは理解できなかった。現時点では私にとっても異物でそれを避けることができるならいくらでも眠りに逃げ込むことができた。










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