2,儀式と同僚

しかしながら秋めく紅葉のように風に触発され色どりを変え始めるほど

人の心は自然の摂理のような単純なものではない。

たとえ一度でも心が立ち止まることがあると再び動き出すにはある種の儀式とも言える段取りを踏まなくてはならないのだ。

まずは大地の精霊に感謝の気持ちを込めて贈り物をする。

その際に捧げものを集めるのは穢れのない15歳未満のうら若き処女でなければならない。さらにその娘子は村に伝わる女神の泉で身を清めなければならない さらに…

のような。 とても小めんどくさいことなのだ。

そんなことで動き出そうかと思ったのも束の間の話で先ほど考えたことすらあれはひょっとしたら空耳か眠気まなこに映ったただの幻ではないかと感じるほど

雰囲気に任せた戯言に思えた。

それにと思った。

「まず何をすればいいのだろう」

素直にそう感じたのでついつい口に出してしまった。私は子供の頃からそういうところがある。しかし…

私は本当に何をすればいいのだろう。

やらなければいけないこともなどひとつもない。仕事にはついていたがずいぶん前に無断欠勤したままそれっきりだ。 同僚の何人かは私のことを慕ってくれたし何人かは煙たがっていた。上司とウマが合わなかったのは私だけに言えることではないし おそらく今の苔むして動くこともろくにしない私を見たら。

口々に私に対する感想を語る同僚の姿を想像するとなんとも懐かしいような恋しいような寂しい気分になった。

ある者は私を励まし怒りをあらわにして私を奮い立たせようとしてくれるだろう。

あるいはただ情けなくて涙するだけの者もいるかもしれない。

そしてある者は軽蔑や侮蔑の言葉で冷めた目をくれ、またある者は別にあんたがどうなろうが関係ないと無関心を貫き通す。

しかし 自然とは異なった性質の温度をそのどれにも微かながら耳の内側と眼球の裏側に感じることができた。

私は儀式で言うところの「女神の泉の源泉のある洞窟の場所を掘り当てるため「神に仕える戦士」を鍛えるための学校を設立するその材料である木材を切り倒しに行く為の斧の材料である鉄を採取する為のつるはしをやがて作るであろう赤子が生まれた」という場面にようやく立つことができたのかもしれなかった。


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