第14話 おしり

 どうも皆さん、こんにちは。こっぺです!

 今日は、そらご主人様とかなたご主人様がどっちも家にいます。なので、僕は朝から構って貰ってます。

 といっても、主にそらご主人様に、ですけど。

 かなたご主人様は、今日は朝から部屋に籠って出てきません。昨日の夜、ご主人様宛に小さな小包が届いてから、ずーっと小説を書いているらしいんです。


 《おはよう、こっぺ》

 《あ、めろんおはよーっ! ねえ、かなたご主人様が部屋から出てこないけど、どうしたの?》

 《……ああ、そうね。きっと、忙しんでしょう》


 僕がギモンを口にすると、めろんはあからさまに口を濁しました。何時もなら寝てるご主人様を容赦なく起こしに行くはずなんですけど、近寄りもしません。

 むー、これは怪しいです。事件の匂いがしますよっ!


 《――待て、こっぺ》


 僕がかなたご主人様の部屋に行こうとすると、いきなりかれーが呼び止めました。さっきまでお気に入りの場所でお昼寝してたはずなんですけど、いつ起きたんでしょう?

 いや、それはともかく。

 今日のかれーは、雰囲気が違います。いつもの眠たげな雰囲気はみじんもありません。

 一体どうしたんでしょう?


 《かれー、おはよう。どうしたんですか?》

 《おはよう。こっぺ、かなたご主人様は、今日は大事な仕事をしているんだ。だから、あまり部屋に入らないでくれ》


 かれーがあまりにも真剣にいうものだから、僕は頷くしかありません。

 むー。でも、なんというか。むー。

 胸の中がもやもやします。そう、しゃくぜんとしません。でも、猫にゃんこのいう事には従わなければいけませんから。僕はすごすごと引き下がります。

 かれーは僕がリビングに引き下がったのを見届けると、かなたご主人様の部屋の前に居座りました。まるで、門番のように。

 胸に積もったもやもやが取れずに僕がカーテンに攻撃を仕掛けていると、めろんがそっと近づいて僕に頬ずりしました。


 《こっぺ。あまりかなたご主人様やかれーを悪く思わないでね》

 《……大丈夫。僕、ちゃんとわかってるから》


 本当は、なにも分かっちゃいませんけど。でも、めろんに心配をかけるわけにもいきません。だから、僕は精いっぱいの強がりを見せます。

 でも、めろんはそんなことはお見通しだとでも言うように僕を悲しい眼でちらっと見ると、僕の顔を舐めました。


 《……そうね。こっぺは強い子だから。でも、そうね。理由くらいは、話しておきましょう》

 《かなたご主人様が部屋から出てこない理由? それとも、かれーがなんだかピリピリしている理由?》

 《どっちもよ》


 めろんは僕の疑問に短く応えると、僕の隣にお座りをしました。めろんの白い毛に太陽の光が当たって、きらきらと輝いています。


 《今から二年前にね。ここから遠い土地で、大きな大きな災害があったの》

 《さいがい? えっと……》

 《分かりにくかったかしらね。たまーに来る地震の、もっと大きな感じよ》

 《あっ、分かった!》


 へー。さいがいって、とんでもなく恐ろしいんですね。一たびさいがいが来たら、世の中大変じゃないですか。

 でも、それとかなたご主人様たちと何の関係があるんでしょうか?


 《かれーはね。そこで、かなたご主人様たちに拾われたのよ》

 《ええっ!? そうなんですかっ!》


 僕の声があまりに大きかった所為でしょうか、かれーが僕たちの様子を伺いに廊下からちょっこりと顔を覗かせました。

 めろんがなんでもないわと言って尻尾を一振りすると、かれーは顔を引っ込めました。またかなたご主人様の部屋の前に戻ったんでしょう。


 《私も詳しい内容は聞いてないんだけどね。かれー、自分の事は話したがらないから》

 《あー……。かれー、ひみつしゅぎっぽいですからね》

 《そうそう。って、そんな言葉どこで覚えたの?》

 《そらご主人様が観てたあにめの中に出てきました》


 めろんがちょっとだけびっくりしています。僕は素直に、そらご主人様と一緒にてれびを観ている事を白状します。

 確か、タイトルは『虹鋼のゲドリアス』でした。それを告げると、めろんは納得したようです。めろんもたまーに観てますからね、あれ。

 かなたご主人様のが書いた作品らしいですよ。かなたご主人様は意地でも見ませんけど。

 出てくる人達の喋る言葉が難しすぎて、仔にゃんこの僕にはちっともわかりませんでしたよ。にゃんこのめろんは理解できてたみたいです。

 それはさておき。


 《まったくもう。後でご主人様に言っておかないと。仔にゃんこには刺激の強い場面だってあるんだから》

 《良いじゃないですかっ! あにめくらい見てもっ! それよりも――》

 《はいはい、そうね。で、昨日の夜届いた小包は、災害があった土地の写真らしいのよ》

 《はあ。写真、ですか》


 写真は知ってますよ。あの、薄ーいぺらぺらした紙に人や物が入り込んでるあれでしょ。

 でも、大きなさいがいのあった場所を撮った写真って、何が写ってるんでしょう?

 そう思ってると、遠くの方でガチャリと扉が開く音がしました。この引きずるような足音から察するに、きっとかなたご主人様でしょう。多分、おそらく、めいびー。


 「あー、流石に疲れた。おはよう、天」

 「おはよう、奏太。それにお疲れ様。かれーも、ご苦労様ね」

 《なんてことない。それが俺の役割だからな》


 見るからに疲れ切っているかなたご主人様が、メガネをかけたままソファにぐだーっと倒れこみます。ちゃんと外さないと、危ないですよっ!

 緩慢な動きで眼鏡を外したかなたご主人様は、ソファに置いてあるクッションを枕にうつ伏せになっています。すっごく眠そうにしていて、そらご主人様はかなたご主人様の頭をよしよしと撫でています。

 ええと、昨日の夜から数えてみると、十時間以上でしょうか。そりゃあ眠くもなりますよね。

 

 僕とめろんとかれーは一斉にかなたご主人様の背中に乗り込みました。

 もちろん、かなたご主人様をねぎらう為です。他意はありませんよ。

 かれーは背中、めろんは腰、僕はお尻。かなたご主人様のお尻は、そらご主人様のと違って少し硬いです。

 ふみふみ、ふみふみ。……あ、ちょっと楽しい。


 「奏太、ご飯はどう――あらら。寝ちゃったか」

 《無理もない。昨日の夜からずっと頑張っていたからな》

 《まあ、今日はゆっくり寝かせて上げましょう》


 いつの間にか、かなたご主人様は眠っていました。きっと、相当疲れていたんでしょう。三人の言う通り、今日は邪魔しないであげます。僕はゆうしゅーな仔にゃんこですから。

 そらご主人様が自分の部屋から毛布を持ってきて、かなたご主人様に掛けます。


 「さってと。奏太も寝ちゃったし、私は洗濯物干さなきゃね」


 そう言って、そらご主人様は立ち上がります。かれーとめろんはどうするんでしょう?


 《――俺も、今日は看板だな》

 《私は日向ぼっこでもしようかしら》


 二人とも、今日はゆっくりするみたいです。なので、僕も今から二度寝することにします。偶にはこんな日があってもいいですよね。

 それじゃ、おやすみなさーいっ!




 《って、僕のもやもや何にも解決してませんでした!》

 《あ、それは次回よ》

 《――面白い話じゃない。期待はするなよ》


 ええっ!?

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