第13話 せなか

 どうも皆さん、こっぺです。はあ、やだなー。

 ああ、今日はですね、病院の日なんです。

 病院には良いいめーじが一切ありません。僕、病気にもなってないし怪我もしていないんですけど、一体何が理由で行くんでしょうか?

 やだなー。またにがーいお薬を飲ませられるんでしょうか。それとも、細ーい針を体に刺されるんでしょうか。どっちも嫌です、嫌いです。


 《――こっぺ、どうしてそんなに落ち込む》

 《あ、かれー。だって、今日は病院なんですよ。僕、健康なのに》

 《そうだな。だが、お前がきちんと育っているか、飼い主であるご主人様は確認する必要がある》


 うう、そうでした。ご主人様は僕の中に悪ーい菌とか虫とかがいないか、確認しなくちゃいけないんですよね。他のにゃんこに病気を移さないためにも、必要なことなんです。

 だけど、やだなー。行きたくないなー。


 《大丈夫よ。今日は体重の確認だけって、そらご主人様が言っていたから》

 《本当?》

 《ええ。それに、前に病院に行った時に、大丈夫だってお医者様も言っていたでしょう? だから、今日も大丈夫よ》


 めろんに励まされた僕はしぶしぶけーじに入って、体を丸めます。

 ……はあ、いやだなー。


 「よし、車の鍵持った。財布持った、鞄持った!」

 「家の鍵閉めたっと。それじゃあ奏太、運転よろしくねっ!」


 僕たちはマンションを出て、駐車場に向かいます。奏太ご主人様の車、白くてごつくてカッコいいんですよ。中古らしいんですけど、ピカピカなんです。

 ガタゴト揺られて、十分くらいでしょーか。かなたご主人様が車のドアを開けます。僕が入っているかごは、そらご主人様が持っています。


 「すいませーん。11時に予約した鷹匠です」

 「ああ、お待ちしておりました。今日は奥様も一緒なんですね」

 「あ、どうもー」


 ……あれ?

 2人ってまだ結婚してないはずじゃ?


 《――こっぺ。何考えてるかわかるぞ?》


 わあっ! あっという間にかれーにばれてしまいました。何ででしょーか?

 もしかして僕、そうとう分かりやすい性格してます?


 そうこうしてるうちに、僕たちの入ったけーじが診察台の上に置かれました。最初に診てもらうのは、かれーのようです。

 かれーはのっそりとけーじから出てくると、白い服をきたお兄さんの前でお座りをしました。

 ……これが、猫にゃんこの風格ってやつなんでしょうかっ!?


 「体重は、問題ないですね。それじゃ、お口の中見るよー。カレー君、口開けてー?」


 白衣を着たお医者さんが促すと、かれーは大人しく口を開けました。


 「……問題ないですね。前に来た時は風邪ひいてましたけど、もうくしゃみとかもしないですか?」

 「ええ。今はすっかり落ち着いて、窓際でいつも通り寝てますね」


 口の中を見ながらお医者さんは灰色の板に貼られた紙に何かを書いています。後で聞いたんですが、あれはカルテって言うらしいんです。


 「口の中も腫れてませんから、もう大丈夫でしょう」

 「はあ~っ、良かったー! かれーは風邪引くの初めてだったから、心配だったんですよ!」


 そらご主人様の喜び方、はんぱないですよ。かなたご主人様も、どこかホッとした表情です。

 さあ、次はめろんの番。めろんは優雅にケージから出てくると、診察台の上にお座りをしました。うう、めろんも落ち着いてます。


 「あー、メロンちゃんも問題なさそうですね。毛並みも綺麗ですし、至って健康ですね」

 「そうですか。……よかったな、めろん。お前健康だってさ」

 《普段から体調には気を遣ってますから、当然ですね。でも、よかったわ》


 かなたご主人様に顎の下を撫でられているめろん、とっても気持ちよさそうです。

 さあ、最後は僕の番なんですよね。あんまり出たくはないですけど、皆に心配させたくありませんから。

 僕は思い切ってケージから出ると、かれーやめろんがしたようにお座りをします。


 「おお、まだ子猫なのに偉いねー。じゃあ、ちょっと触るよー」


 そう言って、お医者さんが僕の顔ちょいちょいっと撫でます。うう、くすぐったい。でも、ここは我慢です。その後もお医者さんは体のあちこちを触ってきますけど、僕は動かないように足に力を入れました。


 「うん、大丈夫そうだね。じゃあ、コッペ君。お口開けてくれるかなー?」

 「ほら、こっぺ。口あけようか」


 お医者さんとかなたご主人様が僕の目の前で大きく口を開けました。真似すればいいんでしょうか?

 僕が口を開けると、お医者さんがすかさず口の中を覗き見ます。

 だ、大丈夫でしょうか。また、チクッてされちゃうんでしょうか。


 「うん、大丈夫だね。コッペ君も問題ないようです」

 「ふーっ、良かった。一先ずは安心、だね?」


 鞄を抱きしめて緊張していたそらご主人様が一気に脱力しました。

 その後、僕はケージに戻され、二人のご主人様がお医者さんと話し合った後、僕たちはお家に戻りました。


 「ただいまー。うわっ、寒い! ヒーター点けよっか」

 「ただいま。ほら皆、帰って来たぞー」


 玄関を開けたそらご主人様が、かれーの入ったケージをリビングに降ろして鍵を開けた後、えあこんのスイッチを入れます。途端に暖かい風が部屋中に行き渡りました。

 僕たちの入ったケージも床に降ろされます。僕は安全確認の為にそろそろーっと出ます。右よし、左よし、正面よし。

 僕はリビングの椅子に座って寛ぐかなたご主人様の背中にかけ上ると思いっきりしがみつきます。


 「いてて、なんだ? どうした?」

 「久しぶりの病院だったし、緊張したんでしょ。まだ子猫だから、甘えたいんじゃない?」


 そうです。そらご主人様の言う通り、僕は甘えたいんです。

 今日は朝からご主人様たちにも、かれーやめろんにも甘えられませんでしたから。どこかで補給しないといけねいんです!

 今日の補給ぽいんとは、かなたご主人様の背中です。


 《……そのまま寝るなよ?》

 《ね、寝ませんよっ!》

 《どうだか。あなた、今日は朝から興奮してたでしょう?》


 うう、確かにめろんの言った事は正解です。

 けど、ご主人様の背中でなんて寝ませんよーっ! 爪を引っかけなくちゃいけないし、寝づらいですからね。

 かれーとめろんがその後も揶揄ってきますけど、もういいです。僕はこのまま、気が済むまでかなたご主人様と一緒に居ます。

 皆さん、またどこかでお会いしましょう。

 それじゃ、おしまいっ!

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