第11話 おてて

 今日も今日とてこんにちは、こっぺです!

 さっそくですが、そらご主人様の部屋に遊びに行きましょー。

 今日はそらご主人様がお休みの日なので、一日中のんびりしています。というのも、かなたご主人様が家事を変わってくれているんです。ご飯を作ったり、お皿を洗ったり。洗濯して干したり、部屋中を掃除したり。

 かなたご主人様の邪魔になってはいけないという事で、本当は男子きんせーなのですが、特別にごしょーたいされました。

 あ、かれーは今、かなたご主人様の掃除してる机の上で丸くなってます。


 「ふいー。といっても、なーんにも無いんだけどね」


 そらご主人様はそういいながらも、椅子に座って机の上に置いてあるノートパソコンを開きます。かなたご主人様のと違って、白いパソコン。最近買ったばかりの新しいヤツで、かれーいわく『いんてるこあi11』が入っているそうです。

 いんてる、入ってるんですね。それがどんなものなのか知らないんですけど。


 「あ、これ。めろんが拾われた時の画像だね」


 そらご主人様がそう言って、パソコンの画面を見つめます。めろんが拾われてきた頃という事は、僕と同じ仔にゃんこだったという事でしょーか。これは確認せずにはいられませんよ!

 僕がそらご主人様のお膝の上にジャンプしようとすると、めろんが凄く威嚇してきました。


 《こら、こっぺ! あなたは見ちゃ駄目よっ!》

 《なんでー!? 僕、仔にゃんこのめろん見てみたい!》

 《駄目だったら! 私にだって、見せたくないものの一つや二つあるのっ。察しなさいな!》


 シャーッと怖い顔で、パンチする態勢になるめろんに、僕はどうすることもできません。だって、仔にゃんことにゃんこの体格は全然違いますし、力の差だって歴然です。知能だってにゃんこの方が数倍も上ですし。うう、それでも見たい……。

 諦めようとしていたその時、そらご主人様が僕を抱き上げて膝の上に乗せました。


 《ああっ! ちょっと、ご主人様!》

 「ほーら、こっぺ。これ、めろんがまだ小っちゃかった頃だよ。今のキミと比べてどう?」


 めろんの非難の声を押し殺して、そらご主人様は抱っこした僕を画面に近づけます。

 画面の中のめろんは、拾われた頃の僕よりもずっと小さくて、そしてとても汚れていました。


 《ああもうっ! だから見せたくなかったのに!》

 《……》

 「あれ、こっぺ? いきなり見せたから、びっくりしちゃったかな?」


 ええもう。ビックリですよ。

 初めて自己紹介した時、めろんは自分の事を二人のご主人様に飼われているにゃんこ、とだけ言いました。僕はそれを勝手に、生まれた時からずっとこの家にいると解釈していたのです。でも、現実はちょっと違ったんですね。

 画面の中にいるめろんはとても小さくて、まだへその緒も取れていないようでした。そのうえ、白い毛が泥にまみれて黒と灰色のマーブル模様になっています。金色と青の綺麗な瞳は、まだ開いていませんでした。


 「めろんはねー、この近くの雑木林で捨てられてたんだ。ちっさいビニール袋に毛布と一緒にね。あんまり可哀想だから、私が拾ってきちゃったんだ」


 そうだったんですね。


 「最初は黒い猫だと思ってたから、洗ってみてびっくりしたよ。まさか白い猫だったなんてね。今でこそこんなに大きくなったけど、昔は心配だったなー」


 僕の背中を優しくなでながら、そらご主人様は滔々と呟きます。いつの間にか、めろんも膝の上に登っていました。めろんは画面を見つめながら、悲しそうに言います。


 《……私の近くにね、兄妹もいたの。でも、そっちはもう駄目だったから。ご主人様たちが、まだ息がある私を病院に連れて行ってくれたのよ》

 《そう、だったんですか》


 もう駄目だった、ってきっと、そういう事なんでしょう。たくさんの命を生み、育てる自然界ですけど、時に小さな命に牙を剥くことだってあります。それが、僕たちにとっての普通、なんですよね。僕はお家で飼われている仔にゃんこですけど、それでも本能は残っていますし。


 《でもね、こっぺ。私が幸運ラッキーだったのは、二人の優しいご主人様に拾われたことよ》

 《幸運ラッキーですか? こんなに、悲しい目にあったのに?》

 《ええ。悲しい目にあったわね。でも、それでも。私には自分の居場所がある。ご飯が食べられて、安心して寝られる。叱ってくれる、心配してくれる存在がある。そして、大切ながいる》


 そう言って、めろんは僕の顔を舐めます。その力はいつもより少しだけ強くて、でも心の底から温かい気持ちになりました。


 《それは、とっても幸運ラッキーなことなのよ》

 「んー? 猫だけで何話してるのー? もしかして、私と奏太の愚痴ー?」


 めろんはそう締めくくると、そらご主人さまの膝の上で丸くなりました。きっと恥ずかしいから逃げたんでしょう。いや、そこは真面目に行きましょうよ。にゃんこらしく!

 僕がめろんに話しかけようとすると、突然そらご主人様が割り込んできました。

 うりうりー、とめろんを撫でるその手はとっても大きくて、温かくて。もちろん、かなたご主人様の方が手は大きいんですけど。


 仕方が無いので、僕もそらご主人様の膝の上で眠る事にしました。

 そらご主人様がひじょーに困ってますけど、今はめろんと眠りたい気分なんです、許してー?

 僕は自分の生き別れの母親と兄弟に思いを馳せながら、瞼を閉じるのでした。

 それじゃ、おやすみなさーい!

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