第10話 うで
どうも皆さん、こっぺです。早速ですが、事件です。
お外が真っ白ですよーっ!
窓の外、ビックリするぐらい真っ白です。空から降って来た白くて小さいヤツが、積もりに積もって何もかも覆っちゃいました。
ベランダも真っ白。あったかい部屋の中からじゃ分かりませんけど、きっとこの建物の外も真っ白に違いありません。これ、なんでしょー?
「おはようこっぺ。そうか、雪を見るのは初めてか」
「そうね。拾ってきた時はまだ雪なんて降ってなかったし」
雪?
この白いふわふわしたヤツ、雪って言うらしいです。皆さん知ってました?
どんな味がするんでしょう、美味しいのかな。僕は炬燵からぴょんと飛び降りて窓際まで歩いていきます。
窓に手をついて、って寒ぅ!! さーさささ、寒い冷たい!!
何ですか、いつもはひやっとするぐらいの窓が、今日はバカに冷たいです。もう、触った瞬間にひゃーんって。ひゃーんってしました。
《冷たいですよーっ!》
《あらあら、何やってるのよ》
《……外が雪の日は、みんな冷たい》
僕は一目散に窓から逃げてかれーとめろんの所に向かいます。僕が両手をばんざいして見せると、かれーは僕の腕を背中に乗せました。黒い毛に包まれたかれーの背中は温かくて、すぐに冷たいのは去っていきました。
めろんお姉ちゃんは炬燵の掛け布団の上で、僕を呆れた目で見ています。むー、だって興味あったんだもん。
「いやー、寒いと思ったら雪か。どうりで」
「ね。結構積もってるねー」
あ、ご主人様たちが起きてきました。今日の服装は……まだパジャマから着替えてないんですね。因みに、かなたご主人様は青と白の、ご主人様はピンクと白のちぇっく模様のパジャマです。
あれ、寒くないんでしょーか?
「こっぺ、雪は初めてなんじゃない? ほら、雪だよー」
不意に、そらご主人様が僕を抱きかかえます。
そらご主人様の腕の中から見える外の世界は、一面真っ白でした。真っ白の世界に、灰色の筋が格子状に伸びています。あれ、もしかしなくても道路でしょーか。
あっ! あの遠くに見える高ーい建物、僕知ってますよ。東京スカイツリーって言うんでしょ。今はもう役目を終えて、かんこーめいしょになってますけど。
《ほう、本当に真っ白だな》
《あ、かれーお兄ちゃん》
隣から声がしました。珍しく、かれーお兄ちゃんがかなたご主人様に抱きかかえられて外の世界を眺めています。
《かれーお兄ちゃん。雪って、冷たいの?》
《……ああ、冷たい。だが、ニンゲンの子供はどうしてか、雪を喜ぶ。そして大人は、雪が降ると迷惑そうだ》
かれーは懐かしいモノを見るように空から降り続ける雪を眺めています。そう言えば、かれーは僕よりももっと前に拾われてきたんですよね。かれー自身があまりその事を話したがらないので、あまり詳しくは無いんですけど。
でも、子供や大人を知っているってことは、多分ですけど前に飼われていた人たちを覚えているんじゃないんでしょーか。
《かれーお兄ちゃん。そのー……》
《駄目よ、こっぺ》
僕を止めたのは、かなたご主人様の足元で丸くなっているめろんでした。
めろんは片目だけを開けて、僕を制止します。
《殿方には、秘密の一つや二つぐらい、あるものよ。むやみに詮索するんじゃないの》
《……》
《……気にするな、こっぺ。だが、そうだな。昔の俺を知るには、今はまだ若すぎる》
黙り込む僕に、かれーはそう言うと大きくあくびをします。そして、それからこう続けました。
《――確かに、俺の過去は明かせない。が、それはお前がおやつを盗み食いしてるとか、そんな類のものだ。あまり期待しても無駄だ》
《ええっ!? ぼ、僕、そんな事してないよっ》
《あら、隠しても無駄よ。夜、ご主人様が寝た後にがさごそしてるのを知ってるんだから》
な、ななな、なーっ! まさかバレてるなんて思いませんでしたっ!
ちゃんと皆が寝たのを確認してから食べてるのに、どうして知っているんでしょう。まさか、かれーとめろんは起きてたんでしょうか?
そらご主人様の腕の中で固まる僕に、かれーは事も無げに言いました。
《……お前は少し、分かりやすすぎる。もう少し隠密性を高めないと、立派なにゃんこになれないぞ》
《まあでも、一人で得物を獲れるようになったのなら、大きな進歩よ。皆が通る道なのだから、恥ずかしがることなんてないわ》
めろんお姉ちゃんの慰めも、余り耳に入りません。
恥ずかしさのあまり、顔から火が出そうです。今日、雪が降っていて助かりましたよ。
仕方がありません。今度獲る時は、絶対に上手くやって見せると胸に誓って、僕はこのままふて寝を決めることにします。
かれーとめろんが含み笑いをしているのに気付かない振りをして、僕はそらご主人様の腕の中で丸くなりました。
おやすみなさーい♪
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