第9話 おなか

 皆さんこんにちは、こっぺです!

 前の話はめろんお姉ちゃんでしたが、今日からはいつも通り僕がたんとーしますよ。

 今日は、かなたご主人様のお仕事がお休みです。といっても、本当にお休みの日じゃありません。筆が乗らないので、自主休暇を取ったらしいですよ。

 そらご主人様は仕事に行っているというのに! これがいわゆる、伝説のヒモってやつですね!


 《ご主人様、最低ね。見損なったわ》

 《……最低だな。男気がない》

 「ぶぁっくしょーん!! ――なんだ、誰か噂してんのか?」


 かなたご主人様はソファに寝っ転がって、何かの黒い機械を左耳にくっつけています。コペルニクスと言うらしいですよ、この機械。さっきかなたご主人様が自慢げに説明してくれましたけど、全く意味が分かりませんでした。

 えっと、えっと。ご主人様ののーはを読みとって、手助けをしてくれる機械、らしいです。


 《人間の作るモノって、よく分からないわね》


 まったくです。

 ぼくは思いっきり助走をつけて、かなたご主人様のお腹の上に駆けあがります。前よりも少しだけ体が大きくなったので、今は高い所に上るのだってへっちゃらです。

 かなたご主人様はぐえっと蛙が潰れた時の様な声を上げて体をくの字に折ります。むふー。かなたご主人様のお腹って、てきどに固くて適度に温かいんですよ。


 「こ、こっぺ。俺ちょっと作業してるの。だから、降りてくれない?」


 やですよ、あったかいですし。今日のかなたご主人様の服はもっふもふのせーたーです。いい感じに爪が引っかかってくれるので、ご主人様が急に立ち上がっても安心です。


 「ふわー寒い! さむさむ寒いよお。ただいまめろん、それにかれーも。あれ、こっぺは?」

 「こっぺなら俺のお腹の上。お帰り、天」

 「ただいま、奏太」


 真っ白いもこもこのコートを着込んだそらご主人様が、ドアを開けるなり靴を脱ぎ捨て、リビングにぱたぱたと駆け込んできました。

 寒さで耳と指先が真っ赤になっています。さっきから窓ががたがた鳴っていますし、お外は相当風が強いんでしょう。


 《ご主人様、ほら、私があっためてあげる》

 《あっ! 僕も行くー》

 「ぐえっ! おいこらこっぺ、お前はほんと最近重くなったな」


 かなたご主人様のお腹を蹴ってぴょーんと床に飛び降りると、僕は一目散にそらご主人様のところに向かいます。めろんお姉ちゃんが体ぜんたいを使ってそらご主人様の指を温めています。

 僕はどうしよう……? 迷ったあげく、僕はそらご主人様の足に頭を擦りつけました。あったまるといいなー。


 「きゃー! うちの子、超可愛い。ってあれ、かれーは?」

 「かれーは俺のお腹の上。こっぺと入れ違いで乗っかってきた」


 なんと。かれーお兄ちゃんはさっきまで僕がいた場所で丸まってました。やっぱり、かなたご主人様のお腹は僕たちにとってちょうどいいんでしょーか。心なしか、満足そうにしています。

 そらご主人様はテーブルの上に鞄とコートを置くと、かなたご主人様の耳を指さします。


 「どう? 進捗あった?」

 「全然だめだ。昨日提出した原稿、全部手直しだって。今は取り敢えず、色々直しながら新しい作品のプロットを書いてる」

 「へー。あ、コペルニクスに保存してあるの?」


 かなたご主人様はお腹の上のかれーをどかして立ち上がると、キッチンに行ってカップを取り出します。その間に、そらご主人様はコートをハンガーにかけて、リビングの椅子に腰かけました。

 かなたご主人様はこげ茶色の粉をカップに入れて、お湯を注ぐとそらご主人様に手渡します。あの粉、ここあって言うんですよ。僕は舐めた事ありませんけど、そらご主人様はおいしいって言ってました。

 きっと、鰹節みたいな味がするんでしょーねー。


 「ちょっと見ていい?」

 「ああ。はいこれ」


 かなたご主人様は《コペルニクス》をそらご主人様に渡します。そらご主人様は左耳に付けると、そのまま机に肘を乗せた体勢でじっと固まってしまいました。二人とも、あれを弄っている時はあんな風になっちゃうんですよね。


 「……あ、あった。なーんか、面白そうだね」

 「だろ? 因みにタイトルは、《僕たちには神様なんて早すぎます》」

 「なーんか、面白くなさそーだね」

 「反応が違い過ぎやしませんかね、数秒前と。その落差、エンジェルフォールかよ」


 そらご主人様の反応に呆れながらも、かなたご主人様は何故か楽しそうにしています。あれえ?


 《……こっぺ。あれは、ニンゲンのコミュニケーションの一つだ》

 《あ、かれー。えっと、あれが?》

 《そうだ。人のつがいは、時にああやって愛情を確かめ合う》


 へー、そうなんですか。じゃあ、僕がかれーとめろんに甘えるのと一緒ですね!

 僕はソファで日向ぼっこを続けるかれーの所に行って、頬ずりをします。かれーの毛は真っ黒だから、太陽の光を浴びるとずうっとあったかいんです。


 二人のご主人様は、その後も他愛ない話で盛り上がっていました。ここあの入ったカップを片手に笑いあう二人は、とっても幸せそうに見えました。


 おしまい

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