第7話 かた

 皆さんこんにちは。僕は仔にゃんこのこっぺです。

 僕は今、そらご主人様の方の上にいます。かなたご主人様よりも小さくて、ばらんすを取るのがちょっと難しいです。おっとっと。

 今日は、そらご主人様は一日お休みらしいです。最近忙しかったらしいですからねー。なんでも、近くのすーぱーっていう建物が潰れて、今までそこで買い物をしていた人たちが一斉にご主人様のいる建物にさっとうしてきたんだそう。

 ここ一週間ぐらい、かなたご主人様がお夕飯を作ってました。二人とも『りょーり』は上手いらしいですけど、僕はそらご主人様の作る『りょーり』の方が良いです。優しい匂いがしますから。


 そんな訳で、僕たちがそらご主人様をいやす役目を買って出ました。

 めろんお姉ちゃんは、ご主人様の膝の上に載ってごろごろと喉を鳴らしています。めろんお姉ちゃんを撫でる、そらご主人様の手つき!

 うらやましいですよ、後で僕もやってもらいましょう。でも、それよりも僕はご主人様の肩に用があるんです。

 かなたご主人様いわく、凝り固まって岩石の如くと化した肩に、僕はいま挑もうとしているのです!


 ふみふみ、もみもみ。

 僕は床でうつ伏せになったそらご主人様の上を歩きます。めろんお姉ちゃんは背中、かれーお兄ちゃんは腰。

 お客さん、こってますねー。がちがちに固まって、まったく動きませんよ。ぴょんぴょん跳ねてみたり、ぐるぐる回ってみたりするんだけれど、まったく効果がありません。

 でも、そらご主人様は違うようです。


 「あー、良いよこっぺ。丁度いい圧力だね。めろんとかれーはそのまま、そのまま」


 うー、と小さなうめき声をあげながら気持ちよさそうに目を閉じるそらご主人様を見てると、なんだか嬉しくなっちゃいます。

 これが、じあいの心ってやつでしょーか? きっとそうなんでしょう。


 「ただいまー。あ゛ー、疲れた」


 あ、かなたご主人様が帰ってきました。今日は、すたじおって所に行ってきたらしいんです。かなたご主人様の書いている小説がになるそうなんです。企画段階って、この間会ったへんしゅーさんは言ってました。たしか、さくらばって言ってました。男の人です。

 でも、この話はそらご主人様にはしていません。僕たち猫と、かなたご主人様だけの秘密なんです。こーいうの、さぷらいずって言うんでしたっけ?


 それはともかく。かなたご主人様も、ここ最近は外にお仕事に行ってます。

 でも、帰ってきてそうそうご飯を作り始めるあたり、しゅふ力が高いですよ。さすが、そらご主人様のつがいです。……なんで結婚しないんでしょうか?


 《それはな。かなたの収入が安定してないからだ》

 《あ、かれーお兄ちゃん。しゅーにゅーってなあに?》


 僕がそらご主人様の服をかじかじしていると、かれーが小さく呟きました。


 《収入というのは、獲物の数だ。今日、俺がゴキブリを何匹捕まえたとか、そういうの》

 《へー。じゃあ、数が多ければ多いほど良いの?》

 《ああ。だが、かなたはまだ新人でこれからどうなるか分からない。だから、軌道に乗るまで結婚はしないと、そう決めているらしい》


 ……そんな理由があったんですね。ぜんぜん知りませんでした。

 でも、それっていい事なんでしょうか? 僕からしてみれば、早いうちにつがいと子を作っちゃったほうが早いと思うんですけど。


 《まあ、ニンゲン社会はいろいろあるのよ》

 《あ、めろんおねーちゃん。そらご主人様の腰は、もう良いの?》

 《ええ。だって、ほら》


 あれっ。そらご主人様、寝ちゃいました。僕たちのまっさーじが気持ちよかったんでしょうか。うつ伏せのまま、すやすやと寝息をたてています。僕たちの夢でも見てくれてたりして。


 「――ぅーん、奏太~。……ぅへへぇー」


 あっ、これ違いますね。どうやら、お相手はかなたご主人様のようです。

 夢でも二人一緒とは、おそれいりますよ。どれだけお熱なんですか。僕でもそんな夢見ませんけどね。

 最近見た夢は、僕のお母さんがたくさんのご馳走を獲ってきてくれた夢でした。僕の兄弟もいて、夢だったけど楽しかったなー。


 さて、ここであらたな事実がふじょーします。そらご主人様が寝ているということは、かなたご主人様の作ってるご飯が余る訳ですね。今日のご飯はなんでしょうか?


 「できたぞー。……ありゃ、寝てるし」


 そらご主人様が、お皿をテーブルに並べます。――おっ、お魚ですよ!

 ホッケでしょうか、アジでしょうか。それともシャケでしょうか?


 「今日のお昼ご飯は、ブリの西京焼きだ。ご飯のお供には最強だな。さいきょうだけに」

 《ご主人さま、そういうの要らない》

 「なんだ、欲しいのか。これは猫にはしょっぱすぎるから、絶対だめだぞー」


 かなたご主人様の渾身のボケに、めろんおねーちゃんがツッコミます。

 手を出そうとする僕たち三人を止めながら、かなたご主人様は一人黙々と食べ進めます。いつもそらご主人様と一緒に食べているので、ちょっと意外です。

 五分と掛からずに食事を終えたかなたご主人様は、そらご主人様の分のお皿を冷蔵庫に仕舞うと、ちゃっちゃと食器を洗って片付けます。


 手を拭いてキッチンからリビングに移動すると、未だに寝ているそらご主人様を横抱きにして寝室へと向かいました。僕たちも、ご主人様の後に続きます。きっと、一緒にお昼寝をするんでしょう。


 お布団の上にそらご主人様をそっと降ろして、自分も横になると毛布を掛けます。僕たち三人はいつもの位置に。かれーはご主人様たちの足の間。めろんはかなたお腹の上。僕はそらご主人様の顔の近く。


 「ま、こんな日もあるだろう。今日の我が家はこれで看板だ。鍵も閉めたし、電気も消した。お休みー」


 そう言うと、かなたご主人様はそらご主人様に抱き着ついて目を閉じます。すこし間があって、そらご主人様もきゅっと抱きしめます。かくじつに起きてますよね、そらご主人様。


 《無粋なこと言わないの。ほら、寝るわよ》

 《はーい》


 めろんお姉ちゃんに促されて、僕も目を閉じます。僕の予感ですが、きっと良い夢が見られるでしょう。

 それじゃ。お休みなさーい♪

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