18.結果が全ての世の中でも ①/神685-5(Imt)-7

 五月もいつの間に一週間が過ぎてしまい、二週目に入る。

 商人の遺体の件は流石にここではわからないらしくて、諸々の確認はとりあえずレインにお願いした。


 ただエルフの慣習上で遺体は基本、土に埋めると言っていた。

 既にどこかに埋められているかもしれないが、状況が状況だったのもある。

 誰かが村の方まで確認しにいって、状況を伝える必要があった。


 レイン以外で監視団の他の人たちでも良かっただろうけど、問題なのは村の方。

 正確には、状況を知らない監視団の面々が行ってはヤブヘビになる可能性がある。

 そんなわけで今、レインは村の方に行っていて今日の午後に帰る予定だ。


 そして、この村でやらないといけなかった仕事が一段落した私は、監視団の中で簡単な仕事を手伝いながら自分の考えを整理していた。

 降神の場では私が平常心を失ったため、思考すらまともに回せなかっのもある。

 なのでこの三日間、自分の考えを紙にも書きながら少しずつ整理していた。


「問題が複雑になった時は、最初から順を追ってたどるのが一番だ」


 この世界が求めたのは私……いや、異世界人。

 求めた条件は、色々言ってたけど要はが欲しかったのだ。

 異世界を夢見た人だという前提があるけど、些細なことである。

 夢見るほど異世界に憧れたということは、つまりそれだけの情報があったこと。

 その情報はこの世界では現実リアルの常識になれるから、求めるのは一緒だ。


 ただ、その目的までは明かされてないらしい。

 でも明かされてないにしては、それを聞き出すまでの条件は具体的だった。

 考えを読める神である以上、私がぶつけようとした疑問は予め知っていたはず。

 求めたのが正しくそれだったのも無関係ではないだろう。


 恐らくだがイミテーにはある程度、見当が付いているのだと思う。

 いや、これに関してはフォレストも同じではないだろうが。

 ただ、あくまでも証拠なき可能性の話に過ぎないから言わない。


 その可能性が八割を超えてるとしても、百パーセントではない。

 だからフォレストは知らないと言った。

 イミテーはそれに自信を持っていたため、そういう言い方をしたのだろう。

 あるいはイミテーはほぼ全てを知っているというのも考えられる。

 私がどれほど気に入らなくても、探求の神と呼ばれる神だから。


 ならば、私の疑問二つと条件はその目的に繋がるヒントと考えよう。

 そこで、それらを一度整理してみるとこうなる。


① 私個人ではなく条件付き(現実的な人)で異世界人が呼ばれた

② 《選ばれた種族》とは神が人間を呼ぶ呼称、絶対神に選ばれた。

③ この世界の在り方について、疑問を抱くことが答えを聞く資格。


 ①に関しては、そうだろうと前々から思ってた。

 あの日は少し興奮しすぎたけど、既に疑問に思ってたしな。

 ただ②と③に関しては、これが真実として明らかになったのは大きい。


 求めた人物像と、この世界の在り方に疑問を持つという資格条件。

 最後に《選ばれた種族》。

 この選ばれた種族を選んだのも私を呼んだのも同じ神であることは意味深だ。

 ここまで来れば、私が呼ばれた理由に対してもある程度の予想ができる。

 でも、これらの情報が指し示している理由は――


「――どちらにしても、私には荷が重くないか?」


 ここまでは結構、早い段階でたどり着いたのだが、その先がわからない。

 わからないというか、真意を測りかねていた。

 一つ確かなのは私に第三者としての何かを求めてるということ。

 それもこの世界の絶対者と言える神からだ。


 そして恐らく求めてるのは、この世界のあり方そのもの。

 もちろん、これらに関する私の答えは既に出ていると言ってもいい。

 でも、本当にあの神が求めるのがそれなら、私はまだ知らないものが多すぎる。

 結論を出すのは早急と言えるだろう。


 ただ、どちらにしてもこの都市に長く居座るのは得策ではなさそうだ。

 エルフだって、見たところと言えばフリュード村だけ。

 この辺りは――エレミアにでも一回聞いてみるか。

 それともう一度、イミテーに会っておきたい。


「――何をそんな真剣に悩んでいるんだ?」


「うん――? あ、レイン、戻ってきたのか」


 声が聞こえた方に視線を向けてみると、そこにはいつの間にレインが戻っていた。

 何故かため息混じりでこちらを見ている。


「戻ってきたのか、ではない。何回呼んだと思ってるんだ」


「ああ、済まない。これからのことで少しな、ここ三日間はずっとなんだが」


「……そこまで悩むようなものなのか?」


「違うんだよ、悩むことしか出来ないってのが正しい」


 暇を見ては魔力周りの練習もしてるけど、そもそも見られるほどの適応力がない。

 これを私の思い通りに動かすのは、相当な時間を有するだろう。

 ――やはり、エリアが言ってたもう一つの手段の方を練習したほうが良さそうだ。


 まあ、要するに私は私自身が無力だというのを知っている。

 色々とこの村の人間とも触れあってみたいけど、監視団の服を着ているんだ。

 いくら私が人間といえど普通の人間として見てはくれないだろう。

 私だけならば、適当な服を着て動くという手も、無くはないのなが――

 私一人で動くのはみんなが許可してくれない。


 そうなると、やれることはこうやって悩むことくらいだ。

 情報収集自体は、私よりも監視団の人たちが上手いだろうし。


「はあ、難儀なものだな、その理屈っぽい性格は」


「そんなに理屈っぽいか……?」


「そう何日も悩むくらいなら、私は体を動かす」


「私は一人で動けないじゃないか。

 監視団として情報を集めるのは私より他が適任だろうし」


「その問題があったか――ふむ、でもそうか、一人、か」


 そこまで聞いては何故か悩み始めるレイン。

 もしかして、何かいい方法があるのか?

 気になってレインの答えを待つと、レインは一度軽く頷いてから語る。

 ただ話すのは別の内容――どちらかというと本来の目的のほうだった。


「まあ、それは後に話そう。

 それよりも遺体の件だが無事に終わった、近日中に棺が届くだろう。

 死体の冷却処置を済んでるから、その後は遺族に任せることになった」


「思ったよりすんなり行ったな?」


「お前の一件があったからな。あちらもどうするべきか悩んでたようだ」


「私?」


「君の意見を聞くまでは遺体を保管することになってたらしい。

 結局、お前は他のエルフに顔すら見せず村を去ったからな」


「――それはまた、殊勝なことだな」


 事が上手く言ったのに、口から出るのは皮肉交じりの言葉。

 我ながら本当に面倒くさい性格だ。

 これを聞いたレインまでもが苦笑いで返してきた。


「気持ちはわからんでもないが……別に村のエルフも悪人というわけではない」


「わかっては、いる」


 頭ではわかっていても、胸で受け止めるのとは別問題だ。

 正しいことだけやれるなら、人間がここまで多様な生き方をしていないだろう。


 ただ、それをレインにぶつけるわけにもいかない。

 なので静かに立ち上がっては脱いでた監視団の服を再度着る。

 それを見たレインは静かに呟く。


「行くのか?」


「約束だからな」


「ならエレミア様も連れて行け。というか、既に下で待っている」


「……本気で言ってるのか?」


 私が何故、エリアを連れて行ったのにも一人で会話をしに行ったと思ってるんだ。

 理由がどうであれ、エルフに家族を殺されたんだぞ?

 なのに、そこにエレミアを連れて行くのは――


「――君こそ、わかってるのか? 本来、君の役目は私たちがやるべきものだ」


「そ、れは……」


「お前が私たちを思って行動してるのは知ってる。

 でも本当に人間との共存を思うのなら、これは私たちが解かないといけない」


「でも、これだけ終われば今回の件は片がつくんだ。

 わざわざ今からエレミアがいかなくても――」


「――だからこそ、いかないといけないの」


「エレミア……」


 そこで、下で待っていると言っていたエレミアが会話に割り込んだ。

 ――前回、私とは別行動した件に付いても一応聞いてはいる。

 案の定、あの商人の元取引先で、何と相手は貴族でそれも公爵家の次男だった。

 長男ではないということに希望を抱くべきかもしれないが、良い状況ではない。


 人間がエルフを狙ってるということを言ってるのではない。

 タイミング的に最悪ということだ。

 正直なところ、本当に最悪の想定通り事が進んだ場合、私でも人間をかばえない。

 人間とエルフは、二度とその仲を改善できないだろう。

 だからだろうか、エレミアが私に付いてこようとするのは。


「良い言葉は、聞けない可能性が高いぞ?」


「でも、エリアから聞いた。良い人だったんでしょ?」


「否定はしない。でも――」


「でもじゃない、ならば余計なわだかまりは残さないほうが良いの。

 ――それはアユムもわかるでしょ?」


 そう、わかっている。

 規模が変わっただけで、エレミアがやろうとしてるのは私と同じ理由だ。

 私がフリュード村で私の居場所を作るために頑張ったように。

 エレミアはこの都市でエルフの味方を作りたいのだ。


 その気持ちは痛いほどわかる。

 なら、私もこれ以上止めるのは止めるとしよう。

 でも、最後に確認だけはしておく。


「覚悟は、出来てるんだね?」


「そんなの、村を出た時から既に出来てたよ」


「――わかった。一緒に行こう」


「うん!」


 そう言って華やかに笑ってみせるエレミア。

 本当に、笑顔が綺麗な子だ。

 私自身が根暗すぎるからか、この眩しさが未だに慣れない。

 それで少し視線をそらすと、レインとばったり目があった。

 レインは肩をすくめてはやれやれと語った。


「ふう、やれられ、やっと茶番が終わったか」


「――茶番とは酷いですね、レイン


「ふん! そんな顔で言ったところで何ともないんだよ、アユム


「うぐぐぐ」


 監視団に着いてからは団長さんいじめより、私がいじめられる気がする。

 それにしても茶番って酷くないか?

 いや、エレミアが押して私が断る絵面は流石に思い浮かばないけど。

 結論が決まってる点では茶番もそう間違った例えでもないけど。


「もう二人共、幼稚過ぎません? 特にレインさん、大人げないですよ!」


「えっ、私ですか!?」


「レインさんが皮肉らなければよかったんですよ。最初から」


「うっ、いや、そうかもしれませんが」


「その幼稚に私も入る――いや、良いよ、うん、気にした私も悪いよね」


「もう、アユムはすぐそうなるんだから! ほら行こう!」


 そして、そのまま頭を掻いでいた手をエレミアに引かれて部屋を出る。

 本当にこの元気なところには助けられてる気がした。

 教会での生活中、一緒にエレミアもいたなら。

 そんなことも最近は頻繁に思っている。


 ただ、そんなあれこれは全部良いんだけど。

 《エレミア――家の場所は知ってるのか?》

 そう突っ込むまでは、少し時間を有した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る