14.次へ繋ぐ道標を求めた ①/神685-5(Imt)-2

 都市内には何の問題も無くすんなりと入れた。

 顔パスと言うか服装パスのような感じだったな。

 私たちの顔は初めて見たはずなのに、それに関しても何も聞いてこなかった。


 ジャスティンとも事務的な会話は交わしたけど、それだけ。

 業務外だと思ったからか、興味がないからか、それとも別の理由か。


 どちらにしろ褒められた行動ではない。

 一体、何のために兵士を配置させたのだ。

 私が監視団の服だけ借りた賊なら、簡単に潜入出来たことになるんだぞ?


「アユム? 何かあるのか」


「いいえ、何でもありません」


「そうは見えないが――まあいい、ここが国境都市インルーだ。

 ようこそ、と言うつもりはないが、感想はどうだ?」


「感想……ですか」


 考えを中断して、周りを見渡す。

 門を通って少し歩いたけど、周りには武装した人たちがチラチラと見える。

 軽装から鎧を来た兵士まで様々だ。

 これが果たして、一般的な人間の都市なのだろうか。

 ジャスティンに聞いてもわかるはずがないし、確認できないのが物凄く残念だ。


 ただ個人的な感想で言うと、ここが普通の都市のはずがない。

 それが今の率直な感想だった。


 ――剣と魔法があり、怪物もある異世界で何をいまさら。

 とか言われたら何も言えないのが、今のところ一番歯がゆい。

 

「もしかして、何も浮かばないのか?」


「浮かばないのでは、ないのですが。

 まあ、ちょっと武装した人が多すぎる気はしました」


 結局こう言うしかなかった。

 この世界の一般的な人間の都市を見分けるほど、この世界の都市を見回ってない。

 そもそも、今回が初めてだ。

 判断基準なんてあるわけがない。


「武装……? 近くに魔獣も出るからこれくらいは普通だが?」


「他の人間の都市でも?」


「それはわからないが、そうではないのか?

 フリュード村も――そうか。

 悪い、無神経なことを言った、今の言葉は忘れてくれ」


「いいえ……」


 ジャスティンも私が戸惑う原因を気づいたようだ。

 相当バツが悪そうにしてるけど、そこまで気にしなくてもいいのに。

 ジャスティン本人はあくまで他の人から聞いた内容でしか私の事情を知らない。

 村での出来事を直接経験していたとしても気付くのが難しい問題だ。

 きっと、レミアたちだって気づかなかったくらいに――


「――レミア? エレミア? 本当に、気にしなくても良いからな?

 エリアも別に悔しがらなくても良いからな?」


「で、でも」


「過剰反応だ、本当に何ともないって!」


 何か静かだと思ったら既に凹んでるとは思わなかった。

 あの一件以来、私のことに敏感になりすぎている気がする。

 逆に、これが寂しいと思うのはおかしいのだろうか。


 それに、私が大丈夫と言っても絶対信じないんだよね。

 私が大抵のことは大丈夫と言いはるから、当然の反応かもしれないけど。

 ――弱音、か。


 難しいな。


「――ジャスティンさん、とりあえず教会まで案内をお願いします」


「お、おう……」


 道のど真ん中で監視団の服を着たまま、彼女らを宥めることも厳しい。

 ここで、わざわざ視線を集める必要はないだろう。

 そう思いジャスティンさんに頼んだのだが、歯切れが悪い。

 

 理由について少し悩んでいると、既に教会へと向かっているジャスティン。

 私も遅れてそれに追いかけ、そんな私に付いてくるようにエレミアたちも動いた。

 ――こんな関係が欲しかったわけではないのに、いつからこうなったのか。

 いや、聞くまでもないか。


 少し重い足取りでジャスティンに付いていく。

 門からどこにも曲がらず真っ直ぐ歩いて、中央広場のような場所まで来た。


 その中央広場の真ん中。

 そこに、あの特徴的な半球形の建物は存在していた。


 建物近くには華やかさこそないが、緑豊かな広場が存在している。

 生活地域から少し離れたところにあったフリュード村の教会とは真逆の場所。

 同じところと言えば、教会への人の出入りが少ないくらいだ。


「人がいっぱい、ですね。噂には聞いてましたが」


「はい、フリュード村とは大違いですよね。自分も最初はびっくりしました」


「あれが人間の教会、ですか」


「何で、こんなに違いがあるんだろう……」


 レミアの驚きにジャスティンさんが答えて、続いてエリアとエレミアがそれぞれの感想を口にする。

 教会の建物は何も違わなかったが、その周りの環境に大きな違いがある。


 フリュード村の教会はあくまでも村に寄り添う感じなら。

 国境都市インルーの教会は教会こそが村の核のように見える。

 まさかここまで違いがあるとは想像すらしていなかった。


 ――選ばれた種族か。

 言葉を聞いたときからずっと疑問には思っていた。

 だって、私は人間をそんな大層なものとは思ってなかったからだ。


 そして最近になって一つ、気づいたことがある。

 この選ばれた種族という呼び名のことだ。

 今まではエルフ、或いは人間以外の種族だけが使う言葉だと思っていた。

 妬みや嫉妬などを混ぜた、蔑称べっしょうのようなものだと。

 でも、よくよく考えてみると――


――――そもそも、私にという単語を使ったのは、一人しかいない。


 それが誰なのか。

 もちろん覚えている。

 覚えているからこそ、今の光景が脳裏に深く刺さった。


「――行きましょう」


 そう言って後ろを振り向かず、ジャスティンすらも通り越して先を急ぐ。

 後ろからドタバタと付いてくる音が聞こえてきた。

 そして、気の所為なのか視線が集まっている気がした。


 視線は前の教会に固定したままで、もう一度周りを見渡す。

 それぞれ、自分のやるべきことをやっている。

 たまにこちらに視線を向ける人はいるけど、それだけだ。

 ――――視線なんて集まっていない。


 でも確実に視線を感じている。

 露骨なまでに、後ろの背中がチクチクと痛い。

 その感覚が嫌で、歩く速度を早め、開けてる教会の中に足を踏み入れた。


 教会の中はフリュード村の教会と大して変わらない。

 ほぼ構造的にも同じだったし、建物内に漂う雰囲気も同じだった。

 フリュード村の教会を思い出して、少しだけ心が落ち着く。


「おや、久しぶりのお客様ですね」


 そして入った瞬間、ばったりと鉢合わせになった一人の男。

 白い髪を後ろで結んだポニーテール、細目の神官服の男。

 両手には果物がいっぱい詰まったカゴを持ち、笑顔でこちらに話かけてきた。


「教会へようこそ、貴方様に神のご加護があらんことを。

 ――――それで一つ、いかがです?」


「始めまして。

 それと、どっかに置いといた方が良いのでは?」


「ハッハッハッ、心配はご無用です。

 こう見えて筋力には自信がありますので」


「――では、一つ」


 果物の山から一番近くにあったリンゴを一つ、手に取る。

 私が果物を手にしたことを確認してから、彼は私の後ろから入ってきたエレミア達の方にも声をかけた。


「今日は千客万来ですね、嬉しい限りです。皆さんも一ついかがですか?」


「おお、では言葉に甘えてお一つ――それとお久しぶりです、ウィナーさん」


「はい、お久しぶりですね、ジャスティンさん」


 入ったばかりだというのに、何の違和感もなくやり取りをするジャスティンさん。

 どうやら、この神官さんとは顔見知りのようだ。


「他の方たちも監視団の服装ではありますが……見ない顔ですね」


「まあ、それは――――」


「ジャスティンさん、そこからは自分が説明します」


 どんな状況であっても、相手が私を尊重してくれるのなら、私もそうする。

 なら、ここで他人に自己紹介を任せてはならない。

 相手が私と話をしようとする姿勢を持ってるのなら、尚更だ。


「とりあえず、どこか座れる場所に案内してもらえますか?

 ――――それと、ジャスティンさんはどうします?」


「私はそろそろ仕事に戻る……ウィナーさん、頼んでもよろしいでしょうか」


「任されました。とりあえず奥に案内します――がその前に」


 神官さんはカゴをそのまま持って、後ろで黙々と話を聞いてる三人に近づいた。

 私以外の人間だからか、或いは他のことを考えてたからか。

 いきなり近づいた神官さんにびっくりしてる三人。

 そんな彼女らを一度目に留めては、持ってるカゴを少し前に差し出した。


「そう凹んでてはいけませんよ? エルフの皆さん。

 お一ついかがですか?」


「あ、どうも……」


「いただきます、人間が食べるリンゴですか」


「ありがとうございます。やはり教会は落ち着きますね」


 エレミアは心ここにあらずという風に返事をし、エリアはいつもの反応。

 最後のレミアの発言には神官さんも少し驚きながら答えた。


「おや、もしかして神官の方ですか?」


「はい、フォレスト様に仕えています、レミアと申します」


「これはご丁寧に――自分はウィナーと申します。

 エルフの神官さんに会えるとは思いませんでした。

 ――――もしかして、そこのお兄さんが神物を付けてるのもその関係でしょうか」


 神官さんに指摘されて、右手に挟まれている腕輪の方に視線を落とす。

 自分があることを気づいてくれたのが嬉しいのか、腕輪からは淡い光が出ていた。


『それは嬉しいですよ!

 だって、アユム様って私のことは基本ガン無視じゃないですか』


 そして頭に響くフォレストの声。

 いや、しょうがないだろう。

 近況報告とか言ってもそう大したことはないし。

 というか他の人と喋りながら気にし続けるとか無理だ。


『でも、少しくらい私という神がいるのを気にしてくれてもいいではないですか!』


 私という女がいたということを覚えてください的な?

 そもそも、目に見えない誰か(主に女性)に話しかけるとか。


「脳内彼女かよ……」


「――――はい?」


「あ、いえ――まあ、そんなところです」


『面倒くさくなったからって説明を適当に飛ばさないでください!』


 知るか。

 適当に頭の中の幻聴を無視しながら、神官さんに部屋への案内を急かす。

 腕輪の機能が強化されて、タメ口を使うようになってからか。

 フォレストのキャラが変わったような気がする。

 そんなどうでも良いことを考えながら。

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