第28話

 夜も夜中、男三人揃って裏路地で笑い転げていた。

 ズボンのポケットや上着のポケットには盗んできた札束を詰め、誰からともなく笑い始めたが最後、誰も笑いを止められなくなっていた。

 今夜は例の遊びの決行日だった。詳細は尋ねずに付いていったシュウは、見たこともない倉庫にも似た家に、二人が銃を片手に蹴り込んでいったのを見、〝遊び〟の意味を確信した。

 ミスのない限り死ぬことのないシキと、死ぬことなど何とも思っていないコウが、恐れ一つなく銃撃戦の中に身を曝す様は何とも楽しそうであった。スリル満点の危機は何度もあった。シキの力があればどんな状況に陥ろうが向かう所敵無しではあったが、コウはそうさせないために最大限の気を遣っているように見えた。

 大体の役割や勝手が分かってくると、シュウは舌を出して銃を取り出し、そこに参戦した。二人から三人に増えた途端、流れが急に変わった。拮抗していたものが、こちら寄りに比重が移る。後は勢い任せで競り勝った。

 呆気なかった。しかし、得も言われぬ興奮を覚えた。

「なあ。おまえら、いっつもこうやって遊んでるわけ?」

 シュウが笑いながら問うが、答えはなかなか返ってこない。

 三人とも呼吸もままならないほどに笑いさざめいているので、言葉を出すための呼吸を確保出来ないで居た。理由のない笑いに、顔の筋をどうかしてしまいそうだ。コウにおいては引き笑いが激しいので、呼吸困難甚だしく聞こえる。

「気が向いて、場所があって、コイツと一緒ならな」

 親指でシキを指しながら、涙目のコウが言う。

 何をそんなに笑って居るんだという目でシキが見たが、その本人も頬の筋肉が痙攣しそうになっている。

 時間の経過と共に、少しずつ笑いも薄らいでいく。

 やがて三人とも口を閉じると、揃って仰向けに倒れ込み、夜空を見上げた。

 建物が視界の周りを遮って、見える空の面積は狭い。よく晴れた冬空で、星が時々瞬いて見えた。月も高く、大きく上っている。周りの建物に人の気配は全くない。住んでいる気配すらない。静けさがしんと耳に響いた。やがて心臓の音が耳に付くようになる。ドクドクと未だ性懲りもなく動き続ける心臓の音が、身体中でこだましている。

「……狭い空だな」

 白い吐息と共にシキが呟いた。息も言葉も、星空の下で散った。

「こんな大地からでも、こんな空でも、まだ星って見えるんだな」

 シキの声には言葉ほどの感動はなかった。シュウもまた同じ心持ちで夜の宝石を眺めていた。今にも消えそうな灯りで瞬いている星。一際明るい星。名前も知らない星々が闇を飾っている。

「この空にも、おまえは何か探してるのか?」

「いや。夜の空は、……探してない。どうせ暗闇じゃ見つからない」

「昼間限定、か。……しかも、晴れた昼間限定なんだろうな」

「……ああ。そんな空しか、俺は知らないから……」

「ふうん」

 引っ掛かった言葉を訝しく思いながらも、シュウはそのことについては問わなかった。眉をひそめたのはシュウだけではない。コウも似た顔をしてシキを横目で見ていた。彼もやはり問わない。次元が違う会話になりそうなことを、彼も予想しているのだろう。

 言葉を交わしながら遠い目をして夜空を眺めるシキは、この世の生き物とは思えない時がある。余りにも強すぎる存在感とは裏腹に、霞のように希薄な実体。実在しない遠くを眺めるその身体に、果たして魂はあるのか。整った横顔は、触れてはならない物のようであった。そして何よりも、理解を超えた瘴気という力。

 どれを取ってもこの大地にはそぐわない。この黄土に不釣り合いなその器と魂は、一体どこから来たのか。

 突飛な思考が降りてくるのも、対象がシキだからだ。

 シキの夢を知りたい。いつも見るという、もう見たくないという、そしてこの前は赤に染まったその夢を。

 口に出来ない願望を周りが抱えているとは知らず、シキは空に奪われたままだ。

「はぁ」

 肺の深くからシキは大きく息を吐き出した。白く染まったそれは、暫く宙を漂うもすぐに霧散してしまった。空の彼方からその儚く脆い光景に視点を移したシキは、息の所在が見えなくなってもぼんやりとしていたが、やがてまた息を吐き出した。今度は始めから白い息に焦点が合っている。

 吐いた息の果ては同じ事だ。何度吐き出そうとも、息が雲になることはない。すぐに色を失い空気に紛れてしまう。

 それでもシキはどこか楽しそうだった。子供の様に、シキも何度もそれを繰り返す。

 見えては消え、見えては紛れるという繰り返しにシュウは儚さを覚えていたが、シキは違うらしい。

「俺さぁ……冬って好き」

「そうか?」

 コウは起き上がってシキの顔を見下ろした。シュウは身体をシキの方に向けると、片肘を付いて手の平に頭を乗せてシキを見た。彼らの視線の先には、いつになく穏やかなシキが居る。

「吐く息、白くなってちゃんと見えるじゃん? 呼吸の正体が見えて、『俺は生きてる』って感じられるから」

 そう言いながら、シキはまた息を吐く。

 コウがやれやれと首を振ると、呆れ顔で口を開いた。

「他にも生きてる証拠ならいくらでも掴めるだろ? 空腹とか、痛みとか」

「けど、それは……」

「……俺たちとか」

「……なんで?」

 シキは見下ろしてくるコウと目を合わせる。

「一番確かだろ? 俺たちなら、冬じゃなくても、居られるだけおまえと居られる。世界中の奴らがおまえの瘴気でくたばったって、俺たちはそんなモンじゃ死なない。むしろ半分はおまえの呼吸で生かされてるようなモンなんだから、俺たちだっておまえの呼吸の正体なんだよ」

「……コウには敵わないな」

 照れた顔をしてシキはまた夜空に視線を移す。

 ――俺もコウには敵わないな。

 シュウは密かにそう思っていた。

 シキがコウを自分よりも慕う理由。シキがコウに対して徹底的に強くなれない理由。全てが今シュウがそう思った根拠から来ている。きっとシュウの優先順位がコウよりも高くなることはないだろう。けれど、シュウは三人で居ることが素直に喜ばしかった。狂気のことさえ気兼ねすることなく笑ったり喧嘩したり出来る。

「なぁ。今度、なんか暖かいモン食いに行こうぜ?」

「またその話?」

 シュウの提案にシキが鳶色の目を向けた。

「前に誘いっぱなしで流れちまっただろ? この街ならおまえとごたごたになりそうな奴なんて居なさそうだし」

 路地裏に沈めてやった男達を思い出すこともなく言った。そう言えば、変な奴らが居た。そのことに思い当たったのは、発言してから数秒後だった。彼らは既に記憶の澱となって沈殿しきっていた。

 誘いに対して即答は来ない。

 シキは目を伏せ、口を閉ざしている。



 シキは余り乗り気ではなかった。

 笑うことをやめてから少し身体が冷えて来たのを感じ、着ていた赤いジャケットの襟を寄せた。アウターとして着るものの選択肢は一択。替えはない。もっと寒さが進行すると凌ぐための服がない。

 外出は買わせる良い口実になる。それでも、気が進まなかった。

「誘った奴の奢りなんだろ?」

「勿論。金はあるし」

 乗ったコウに、シュウは奪ってきた札束の一つをひらひらと見せつける。

「じゃあ、ついでに服も買って貰おうぜ。おまえ、新しいの見立てて貰えよ」

「なんでまた」

 いつかのシキの赤いジャケットの話をコウはしっかりと覚えていたようで、誤魔化すなと目が言っている。

「何か欲しい服でもある?」

 話に食いついてくるシュウを鬱陶しさ丸出しで一瞥した。

「別に無ぇよ。ほっとけよ」

「コートでも買って貰えば? 冬で丁度いいし、そうじゃなくても瘴気除けになるだろ」

「何で煽るんだよ、コウ」

 頼むから勘弁してくれ。眉根を詰めて首を振っても、二人はお構いなしで話を進めていく。

「色はどうするかな」

「これと同じ赤で良いんじゃね?」

「赤、いいよな。シキは暖色系の色、よく似合うから。あとは白とか」

「いつも灰色か黒なんだから、好きに塗ったくってやればいいじゃん。あんたのセンス、俺は好きだし」

「お褒めに与りましてどーも」

 笑い合う二人の間で、シキはふくれていた。

「勝手曝せ」

 言い放ち、そっぽを向いた。どいつもこいつも。思うほどにむくれる。

 シキの顔を見たコウが頭をつついてきた。

「いい加減、素直になれよ。それに、少し構われろって」

 意地悪く笑むコウを余所に、シキは立ち上がって溜息を吐いた。怒りを含んだ足取りで数歩進むと、立ち止まって上を向いた。

 さっきまで見ていたのと同じ星空が広がっている。シキの背丈分だけ近づいたが、たかが知れている。空は遠すぎる。溜息とはまた違うと息を吐き出し、白い息を散らす。

「気が向いた昼間にな」

 そう言うとシキはまた歩き始めた。

 後ろから笑い声がしたかと思えば、二人がすぐに追いついてきた。あっという間に肩が並ぶ。

 三人で家路を行きながら、シキはふとハルのことを思い出した。彼が死んだのは冬だ。初冬なのに異様に冷え込んだ日に、彼の死を目の当たりにした。冬は好きだが、同時に彼のことも思い出す。暗闇にハルの笑顔が浮かんで、緩やかに消えていった。

 今、あの時決別したはずの季節が来ている。こんな寒い冬なのに、あの季節の中に居る。おかしな気分だ。寒さと暖かさが相俟って渦を巻いている。寒気と暖気を同時に感じるという奇妙な感覚に身震いをして襟を立てた。

 ハルの記憶は、まだどこかで永遠という物を信じていた頃の記憶と時を同じくしている。幻想と思いながらも信じていた永遠。そんなモノはないと一度は悟った永遠。そのぬくぬくとしたモノが、今になってまた湧き上がってきた。触れそうで触れない両脇の肩から、忌まわしい程の熱を感じる。人の体温。温もり。ユイが死んで以来、何よりも嫌っていた物。

 また求め始めている。また信じ始めている。

「少し、嬉しそうだな?」

 コウがシキの顔を覗き込んだ。シキは無視して前を見たままで居た。返事をしたら、思っていたこと全てをぶちまけてしまいそうだったからだ。

 しかし、そのまま無言で居ることは出来ず、

「昔のこと、少し思い出してただけ」

「ヤな過去?」

 聞き返したのはシュウだった。

「ヤだけど、ヤじゃないかも」

 それ以上の問いは来なかった。嫌と言っている割に満更でもない表情をしていたことは、当人が一番よく知っていた。

「今年、寒くなるの早くね? 秋無かったじゃん」

「夏は暑すぎたし、冬もこの分だと厳しそうだな」

「異常気象って奴? いよいよ終わってくのかな。この世界」

「終わるときはそん時だろ」

 僅かに憂うシュウに対して、コウは動じない。二人の会話を聞きながら、シキは前だけを見ていた。

 三人で呼吸の正体を見せつけ合い、それらが混じり合って散っていく様に、刹那的な虚しさと喜ばしさを感じていた。人生など、この白い吐息に似ている。儚く虚しいものだからこそ、こんな呪わしい生でも謳歌しようとしてしまう。誰の命を奪っても、誰の幸せを踏みにじっても、楽しみ生きたいという自分勝手な願望。けれどそれが汚いと思わないのは誰もがそうして生きているからだと信じて疑わない。

 壊れないで欲しい。この瞬間が、それこそ永遠に続いて欲しい。

 しかし、終焉はいつか来る。覚悟する一方で、だからこそ叶いもしないことを望んでしまう。

 この時、幸少なき今までの生で最も満たされている瞬間だ。

 忌まわしかった温もりが心地よいと感じる程に、過去に目隠しをされている。宛も果ても知らない未来しか見えない。いつ途切れるかも知れない一寸先から闇である、虚しい期待と同意語である未来が、轟音を立てて近づいてきている。

 壊れないで欲しい。

 シキはもう一度心から願った。


   *


「シキ……」

 アキが持参した資料を手に、ルイレンはその名を呟いた。

 初めて見たときはまだ年端もいかない少年だった。強い目をした少年は、いつしか成人して流れ流れて、今はすぐ近くの街にいるという。

「昔、黒狼の誰かが手にかけ損ねた二人と三人で暮らしているようですが。それで? 彼を調べてどうするおつもりで?」

「どうもしない。知りたかっただけだ」

「まるで関係のない人物を調べる意味など、無いと思われますが。貴方は無意味なことがお嫌いだ」

 含みを持った物言いから、ルイレンは目を逸らす。察しの良いアキのことだ。調べたこと以上に何か掴んでいるのだろう。

 そもそも、ルイレン自身も確信を持って調べさせたわけではない。

 一瞬だけ感じた感覚が、過去の記憶と重なった。だから、確かめたい。彼自身も答えを持っていない可能性はある。ならば、尋ねるだけでもいい。

 答えを得られることがあったなら、その時は――。

「悪いことを考えてますね」

「考えてない」

「ま、困るのは私ではなく、坊やの方ですけれど」

 つくづく嫌な男だ。しかし、事実でもある。

 あの子は、知ったなら限度を知らずに赫怒するのだろう。誰も責めるなと言っても、聞かないだろう。一人になっても生きられるようになって欲しい。どのみち、トイの方が早く死ぬことはまずない。

「トイには知られないようにしろ」

「努力はしますけど、なにしろ、シキ君が同居している二人のうち、一人は彼の友人で、一人は勝手に受けてきた仕事の対象だったようですから」

 そして、彼には情報収集力がある。何処をどう調べたのか知らないが、ルイレンとフォルトが異父兄弟であることを、トイは知っている。

 彼の力は侮れない。

 語らないだけで隠し通すのは難しいだろう。トイにもシキにも悪いが、動くのならば早いほうがいいと言うことか。

「……どちらにしろ、俺が動けば何かが壊れるのか」

「何か、じゃないでしょう。全て、でしょう?」

「全て、か」

 どう転んでも、自分が望みを果たそうとすれば破壊は避けられないようだ。

「諦めることは、出来ないのですか……」

 珍しく、アキが口をへの字にして目線を落とした。奥歯を強く噛んでいるのがよく解る。

 いつもは涼しい顔をして、ルイレンのどんな発言も聞き流してきたアキが、顔を歪めている。

 この望みは、二人の若者だけでなく、友としたかった男まで壊してしまうようだ。

「済まない」

「いいんです。貴方が周りをまるで見ていないことはよく知っています。言ってみただけです」

「済まない」

 目的のない生の中に目覚めた唯一の願望を棄てるという選択肢はない。果たすと同時に、最期の場所へと自動的に誘われることだろう。

 それでいい。生きて行くには、この大地は虚しすぎる。



 ルイレンは絶望はしていない。ただ、何も無いのだ。自分は何も無いと、そう思い込んでいるだけだ。

 組織は彼には鬱陶しいだけのものに違いない。しかし、付いてくる人間全てが致し方なくここに居るわけではない。ルイレンはそれをよく知らない。彼は荷物の中に含まれるものは全て荷物と思っているようにしか見えない。

 トイの行動を見ればすぐに分かりそうなものなのに。プラスの感情には全く持って鈍い。

 それとなく貴方は慕われているのだと伝えても、届くことはなかった。

 試行錯誤はした。しかし、彼に目的を与えることは叶わなかった。

 悔しくてならない。一番傍に居るのに、何も出来ない。

 ルイレンが何を求めているのか、確信はないものの解っているつもりだ。それなのに、僅かも引き留めることが出来ない。

 仕方がないのかもしれない、とも思う。恐らく、あの日から、既に彼の世界は壊れてしまっているのだろうから。今更生きていたい世界など無いのだろう。

 しかし、

「無力ですね、私は。結局、貴方を終の道へ案内することしかできませんでした」

「咲かせる死に花もないがな」

「貴方という人は……」

 嘘でも良いから否定してくれればいいのに。

 どこまでも不器用な人だ。その不器用さを怨む気力も失せるほどに生きるのが下手だ。

 これだから放っておけない。かといって、出来ることは何も無い。

「どうか、ご自愛を……」

 アキは部屋から立ち去った。

 人気のない廊下を、不甲斐なさを噛み締めて進み出す。溜息さえ噛み潰されて出てこない。

 ふと目を上げると、廊下の角を曲がる影が目に入った。

 ――トイ……?

 聞かれていたのか。

 急いで追いかけるも、角に辿り着いたときには影も形もなくなっていた。

 見間違いならばいいが。嫌な予感は払拭できない。

「……」

 足が、動かなかった。

 もしトイが立ち聞きしていたのだとしたら、探し出して説き伏せるべきだろう。ルイレンもトイに知られることを望んでいない。

 しかし、ルイレンが諦めない限り、行き着く結果は同じだ。トイはいつか知る。破壊の連鎖は止められない。

 ならば……。

 アキは、影が立ち去った方向へ背を向けた。

 同時に、これから起こること全てに背を向けた。


   *


 赤い月が微かに口の端を上げ、真昼の暗闇に揺蕩っている。


   *


「なんだ、今の……」

 夢見が悪く、シキは鉛を持ち上げるように身体を起こした。

 時計を見れば、まだ早い。朝日が昇って数時間、といったところだ。目覚めて時計を見る動作にもすっかり慣れた。感傷に浸ることももう無い。

 すぐ近くにある真新しいカーテンを、一息に開けた。途端に陽射しが部屋の中に差し込んでくる。遮光度の高いこのカーテンは、シキが来てからコウが新調したものだ。

 快晴。暖かさが心地好く、暫く日溜まりの中で目を閉じた。

 ぬくぬく。

 半身を起こしたまま二度寝しそうになり、窓を開けてみた。

 ひんやりとした風が緩やかに舞い込んでくる。太陽の熱と風の熱。同時にやってくると、落ち着く程の心地よい熱に変わった。

 もう一度目を閉じて陽の光と風を浴びた。光に溶かされ風に崩されるような幻覚を得る。瘴気の活動は今は弱い。もしその幻覚が現実だったとしたら、なんと穏やかな死だろう。跡形もなく塵に紛れ、風に攫われやがてどこかの大地に落ちて取り込まれる。そんな死が来るのなら、苦しみ抜いてこの力と同じ物に自らの身を蝕まれたのように死なないで済むのなら、どれ程の安楽だろう。

「……」

 あの人の死に際の顔を思い出しそうになり、目を開けた。再生され始めた映像はその瞬間に途切れる。

 ベッドから降りると思った以上に寒かった。

 何か羽織るものを、と部屋を見渡せば、クタクタになった赤いジャケットが椅子の背もたれにあるのを見つけた。

 赤い色。

 今朝見た夢が過ぎり、手を伸ばすことは出来なかった。

 仕方なく、シキは開襟シャツ一枚という寝ていた時のままの薄着で一階へ降りた。降りながら手櫛で髪を整える。

 この家の住人はシキを含め、朝が遅い。基本的に皆、夜型だ。そして今日はいつになく早い時間なので、下に降りたところで誰も起きていないだろう。そう思っていたが、居間からはコーヒーの良い匂いがした。不審に思いながら足を進めると、話し声までする。

 覗き込むとシュウとコウの二人が朝のコーヒーを堪能しているところだった。

「めずらしー。シキ、もう起きた?」

 シュウがコーヒーを口に運びながら、おいでおいでと手招きする。

「珍しいっても、二人だって……」

 度の過ぎた珍しさに何を言いたかったのかも分からなくなり、言葉は尻窄みになって消えてしまった。

 ソファまで行くと、テーブルの上にはシキの分のコーヒーも用意されていた。もし今起きてこなかったら冷め切ってしまうこと請け合いにもかかわらず、まるでこの時に下に降りてくることを知っていたかのように湯気まで立っている。ソファに座り、疑惑のコーヒーを飲む。淹れたてでまだ啜るようにしか飲めない。

「二人してどうしたんだよ。こんな朝早く。……それに計ったみたいに」

 と、コーヒーに目を落とす。余りにもタイミングが良すぎるのではないか。

「一番早起きはコウだぜ。俺が起きた時はもう起きて一杯目のコーヒー、飲んでたんだから」

「コウ。何で今日は早起き?」

「さあな」

 今口に運ぼうとしているのは、一体何杯目なのか。まだ熱いようで、ずず、と啜ってから、コウはシキを見た。

「おまえが来そうだったからさ」

 その発言に、根拠など無いのだろう。無いに決まっている。

「ところで、シュウは何で?」

「俺? 俺は、そうだなぁ。呼ばれた、みたいな感じ?」

「呼ばれた?」

「今起きれば良いことあるぞ、っていうモンに呼ばれた」

「そう言うシキは何でこんな朝っぱらから起き出したんだよ。いつもなら夕方近くにならないと起きてこないくせに」

「俺は……」

 コウの質問はいつも良いところを突いてくる。そんなことを訊かれても、思い当たることなど何もない。夢見が悪かったのは確かだが、いつもならそこで二度寝してしまう。

 早起きの理由。恐らく二人も感覚としては似たような物なのだろうが、

 ――敢えて言うなら……。

「気が向いたから、かな」

「三人とも似たようなモンじゃないか」

 コウが笑った。つられてシュウが、そしてシキも笑う。

 三人とも特に最近よく笑うようになっていた。

 シュウの笑顔を横目で見ながら、変わった、とシキは思っていた。時折浮いていた狂気じみた笑みが、ここ最近全く見ない。片鱗すら、だ。彼の狂気を殺ぐ者が二人もいるから、というのが最大の理由だろう。つられるようにして自然に浮かぶ笑みは、穏やかだ。

 それを見る度に思う。羨ましい、と。

「さぁて。詰まるところ三人とも気が向いた、って事だからどうよ。シュウの奢りの約束、今日にするってのは」

「そうだな。今日は体調も良いし、気が乗ってる」

 いつもは一つか二つ必ず難癖を付けるところだが、今回はすぐにコウの言葉に賛同した。空腹も若干手伝っている。

「お二人さんがその気なら、俺はいつでも。朝食兼ねて、始めに飯から行こうか」

「よーし、決まり! 場所は俺がいいとこ知ってるから、そこにしよう」

「地理は任せたよ」

 シキを捜そうとして、迷子になりかけたシュウだ。ここは全てコウに一任する。

 話が決まると各々上着を取りに各自の持ち場所に行った。だが、シキは上に上がらず、コウの後を付いていく。

「ねぇ、コウ」

「ん? おまえも早く何か着て来いよ。それで行ったら風邪引くぜ?」

「上着、一つ貸してよ」

「シュウがくれたの、持ってるじゃん。あれじゃダメなのか?」

「……いいから貸せって。貸したくないならいいけど」

「なんかあった?」

「別に。気分転換だよ、気分転換」

 コウは小首を傾げつつも、手持ちの一つをシキに貸してくれた。黒い少し厚手のハーフコートで、袖やら首周りやらにやたらとベルトの装飾がある。あまり着ていないようでまだパリッとしている。

 シキが着込むのを横目で見ながら、コウは自分が着る上着を引っ張り出す。襟の所にファーが付いたベージュのブルゾンだ。

 二人が上着を着込んだところでシュウがやってきた。いつもの格好の上に、一体いつどこから手に入れたのか黒のロングコートを着ている。がらりと変わった雰囲気に二人は揃って目を細めた。

 ――まるっきしホストじゃん。

 思うだけに留め、声に出さなかったのは理性というもののお陰である。そのホストさんの目がシキに止まった。

「それ、シキの?」

「俺の」

「コウの?」

「借りた」

 シュウはふうんと鼻で言いながら、しげしげとシキ見る。

 不審がられるのは覚悟の上だ。とにかく今日は赤い色との相性が悪い。

「ほら。行こう」

 向けられる視線を振り切って、冬の外へと繰り出した。


   *


 数時間後。

 三人は顔を緩めて点心の店を後にした。普段は食べることに金を回すことをしないので、久しぶりのご馳走だ。せいぜい外食は屋台程度のシキにとって、本日の朝食は発見の連続だった。こんなに美味いものが世の中にあるとは。そう言うと、こんなのごく一部だと笑われた。

 知らないことが多すぎると知る。食べ物に限らず、だ。

 知り尽くすには、この世の中は広すぎる。何かを探すには雑然としすぎている。

 それにしても、

「美味かったぁ……」

 面倒なことを考えるには全く向かない腹具合だ。食べ過ぎで身体が重い。

「やっぱ人の奢りっていいよなぁ」

 膨れた腹をさすりながら、コウが横にいる長身を見上げた。

 最近はシュウも加わって多少負担は減っているが、それでも食事係のメインはコウだ。見上げる目線には腹癒せと催促が綯い交ぜになっている。実に意地の悪い色をした目だ。そして、怖い。

「さっ! 次行こう、次!」

 シュウが先頭を切って歩き出した。しかし、足取りはすぐにおぼつかなくなり、先頭をコウに譲った。コウは得意げに道を譲られる。

 一陣の風が吹き、シキは襟を寄せた。その際、何気なく首筋に触れた。

 傷痕がある。ざらざらとした瘡蓋も数多くある。シュウに喰いつかれた痕だ。やはり綺麗には治らなかった。

 気になったのは傷痕のことではない。こうなった原因についてだ。

 隣を歩く本日のパトロンは、微笑は浮かべているが至って正常。本人が語った狂気というものの片鱗は、あれきり顔を出さない。

「なんかさ、シュウの狂気って、騒ぐほど狂気じゃねぇよな」

 一度酷い目に遭ったが、一過性のものという気がしてならない。

 狂気とは、延々と続く怨嗟のようなもの。そういうイメージが先行して、シュウの常軌を逸したのものと符合しない。

「狂気って言っても、種類分けたらごまんとあるだろ? そのうちの何かなんだよ。たぶん。それに、おまえらと居るから最近は全然出てこないし」

「そりゃあ良かったね。俺は落ち着いてるけど相変わらずでさ」

「俺が悪いって?」

「誰もそんなこと言ってないじゃん」

「言いたそうなツラしてる」

 完全に抑える術があるのは確かに羨ましい。しかし、羨んでもこの瘴気は消えて無くなることはない。努力のしようもない。何故、この瘴気に限って、皆と居ても放出が止まらないのだろう。相手に害が及ばないのは嬉しいが、自らへの害は無くならない。

 誰を責めても仕方がないことだ。もし、シュウを非難しているような顔になっていたのだとしたら、それは受け取った方の問題だ。違いない。

「よし、シュウ。こいつに合う服を片っ端から買うのだ」

「おう」

 立ち止まり、意味不明の握り拳を作っている二人。第二の目的地。衣料品店だった。

「連行」

「わっ。ちょっ。自分で歩けるから!」

 シュウに引きずられ、店内に連れ込まれた。

 規模はそこそこ。一点ものの品が多いように見える。店に並ぶ品に何となく似ている気配が、自分からする。

「……コウ。もしかして、これ、ここで買った?」

「まあな」

 借り物の襟を摘み、そうか、と自分でもよく解らない納得をする。

 気が付けば、シキは入り口に取り残されていた。他の二人はいつの間にか店内に散っている。コウに至ってはいくつか手に取り、キープしている。先程まで会話していたのに、何と行動の早いことか。

「元気だなぁ……」

 シキはコートのポケットに手を突っ込み、店内をぶらついた。

 並んでいる商品の色には統一感があまりない。黒を始めとする暗色は勿論、黄色や橙、ピンクまである。その中に紛れている赤。眉を顰めて目を逸らす。ゆらゆらと窓へと寄っていった。

 日差しがありったけ降り注いでいる。その日溜まりの中に立ち止まると、ぼんやりと窓越しに空を見上げた。太陽が柔らかく微笑んでいる。その笑顔に微笑み返す気力はなかった。


 ――俺、太陽に恋してる。


 いつかも思いコウにも言った言葉だ。今はどうなのだろうと思い直してみたが、今はどちらとも言えなかった。ただ、少なくとも疎ましくはなかった。

 日差しが心地良い。今日は瘴気の機嫌がいいのか、これだけ日差しに当たっていても何ともない。コウから借りたコートは色が色だけに熱が籠もりやすいが、それもまだ害になってない。

 心地良い。

 とろとろと瞼が重くなってきた。今朝の感覚が甦る。砂のように身体が崩されていく感覚。このまま逝けたら、楽なのに。

「おい。立ったまま昼寝か?」

 急に、身体が崩壊しそうな衝撃が来た。振り返ると、そこには山ほど服を抱えたコウが居た。

「やめろよ」

 心臓に悪いことをしてくれる。

 睨み付けるが、コウに悪気は少しもない。

「折角来たんだから、せいぜい買わせてやれよ」

「別に俺、服はどうでもいいし」

「着た切り雀じゃみっともないだろ?」

「誰に会うわけでも見せるわけでもないんだから、いいじゃないか」

「出来る時に格好良くして置いた方が得だろ」

「コウの考え押しつけるなよ」

「おまえが勿体ないってコト」

 コウはシキの腕を掴んでシュウの所まで引きずった。シュウに引きずってきたものを押しつけると、また服選びの為に別の場所へ行ってしまった。

「うう……」

 シキは小さく唸る。この店から逃げ出してしまいたくもある。

 緩く、柔らかいこの空気。同じものが殆ど無い、そして、様々な色が並ぶ目線の先。

 どれも苦手だ。すぐさま、服を見るふりをしてシュウの傍から離れた。今は近くに居たくない。彼は良くも悪くも赤を与えてくる。今は、欲しくない。

 やはり上着のポケットに手を突っ込み、服の山に目を落として逃げるように窓辺に寄った。肩を落とし、何も見ずに目線だけを泳がせる。

 突然両肩に何かが乗った。落としたままの視界に、赤い裾が見えた。

 赤。

 今朝の夢を思い出し、軽い嘔吐感を覚えた。こんなコトでいちいち敏感になっている自分に驚きながら、乱れそうになる呼吸を押さえつける。

「大丈夫。この赤はおまえを襲わない。この赤はおまえを包むだけだ」

 こんなコトをする人間の正体は、声を聞く前から判っていた。

「何で、俺が思ってたこと解るような口振りが出来るんだよ」

「この前見たって言う夢、俺の目が赤く見えたって言う話をその後に聞いて、今日わざわざコウの物借りてたから」

「……バレてるし」

 シキは何となく肩に掛けられた赤いハーフコートの裾を掴んだ。手触りが良い。

「これ、買ってくれんの?」

「気に入れば」

「どうせ前みたいに無理矢理買うんだろ」

「二度はしない。それじゃあ芸がないだろ」

「持ってけよ」

 言いながらシキはシュウから離れた。同時に赤い色も離れていく。

「文句言わないから適当に見繕ってよ。俺、外に居る」

 そう言ってシキは一人、店から出た。



 シュウは笑ってその背を送る。シキが人生の岐路以外に何かを選ぶのが苦手なことは良く知っている。着るも食べるも全て人任せだ。

 先程の食事も、シキ一人だけ夢中になって食べていた。恐らく、口にするのは初めてのものばかりだったのだろう。旨い食い物もロクに知らないなんて不憫でならない。

 傷跡を残してしまった償いも含め、何かできればと思う。

「了解」

 既に外に出てしまったシキに向けて返事をすると、意気揚々とシキの分の服選びにかかった。



 外に出たシキは、煙草を吸いたい気分に駆られた。だが、思ってみれば貧困生活によって余儀なくされた数年間の禁煙が効いているのか、禁断症状もなく過ごしていたので手持ちはない。吸えない、という事を自覚すると、自然と欲求も治まった。

 煙草の煙を吐く代わりに、ただの息を吐き出した。それ程冷え込んでいないので、息はほぼ無色だ。

 やはり手はポケットに突っ込んだまま、足で地面を弄る。手持ち無沙汰だ。二人とも在る程度めぼしい物は手に取っていたから、それ程時間は掛からないだろう。しかし、待つようならば、やはり煙草が欲しい。

 と、殺気に似た視線が目の前から飛んできたのを感じた。ハッとして顔を上げる。すると、通りを一つ挟んだ向かい側に明るい金の髪をした男が立っていた。背はシキよりも高く、痩身で、何より特徴があるのはその青緑の瞳だ。壊れそうな儚い印象を受けた。それが次第にどこかで知っている印象に変わっていく。

 そう。どこか、シュウの持っているものに似ている。雰囲気でも顔立ちでもなく、彼の持っている狂気という気配に似ている。その男はシキを凝視している。

 青緑の瞳に含まれるのは、憎悪。初対面の男に憎まれる謂われはない。

 ――何なんだよ、コイツ。

 面白くなく思うと同時にシキも負けじと睨み返した。同時にささやかな瘴気も込める。距離が離れているのでそれ程効果はないだろうが、弱い体質なら痛みくらいは感じる筈だ。

 男はそれでも顔色一つ変えずにシキを見たままだ。

 どうやら瘴気の効果はないらしい。そしてこのシュウの狂気にも似た気配。音もなく冷水が足下に流れ込んでくるような、そんな感覚がする。不信が募る。

「誰だか知らないけど、用があるならこっち来て言えよ」

 人通りはまばらなので大きな声でなくても充分に届く。男は暫く無反応であったが、やがて口を開いた。

「事と次第に因るけど、今、用があるのは俺じゃない」

「じゃあ、俺に用事がある奴は何処の誰だ」

「……」

 返事はない。

 その時、シュウとコウが揃って店から出てきた。異様な空気が流れているのはすぐに察したようだ。

 そして、シュウの顔色が変わった。男の方はぴくりとも動かない。

 男の視線がシュウに移ったのはシキにもすぐ分かった。一度横目でシュウを見るが、その表情は驚愕に等しかった。何かあると察し、また男に視線を戻す。その時には男の視線はシキに戻っていた。相変わらず凄まじい眼光で睨んできている。

「絶対に、殺させやしない」

 やがて、意味不明の言葉を残し、男は立ち去った。誰も追うことはしなかった。代わりにシキとコウは未だ驚いたままのシュウに詰め寄った。

「シュウ。あの男、知ってるんだな?」

「ああ。あいつが、例の、……トイだよ」

「あいつが……」

 シキはもう一度トイの居た場所を見た。あの特殊な気配。二度と忘れることはないだろう。

「にしても、そのトイって奴、何しに来たんだ? 言ってること意味不明だし」

「理由なんて、何も。あんな殺気に満ちたトイ、初めて見た……」

 コウの横でシュウは首を振る。初対面であるシキにも当然理由は解らない。

 しかし、感じるものはあった。

「あいつ、シュウの気配に似てた。でも、シュウとは違う、酷く冷たい狂気……」

 今でも思い出せる程、低温で、それで居て苛烈な気配。

「トイが?」

 そう聞き返されて逆に驚いたのはシキだ。

「昔のダチなんだろ? あんた、あれに気付いてない?」

 シュウは首を振った。シキは呆れたような顔をして「嘘だろ」と思わず吐き捨てた。初対面でこれ程印象に残るものを、シュウが知らない理由が知れない。もしかしたらシュウの持つ物と類を同じくしているから気付かなかったのかとも思ったが、とにかくこれであの得体の知れない気配については知る手だてもなくなった。後はもう一度本人に会って何らかの手段を講じて確かめるしかないが、望む所ではない。

 出来ることならもう二度と会いたくない。

 困惑気味のシュウを見ながらそう思った。



 その間、コウは神妙な顔をして二人を見ていた。コウもトイの持つ気配は感じ取れていた。シキが言うように、酷く冷たく、シュウと同じ類のものだ。あれは良くないと本能が告げている。

 突如として現れたトイが、このまま何もなく消えてくれるとはとても思えない。必ず何か絡んでくる。嫌な予感が脳裏を掠めて、奥歯を噛んだ。

 誰もそっとしておいてくれないのか。やっと、この薄幸な男が笑えるようになってきたというのに、それをまた誰かが壊すのか。

 シキの手首に二本目の傷を想像し、頭を振る。

 そうはさせない。

 二本目は、絶対に引かせない。

 コウは袖の中で拳を強く握り締めた。



 困惑、混乱、そして期待。それがシュウの中で渦巻いていた。トイともう一度会って、今度はサシで話したい。確かめたいことが山程ある。しかし、そうすることは今のこの状態を崩壊させることに繋がるかも知れない。そうなることも避けたい。シュウの中で激しい葛藤が生まれた。どちらに転んでも、何かしらの不幸が付いてくる。それは目に見えていた。

 優柔不断な頭は答えを先送りにしようとしている。またその時が来たら考えればいいと、裏側の自分が言っている。



 三人三様の思考を巡らせながら、共通している部分もあった。

 それは最悪のこと。そして、願うこと。


 壊れる。このままではこの弱い地盤は脆くも崩れ去ってしまう。

 壊したくない。

 壊されたくない。

 この平穏は、何があっても。

 もう二度と、あんな思いをするのは嫌だから……。

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