文字は踊る

 私が書いた文字は、私の言うことを聞いてくれない。


『テストに出ます』先生に強調されたところをしっかりノートにメモを取っても、前後の文はしっかり残っているのにその語句の並びだけが何処かに雲隠れしてしまう。スケジュール帳は悲惨だ。開く度にデートの予定が一マスずつズレていく。人前にはとても見せられないような走り書きの文字ですら、メモ用紙から飛び出して、会議中の先輩の目の前をふわふわと浮遊する。


 もう信じられるのはデジタルだけだ。幸い、この情報化社会にはパソコンやスマホといった、文明の利器がある。予定は全てアプリで管理し、履歴書はパソコンで作成する。文字なんかに負けないんだから。


 宅配便のサインの紙を放り出し、部屋で呑気に飛び回る自分の名前の文字列を眺める。


 こんなスキル、持っていたところで何になるというのだ。


 ふと、これは食べられるのだろうか、と疑問に思った。結びの部分だけが肥大した不恰好な平仮名の『み』が空中で静止している。案外美味しいかもしれない。私は手を伸ばす。

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