vol.16~「時よ」(1978) 吉田美奈子 ~

 できれば、県外に足を伸ばそうと思って出発したものの、寄り道先で佇む時間が長すぎたので、今夜は上越市で宿をとることにしたい。

 まだ“小腹が空いた”程度なので、もう少し走ってから市街地に戻ってくればいい、ってことで、海岸線をそのまま直進。



 「時よ」は、1978年リリースのアルバム『愛は思うまま』に収められている。

 僕はこの曲を、おませにも、発売当初の中学2年生のときから口ずさんでいた。

 この曲を聴いたきっかけははっきり覚えていない。おそらく、ラジオからだと思われる。


 いろいろな年齢の節目節目にこの曲をよく聴き、そしてよく歌った。

 

 最初が、中学校3年生の冬。

 高校受験で疲れ果てていた心(頭じゃない)を癒すために、雪が積もった田んぼの真ん中に大の字になって、流れる雲を見ながら歌った。


 次が、高校3年生の冬。

 大学受験と、当時つきあっていた彼女の狭間で疲れ果てていた心を癒すために、汽車の中で歌った。


 次が、大学4年生のとき。

 一人ぼっちで疲れ果てていた心を癒すために、荒川の河川敷で歌った。


 次が、大学院の2年生のとき。

 修論が完成しそうにない焦りに疲れた心を癒すために、真夜中の誰もいない道路をさまよいながら歌った。

 このように、この曲の歌詞の内容とはまったく関係ない、癒しソングとして僕と関わってきた。


 にしても、別れの歌であり、名曲である。

 どこかの雑誌で見かけたのだけど、

 “この「時よ」をアルバムに入れると、アルバム全部が「時よ」になってしまう”

と、吉田美奈子自身が話している。これは十分にうなづける。

 でなければ、いくらませていたとはいえ、中学校1年生の田舎坊主が、アイドルでもメジャーでもない歌姫の一曲にしびれるはずがない。

 しかも、この『愛は思うまま』というアルバムは、決して「時よ」一曲だけで他の曲がかすむアルバムではないと豪語したい。全9曲すべてが名曲で、一曲リピートもシャッフルもありえない完全アルバムと再び豪語したい。


 同時期デビューの、五輪真弓やユーミンとは違って、“マイナービッグ”でありながら、誰も真似することができない驚異的な表現力と、フュージョン、ソウル、ポップス、ジャズと、いかなる旋律にも声を乗せることができる類稀なうまさ。

 そう、「上手さ」という言葉を使うなら、ありとあらゆる表現が必要なアーティストのはず。


 でも、「上手い」から好きになるものではないのであって、彼女の歌が僕の何に火をつけたのか、いまだもって自分でもわからない。

 だから、今も聴く。

 今も、口ずさむ。

 しかも、なぜか、悩みも焦りも疲れもない

 そんな今も、聴いていて体と心が震える。




♪吉田美奈子「Let's Do It」 9:03~「時よ」

https://www.youtube.com/watch?v=YgJk5HVVYrY


現在地:新潟県上越市五智 走行中

https://www.google.co.jp/maps/place/%E4%B8%8A%E8%B6%8A%E5%B8%82%E7%AB%8B%E6%B0%B4%E6%97%8F%E5%8D%9A%E7%89%A9%E9%A4%A8+%E3%81%86%E3%81%BF%E3%81%8C%E3%81%9F%E3%82%8A/@37.1731366,138.2298303,16z/data=!4m15!1m7!3m6!1s0x5ff5b434b176c2a1:0xb6a35eb42711084b!2z44CSOTQ1LTAwNjcg5paw5r2f55yM5p-P5bSO5biC6KW_5riv55S6!3b1!8m2!3d37.3708159!4d138.5474601!3m6!1s0x5ff6786eb8e11911:0x1358229c7a667bbd!5m1!1s2018-10-31!8m2!3d37.1735171!4d138.2329953?hl=ja

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