vol.12~「Where the streets have no name」(1987) U2~

 多くの人が愛して止まないこのバンドとこの曲を、僕が聴き始めたのが、東京の大学を卒業して田舎の大学に入りなおした年の春だった。

 東京に残した当時の彼女からGW早々に別れを告げられ、大きな失恋の痛手に打ちひしがれていた僕に、U2は容赦なくダメだしをしてくれた。


 昔、大学の講義で、ある教授が「今は、コロッケが大嫌い」と言っていた。

 “コロッケが嫌いだなんて珍しいな”と思ってその続きを聞くと、貧乏な学生時代のご飯のおかずというと、ほとんど毎日コロッケで、今、コロッケを見ただけでも、当時の貧乏な生活が甦ってきてしまってとても食べれない、ということだった。

 そんなにトラウマになるほどなら、たまには天ぷらでも食べればよかったのに、と当時は思ったものだ。


 だけど、そういう理屈では済まないんだってこのときにわかった。

 「With or Without You」は、まさに、僕にとっての“コロッケ”だった。


 ♪僕の両手は縛られ

 僕の体は傷ついた

 もう僕から君は 

 得るものも 無くすものも

 何もない ♪


 聴き終われば、余計に悲しくなるのがわかっているのに、聴かないではおれない。聴くと何かが変わる、聴くと良くなるかもしれない。だけど、聴き終わったあとは、やっぱりつらさだけが残る。

 そんな麻薬みたいな曲だった。

 プロデュースしたブライアン・イーノですら半ば恨みながらの喝采。


 そんなアルバム『Joshua Tree』がこの頃、僕の傍らにあったのは、「With or…」をはじめ、「Where the streets have no name」や「I Still Haven't Found What I'm Looking For」、「In God's Country」などの曲が、僕の内面を代弁してくれ、叱ってくれ、勇気を与えてくれた、僕にとってこの上ないタイミングで発売されたアルバムだったからだ。



 「Where the streets have no name」は、その中でも、もっとも大好きな曲だ。というか、U2ファンでこの曲を嫌いな人はいないと思う。

 いろいろなライブ映像が世に出ているので、ファン個々にベストパフォーマンスがあるだろうけど、僕にとってのベストパフォーマンスは、2002年の第36回NFLスーパーボウルハーフタイムショーのときだ。

 第34回の大会以来のファンである、QBカート・ワーナー率いるセントルイス・ラムズが3点差でペイトリオッツに負けたことは悔しい限りだったけど、このときのハーフタイムショーは、今までも、これからも忘れられないパフォーマンスだった。


 フィールドに巨大なハート型のステージ。

 ドームの天井から巨大な白いカーテンが下がり、そこに、9.11で犠牲になった人の名前がスクロールされる中の「Where the streets have no name」。

 最後の、ボノの革ジャンの裏地のパフォーマンスも涙モノだけど、僕にとってはあそこで行なわれたすべてのパフォーマンスがベストだった。


 U2ファンの仲間にビデオテープを貸し、久しぶりに僕のところに戻ってきた擦り切れ掛けたテープは、その後、僕のビデオデッキの中で悲鳴をあげて、大破してしまった。


 今は、脳裏に焼きついた映像を反芻しながら、

 名もない道を走っている。




♪U2 「Where the streets have no name」

https://www.youtube.com/watch?v=og0V1UtjPt4


現在地:新潟県上越市柿崎区直海浜 走行中

https://www.google.co.jp/maps/place/%E5%93%81%E7%94%B0%E9%87%A3%E5%85%B7%E5%BA%97/@37.2700798,138.3726118,16z/data=!4m13!1m7!3m6!1s0x5ff5b434b176c2a1:0xb6a35eb42711084b!2z44CSOTQ1LTAwNjcg5paw5r2f55yM5p-P5bSO5biC6KW_5riv55S6!3b1!8m2!3d37.3708159!4d138.5474601!3m4!1s0x5ff5ce1e602c72dd:0x2a07cbf06c3a9d8f!8m2!3d37.2694681!4d138.3765551?hl=ja

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