vol.08~「東風」(1978) Yellow Magic Orchestra~

 「中華ラーメン」の赤暖簾ひとつのラーメン屋に入って、ラーメンの大盛りと餃子を頼んだ。

 行列ができる有名なラーメン屋ではなく、テーブルに着いたときにはもう店の名前を忘れてしまうようなありきたりな街のラーメン屋さんだった。

 赤いカウンターに4つに折りたたまれたスポニチと銀色の灰皿。

 14型のテレビにお昼のワイドショー。

 瓶ビールを飲むときに使われる小さくて細いコップに水が注がれ、文具店で買った透明ファイルにメニューが挟められている、そんなありきたりなお店だ。


 出てきたのは、予想通り、色の薄いスープに、なるとと、数本のメンマと、薄いチャーシュー1枚のラーメンだ。餃子は、にらの青い色が薄皮の向こうに見える小さなものだった。

だけど、今日は、そんな普通のものをいただきたかった。


 用もないのに競馬の調教タイムの記事を読みながら煙草をふかして、消費税込みの代金をカウンター越しに払った。

 お昼時というのに、お店には僕しかいなかった。



 キーを回してエンジンをかけると、勝手にワイパーが動いた。

 今は、曇り空で、薄いところから柔らかい光が射している。

 ダッシュボードからカセットテープを取り出して、ステレオに入れる。


 名前を自分で名乗ってから、女の人が、ナレーションし始める。

 「YMO、いよいよ解散。ううん、散開・・・」

“1984年1月NHK-FM”とテープケースに書いてある。散開した翌年に放送された番組を録音したものだ。


 武道館の散開コンサートの栄えある一曲目が『東風』だ。

 僕は、数あるYMOの曲の中で、「東風」が一番好きだ。しかも、ライブの曲が断然いい。


 ♪てんてけてけてけ 

  てけててけてけ 

  てけてけんてけててんてててん…♪


 まず、この前奏にやられてしまう。

 一気に、ハンドルを握っている手首付近まで鳥肌が立ってしまう。

 武道館のオーディエンスも大きな歓声を上げている。

 (ここまで、書いてきて気がついたけど、なんだかんだ言って、僕にとっては、どの曲も前奏が大きな位置を占めている。)



 YMOを最初に耳にしたのは、中学3年生のときだったと思う。

 一ヶ月5,000円という、当時、夢のような小遣いをもらっていたクラスメイトが「これ、なかなかいいよ」って「テクノポリス」のシングルレコードをさりげなく貸してくれたのが聴くきっかけだった。

 最初から最後までおいしい“全部サビ”みたいなメロディーに驚いたのと、赤い服を着た三人の男たちとマネキン人形のジャケ写がかもし出す異様感と期待感は、今でも忘れられない。


 繰り返される美しいメロディーを堪能していたから、道が海沿いから離れていることに気がつかなかった。




♪Yellow Magic Orchestra 「東風」

https://www.youtube.com/watch?v=YEmBNNuWQSY


現在地:新潟県刈羽郡刈羽 走行中

https://www.google.co.jp/maps/place/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%9B%BB%E5%8A%9B%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%B9%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE+%E6%9F%8F%E5%B4%8E%E5%88%88%E7%BE%BD%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80+%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB/@37.4296065,138.5992889,16z/data=!4m12!1m6!3m5!1s0x5ff455952acb5e19:0x4dee5e10a9c5f70e!2z5paw5L-d6a6u6a2a5bqX!8m2!3d37.5481628!4d138.6964642!3m4!1s0x5ff5b2f05b8aa913:0x2eceb7faf4cef593!8m2!3d37.4269853!4d138.6091375?hl=ja

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