第16話 ××の実力

「どうする、BB?」

「んー? ……燃やす」


迫りくる10体ほどの魔族の集団。

やつらは羽が生えてるので――というかあの体に対して小さな羽は空を飛ぶのに、本当に役立っているのか――器用にもこの狭い魔王城の回廊を飛んで近づいてくる。

あたしたちはそれを前に棒立ちで突っ立っていた。


「まあそう言うと思った……」


あたしは両腰に差した短剣を引き抜く。両手に構えたそれぞれの刃渡りは50cmほど。ほぼ至近距離でしか役に立たない。


(まあ投げれば別だけど……)


タイヘーが言うには相手の平均レベルは70。

対してこっちはあたしが58、BBが59……だったはず。

さてこの10レベルの差をどう埋めるのか。


「汝は幼炎なり。炎なりて、礫なり……ファイヤーボルト!」


BBが両手を弧の形に構えて、胸元で炎の矢を生み出す。

炎の矢は戦闘の魔族の一体を捉えた。――ように見えた。


「ひゅー、あぶねえあぶねえ……」


まるでその魔法の矢が見えているかのように、魔族は華麗に曲線飛行して避ける。

ちなみにあたしの目ではまだその矢は追いきれなかった。


(昔よりは見えるようになったけど……これもレベルアップの効果かな?)


「だが見えちまえば魔法の矢つったってなあ……あ?」

「ナナナナナナナンンンンンンンジジジジジジジ――」


BBはまた魔法を唱える。ただし今度はだ。

特殊な詠法で魔力を意味のある術式に組み上げる。


「は、多重詠唱だと!?」


まあ驚くわよね。普通。


(伝説に出てくる従者レベルだもんね、多重詠唱なんて……)


「何者だ、お前……」

「ただの宮廷魔術師? ……ツツツツツツツブブブブブブブテテテテテテテ――」

「中断詠唱までできるのか!?」

「ファイヤー……」


BBの周囲に出現する炎の矢。ただし今度は数が段違いだけど。

無数の赤い炎に囲まれたローブの少女を前に魔族が怯む。


「ふ、ふざけんな……よ、避けられるわけ……」

「――ボルト!!!」


――シュババババ!!!


炎の矢が横殴りの雨のように、敵に向かって飛来していく。

魔族たちはそれこそ無茶苦茶に回廊を飛んで逃げ回るが。


「ぎゃっ……!?」

「ぐえっ……」

「あぎゃああああ!」


三体が炎の矢に補足され、焼け落ちた。


「ば、化け物が……」

「案外少なかったね」

「ザンネン……全滅狙えるかと思ったのに……」


べつにBBだってこういったことが、最初からできたわけではない。

これもタイヘーとのレベルアップの成果なわけね。


「女ぁ……貴様から血祭にあげてやる!」

「ああん?」


魔族はBB相手は不利と悟ったのか、あたしに目標を定めてきた。

まあその判断は当然っちゃ、当然。

魔族はあたしが気づいていないとでも思ったのだろう、背後に回って手斧を頭上に構えた。


「でも、その判断は間違いだったわね」

「は……?」


あたしの短剣が魔族の喉を貫いていた。


「あが……?」

「…………」

「な、油断しやがって……この女!」


魔族があたしに向かって剣を振りかざす。


「そこにもうあたしはいないんだけどね」


あたしはその背後から声をかけた。


「え、なんで後ろに……」

「なんででしょう?」


あたしは空を飛んでいる敵の背後から背中に乗り、肺腑を短剣で貫いた。

落ちていく魔族を眺めながら次の獲物の背中に飛び移る。


「いや、待て! なんだその動き!? どうやって移動した……?」

「バッグスタッブってスキル知ってる? 暗殺術のひとつなんだけど……背後から刺すのよ」

「は、は?」

「そんで背後から刺すためには、敵の後ろに回る必要があるわけでしょ……例えばそのスキルで必中を達成できた場合……あとはわかるでしょ?」


つまりそういうことだ。

あたしは魔族の心臓を狙いたがわず、差し穿つ。なにせ必中を達成しているのだ、目をつぶっていても外さない。外せない。


「お、おいおい……お前ら弱いんじゃないのか? 弱かったからあの男の後ろに隠れてたんじゃないのか?」

「BBあたしらって弱かったっけ?」

「知らない……興味ない……」

「だってさ。あたしの相方はそう言ってるけど?」

「は、ははは……に、逃げろ!」


魔族はその場から逃げ出した。


「BB」

「はいよー」

「遅い、いまさら魔法使いの詠唱が間に合うものか……!」

「――ストーンピック!!!」

「はぎゃっ……!」


魔王城の回廊を形作っていた石床が変形し、らせん状の錐状になって残りの魔族を尻から脳天まで刺し貫いた。


「な、なじぇ、どうして……?」

「だから、こっちは中断詠唱ができるんだって……」


詠唱が途切れようが、その間になにをしゃべろうが詠唱を連結させれば術式は完成するわけ。


「さ、馬鹿タイヘー探しに行こうか?」

「タイヘーはどうでもいいけど……セシルが心配……」


あたしらは魔族の死骸を後にして回廊を進んだ。


「10レベル差って案外たいしたことないのね」

「……?」

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