第12話 目指すは××

「おら、どうした、かかってこいや」

「ブモォ……」

「おい! ビビッてんのか? ああん?」

「ブモォォォォッ!!!」


俺はビッグラビットを挑発する。

あんまり賢くないんだ、さっさとかかってこいってんだ。


「ブモッッッ!」


ビッグラビットは無謀な俺に向かって襲いかかってくる。

そしてその強靭な顎と発達した前歯で、俺の腕を断ち切らんと噛みついてくる。


「…………」

「ブモッ、ブモォォッ……ブモモッ!」


・・・。・・・・・・。・・・・・・・・・・・・。


ギリギリギリ。

ビッグラビットは俺の腕を断ち切らんと必死に前歯を突きたててくる。

俺の腕を断ち切らんと。

断ち切――。


「はよ、断ち切れや!!! せいやー!」


俺はビッグラビットに頭突きした。


「ブモォオオオオオオッ……!!!」


ビッグラビットは盛大な悲鳴を残して、後ろに横転した。

そのまま絶命する。


「いちいち、大げさなんだよ! 少しは俺にダメージ与えてから、死ね!」

「いや、頭蓋骨割られたらそりゃ悲鳴もあげるわ」

「クソ、俺にダメージを与えられるやつはいないのか!?」


俺はなげいた。

街周辺を探したが、俺に少しでもダメージを与えられるモンスターはいなかった。

時にはビッグラビットの群れに突っ込んだが、揉みくちゃにされただけで一切ダメージは通らなかった。逆にパンチ一撃でそのすべてを吹っ飛ばした。


「ふざけんな!」

「ふざけてんのはあんたの強さだけどね……セシル、ヒールお願い」

「はい!」


俺はセシルからヒールを受けているアリシアを血眼になって凝視した。


「……なにうらやまし気に見てんの?」

「羨ましいんだよ! 純粋になあ!」


それは魂の叫びだった。


「あー、いいなー! ヒール受けられていいなー、モンスターに少し噛まれただけでダメージ受けられるやつはいいな~? どんな気分なのかな~、雑魚敵にダメージ食らうとか~~~?????」

「嫌味か」


嫌味ではない。

俺は本当に羨ましくて羨ましくて羨ましくて仕方ないのだ。

ヒールを受けられる、アリシアやBBが。

モンスターからダメージを受けられるアリシアやBBが。

俺は目ん玉ガン開きでふたりを凝視する。


「うわ、こわっ」

「キモッ……」

「うるせーわい」


しかし本当にここらへんの敵くらいではもはや1ダメージすら受けない。

おかげで俺はヒールを受けても傷が治らなかった。そもそも治すべき傷を負わないのだから仕方ない。


「あ……そういやアリシアたちはセシルにヒールしてもらっても平然としてるよな。気持ちよくないのか?」

「それなんだけど……あんたが特殊なだけだと思うわよ。別に普通だし」


言いながらセシルに癒してもらった腕を振るアリシア。


「そんな馬鹿な。あんだけ気持ちいいのに……ああ駄目だ、思い出しただけで我慢できん、ああー、くそー!」


俺は頭をかきむしりながら、うなった。


「仕方ない。かくなる上は奥の手を使うか」

「まーたしょうもないこと考えてるんでしょ?」

「しょうもなくないわい。とうっ!」

「ちょっとちょっと、なにしてんの!?」


アリシアが俺の腕を取って止めてくる。


「ええい、やめろ。なにしてる?」

「あんたこそ、その剣をしまいなさいよ! なんで自分の腕に当ててんの!」

「切るんだよ! 自傷行為ならダメージが通るだろうが!」

「頭イカれてんの!?」


こっちはとっくにヒールジャンキーだっつってんだろ。


「見とけよ、この野郎!」


ざくっ。

俺は自分の腕をなまくらで切った。


「よし! セシル、ヒールを……」

「よしじゃない! ああ、ああー、血がどばどば……どばどば?」

「……?」

「タイヘー、腕の傷治ってますけど?」

「そ、そんな馬鹿な、どうなってんだ!?」


いま切ったよな。

俺自分で自分の腕を切ったよな。


「自然回復力がダメージを上回ってるね」


BBが冷静に解説してくる。


「ふざけんな! マジふざけんな!! ファ○ク!!!」


レベルがあがりすぎて満足にダメージも負えないのか。俺はただセシルのヒールが受けたいだけなのに。


「どいつもこいつも情けねえ、俺にちっとは傷を負わせられるやつはいないのか!?」

「悪の総大将みたいなことを言い出した……」

「悪の総大将……?」

「……?」


BBのひと言がヒントだった。


「いるじゃねえか、俺にダメージ与えられそうなやつ」

「まさかあんた……」

「タイヘー、どこ向いて言ってるんです?」

「もちろん、あそこだ。俺に傷を負わせられそうなやつがいるところだよ……くくっ」


俺はギラギラした目つきでそこを見つめた。

街の向こうに鎮座する伏魔殿――魔王城を。

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