第9話 ××手前の街
「金を稼ぎたい~?」
俺はまずセシルにこの世界での金の稼ぎ方を聞いた。できるだけ手っ取り早く稼げる方法で。
するとセシルは唇に人差し指を当てながら、首をかしげて半疑問形で教えてくれた。
「肩たたき、ですかね?」
役に立たんかった。
だから俺は宿屋の主人に聞いた。
「お前らのその腰についてるものはなんだ?」
俺は腰を見た。セシルも腰を見る。
「腰ですね!」
「なに、セシルいまボケ強化週間なの?」
「……冒険者なら、モンスター倒して稼げ」
宿屋の親父に教えてもらった。なんでも倒したモンスターの体の一部を城壁の衛兵に持っていけばお金と替えてもらえるらしい。
これは俺の推測だが街道警備や街周辺の安全確保が主な目的なんだろう。
「よし、行くかセシル!」
「はい!」
こうして俺は日銭を稼ぐため――。
「このビッグラビ……ぎゃああああ!」
日銭を稼ぐ――。
「くく、俺がそう何度もやられると……ぐぼふぉおおお!?」
日銭を――。
「全然稼げんじゃないかあああああ!!!」
「タイヘー、お腹減りました……」
ぐぅ~。
俺とセシルは腹を鳴らして、道にへたり込んでいた。
ここ三日間まともに飯を食っていなかった。
「そういやあの爺どもに飯をたかれないか?」
俺は恥も外聞も捨てて、セシルに提案してみた。あの孫命みたいな爺どもだ、飯くらい恵んでくれるだろう。
「いや……うち貧乏なんで。私が魔王退治に出ることになったのも、自分のご飯くらい自分で稼がないと立派な大人にはなれないって理由ですから」
「食い扶持減らし!!!」
爺ども
そんなこんなであの手この手でモンスターを倒そうとしていたが、一向にうまくいかなかった。
それというのも、この街周辺のモンスターの強さが問題だ。
初日、もはやテンプレのように瞬殺された俺は考えをあらためた。
せっかく異世界転生で得た能力があるのに、それを使わないのはもったいない。
俺はインディアンポーカーを使って、低レベルモンスターを探した。
結果、わかったことはこの街周辺のモンスターの平均レベルは50前後で、最低でも39レベルが一匹だけいたこと。
もちろん俺はそいつに特攻して、気絶した。気づいたらセシルの膝の上だった。気持ちよかった。
いや、違う。そうじゃない。
なんとかしてモンスターを倒さないと。
「倒さないと飢え死にしてしまう」
「飢え死にはいやですー」
「なに、あんたたち? 冒険初心者なの?」
「ん?」
俺に声をかけてきたのは髪を左右で結った女。
「ああー、お前は! いつぞやの!」
そいつは例の酒場でハゲの大男をエルボー一発で打ちのめした38レベルの、あのゴリラ女だった。
「……? あれ、会ったことあったっけ?」
「ああ、そうかよ。覚えてもいないのかよ」
「アリシア、誰ー? その人ら……」
女の後ろからひょっこり顔を出したのは眠たそうなローブの女の子だった。
個人的にはちょっとストライクゾーンより。
「タイヘー、なにか変なこと考えてます?」
「ウ、ウウン、ベツニー?」
俺はセシルから視線をそらした。
「知らない。どこにでもいる飢え死にしかけの初心者」
「うん、そかー。行こうかー?」
「待てや!」
「……?」
俺はふたりを呼び止めた。
ちなみに俺のインディアンポーカーで見たところ、ローブの女の子のレベルは35だった。
「なによ?」
むかついた俺は振りかえる左右結いの女に言ってやった。
「すみません、お願いします! なんでもしますからこの通り、モンスター倒すの手伝ってください!!!」
「…………」
俺は街道の石畳が削れるほど頭をこすりつけて、土下座して頼み込んだ。
ふたりはゴミを見るような目でこちらを見ている。
くくく、馬鹿め。こいつらに俺がいかに策士か思い知らせてやる。
正直、ここ数日街や外でモンスターを追っかけていてわかったことだが、この世界の冒険者のレベルはいいとこ20レベルくらい。平均すると10レベルくらいだ。
一方こいつらのレベルは30越え。左右結いのほうは40レベル近い。そんなやつ街の中でもひとりも見ない。筋骨隆々の屈強な戦士だって21レベルくらいだ。
こいつらがどれだけ強いかわかってもらえただろうか。
(くくく……そんなお前らを仲間に引き入れれば俺はこの街で最強のパーティを率いた……)
「あっそ、じゃあね」
「だからちょっと待てや!」
「だから、なによ?」
「待ってください、お願いします!」
俺はぐりぐりまた頭を石畳にこすりつけた。
「いま俺たちのパーティに入れば、いずれ魔王を倒した仲間として……」
「行こっか、BB」
「うん、行こー行こー」
「くっ、この手は使わずにおきたかったが仕方ない……」
「いや、目の前回り込まれても邪魔なんだけど……」
俺は奥の手を使うことにした。
隣のセシルの肩をつかんで、前にずいと押し出した。
「この一見ただの幼女に見える、セシル!」
「え、え? 私ですか?」
「その子がどうしたのよ……つか邪魔なんだけど?」
「な、なんと……回復魔法が使えます!」
ど、どうだ……やったか?
「…………」
「…………」
しばし無言でにらみ合う。
「はいはい、ウソウソ。行くよ、BB」
「うん」
「待てや、この!」
三度相手を呼び止めると、俺はシャツをめくって腕を出す。そして腰のなまくらを引き抜いて腕に当てた。
「え……ちょっと! 逆上しないでよ、なにやってんのよ!」
「見せてやるよ、おいセシル頼んだぞ」
「え? え?」
俺は一思いに腕を切った。
「痛ってええええええええええ!!!」
血がどばどば出てきた。
足下にぽたぽたと熱い血潮の池が出来上がった。
「馬鹿、当たり前でしょうが! ちょっと待ってて、止血してあげるから……」
「タイヘー見せてください!」
俺はだらだら血の流れる腕をセシルに見せた。
俺は涙目で幼女へと必死に訴えかける。
「はよ、はようヒール! 衛生兵、めでぃ~~~っく!!」
「はいはい……」
涙目の俺にセシルが呪文を唱え、傷が癒えていく。
「ほひょおおおおおおおおうっっっ!?」
「ひゃっ!? なになに?」
俺は気持ちよさに思わず情けない声を出してしまった。
ああ、これだよこれ。
「なんだかわからんけど……キモい」
うるせえ。ローブの女の子が俺をなじってくる。
俺はとりあえず傷口のふさがった腕をふたりに見せる。
「どうだ、これが証拠だ!」
「……ウソでしょ、マジ?」
「アリシアー?」
「ん、なによ?」
ローブの女の子が眠たそうな声でたずねる。
「こいつ切り刻んでいい?」
「なんで?」
「あれの回復量を調べたい」
「ダメ」
「え~」
このローブの女の子物騒なこと言ってる気がするんですが、気のせいですかね。
「ちっ……わかったわよ、回復魔法が使えるんならパーティに入れてあげてもいいわよ」
「あの、ひとつ聞いていいか? もしかして回復魔法って貴重?」
「はあ? 知らずにやってたの!」
聞くと回復魔法が使えるのは100年に一度くらいの才能らしい。
え、めっちゃ貴重ですやん。
(つか俺よりセシルのほうがチートなんじゃね?)
そんなことを俺が思っていると、ふたりは自己紹介してくる。
「あたしはアリシア・A・アルベルト。こっちはBBよ」
「BB。よろしくー」
「俺は傾山泰平だ、よろし……」
「いや、あんたは知らない。どっか行って。あたしたちの用があるのはそっちの女の子なの」
「待て待て待て」
「なによ、あんた戦えるの?」
「いや、戦えないけど――」
「じゃあどっか行って」
「待・て・や」
「駄目です、タイヘーが一緒じゃないと私は行きませんよ」
「むぅっ……」
セシルが俺たちの間に割り込んできて、アリシアにそう直訴する。
セシル、お前。俺は柄にもなく感動してしまって。
「タイヘーは私のペットですから!」
「セシルゥゥゥゥ!!!」
ずっこけた。いやたしかに初日召喚獣とかなんとか言われたけども。
「ペット? はあ……仕方ないなあ。わかったわよ」
納得するんかい。
「タイヘーだっけ? いいけどさ……見たところビッグラビットも倒せないっぽいし、なんであんたこの街にいるの?」
「なんでって……そりゃ」
異世界から来たやら、異世界転生なんて概念ここで説明してもわからんだろうな。どう説明すべきか。
「もしかして、あんたたちもこの街に魔王退治に来たの?」
「……? どういう意味だ?」
言葉の意味はわかるんだ。けどそのニュアンスというか、言い方が引っかかる。
まるで、わざわざこの街に来るのは魔王退治に来る冒険者だけみたいな。そんな言い方だ。
「…………」
ん、とアリシアが親指で背後を指さす。
なんだ、そこになにがあるって。
「は?」
そこには城があった。あまりにも禍々しく、その上空にだけ暗雲が立ち込め、翼を持ったモンスターがぐるぐると飛び回っている異様な城が。
直感を使うまでもない。どっからどう見ても魔王城だった。
「魔王城の目の前に堂々と街作ってんじゃね―――よ!!!」
俺が召喚されたのはラスボス手前の街だった。
そりゃ、周辺のモンスターもレベルが高いわ。
「知らなかったんですか、タイヘー?」
「知らんわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます