第8話 能力名【××】

「くっ、くぐっ……こんのぉ……!」


俺は水を張った洗面桶を覗いて、鬼の形相で自分の顔とにらめっこしていた。


「ふぐっ、ふっ……はっ! とうっ! やっ、このぉぉぉ!」

「…………」


白目が見えるほど目を上に押しやり、額に血管が浮き出るほど力を込める。

他人から見ようによっちゃ、俺はアヘ顔しているように見えたことだろう。


「はぁはぁ! クソ、駄目だ!」

「頭が……?」

「ちげえよ!? 余計な心配すんじゃねー……」

「…………」


うわ、めっちゃジト目で見られてる。本気で頭の心配されてる。

俺はにっこり笑って、大丈夫だよと陽気に振舞って見せた。


――にちゃぁ~~~。


「おたくの兄ちゃん大丈夫か……モンスターに殴られすぎたんか?」

「いえ、お気になさらずに……いつもの発作ですから」


そんな奇妙な持病があってたまるか。

俺は雑魚寝部屋からセシルを連れて部屋を出た。


「それでなにをしてたんですか、タイヘー?」

「いや、自分のレベルをな……」


昨晩、人々やモンスター、ときには動物の頭上に表示される数字がレベルだと判明して以後、俺は必死に自分のレベルを確認するべく、頭上を見よう見ようとしていた。

もちろん無駄な努力に終わったわけだ。

人間の目の配置的に自分の頭上は覗けない。

だからまずは鏡を探した。だがそんな高価なもんは宿屋には置いてないらしい。恨むぜ、ファンタジー低工業力。


「レベル? タイヘー昨日もそんなこと言ってましたね。それってどういう意味なんですか?」

「ああ、なんつったらいいのか……つまり強さの指標だよ。レベルが高いほど強いわけだ」

「はあ……でもそんなこと知ってどうなるんです? いくらそんなこと知っても、強い人やモンスターには勝てないわけでしょ。だったら知ってても知らなくても

同じじゃないですか」


いやそうじゃない。

レベルっていう歴然とした指標があれば、戦うべき相手と戦いを避ける相手の区別がつく。

なにより強くなるには、一般的に自分より少しだけ格上の敵と戦うのが一番効率がいいとされている。

つまり闇雲に訓練しているそこらの冒険者より、戦うべき相手を選んで短期間で強くなれるはずなんだ。

だからなんとしても俺は自分のレベルを知る必要がある。


そして今朝妙案を思いついた、水の張った桶なら鏡の代わりになるはずだ。

俺は意気揚々と洗面桶を覗いた。ダメだった。水面に自分の鏡像のその頭上にはなんの数字も見えなかった。

もしかして俺にはレベルが割り振られていないのかと思った。


『タイヘー? さっきからなにを洗面桶とにらめっこしてるんです?』


そこへセシルも洗面桶を覗いてきたが、水面に映る彼女の頭上にもやはり数字はなかった。俺は顔をあげて確認すると、実像のセシルの頭上にはやはり82の数字が。


(どうやら、鏡像にはレベル表示がされないらしい)


正確には俺の目じゃ、確認ができないらしい。

これはやっかいなことだぞ。


(周りの人間や、相手モンスターのレベルはわかる)


そいつの頭上を見上げればいいだけのことだ。

しかし相手が自分より強いかどうか確認するためには、自分のレベルを知る必要がある。つまり自分のの確認が必要なわけだ。

それが俺には見えない。


「はあああああ! こんなもんインディアンポーカー状態じゃねえかあああぁぁ、やってられっかー!!!」

「ひゃうっ!? 大声出してどうしたんですか、タイヘー?」


こうして俺のこのレベル透視能力の名称が決まった。

能力名【インディアンポーカー】である。

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