第5話 俺は幼女の××

「大丈夫ですか、タイヘー?」

「んあ~……大丈夫なんじゃないかー?」


馬車に轢かれた俺は気がつくと、ベンチの上でセシルに膝枕されながら回復魔法ヒールをかけてもらっていた。

頭がぼうっとして、ふにゃふにゃとした声しか出せない。

どうなったんだ、俺。


「なんだか手足がブエルみたいになってましたよ」

「それって……ライオンの頭に手足が卍みたいになった、あの悪魔のブエル?」

「そのブエルです」

「…………」


よく死ななかったな、俺。

そこでようやく俺は重大なことに気がついて、飛び起きた。


「アアアアアアアッ!」

「ひゃんっ!?」

「傷は? 俺の傷はどうなった?」

「え、え……あのヒールでもうほとんど回復しましたけど」

「そーれじゃダメじゃーん!」

「え、え?」


戸惑うセシルに説明する。


「俺はセシルお前のヒールで癒されたいんだ!」

「は、はあ……癒しましたけど?」

「違う。気絶してたら意味ないだろう。だから、大けがしたときは俺が意識を保ってるときにヒールしてくれ。いいな? 絶対だぞ」

「そんなあ……無茶な」


◆ ◆ ◆


「それで、セシルはどこかの国のお姫様なのか?」

「え、なんでですか? 違いますけど……」

「爺様たちがそう呼んでた、お前のこと」

「あー」


セシルは人差し指を唇においてしばらく考えていた。悩む姿も可愛いな。


「私はあの大聖堂の大司教の娘なんです。お爺様方は大聖堂に古くから仕える司祭様なんですが……小さなときからずっと姫様姫様といって育てられてきたので、違和感がなかったです。たしかにおかしいですよね」

「ほーん」


いやいまでもセシルは小さいがな。


「じゃああの爺様らにとってセシルは孫娘みたいなもんなんだな。よく魔王討伐なんかに行かせられるな、心配じゃないのか?」

「それが定められた運命ですから……それにタイヘーのことを信用してるんですよ!」


いや、それはない。絶対ない。


「まあいいや。じゃあ爺さんからもらった支度金で装備を整えますか」

「はい!」


俺はセシルの案内で武器屋に連れてきてもらった。


「…………」


武器屋の店主は正面を向いていたが、俺たちが入ってくるとむすっとした表情でこちらを睨んだ後、また正面を向いた。不愛想な店だ。


(いや、外国の銃砲店だってにこやかに接客なんてしないし、刃物をむき出しのまま扱ってんだ。警戒しててもおかしくはないか……)


俺は勝手に納得して、適当な剣を選んだ。俗に言う普通のブロードソードだが、刃物の良しあしなんてわからない。それにこんな店売り装備どれ選んでも変わらんだろう。

店主は俺が選んだ剣を見て口を開いた。


「……5万ゴールドだ」

「高いな!」


初期武器の割りに高すぎないか。

いやいや、待て。俺はこの世界に来て間もない。こっちの相場なんて知らないし、そもそも1ゴールドがどれだけの価値を持つのかすら知らない。

だから案外5万ゴールドっていうのは安い金額なのかもしれない。


「セシル、爺様からもらった支度金はいくらだ?」


セシルが革袋を手のひらの上で振って、中身を取り出す。

ジャラジャラという音とともに彼女の小さな手のひらの上に黄金の貨幣が積み上がっていく。


「50ゴールドですね」

「なるほど50万ゴールドか」


それだけあればたしかに装備は余裕で整えられそうだな。


「いえ、50ゴールドです」

「は?」

「50ゴールドですよ?」


買えないじゃん。装備整えられないじゃん。


「待て待て。この武器屋高すぎないか!?」

「不満があるなら他の店に行け」

「くっ」

「タイヘー、この武器屋がこの街で一番安いと噂ですよ」

「マジかよ」


どうなってんだ?


「セシル、ひとつ聞いていいか?」

「はい?」

「50ゴールドで買えるものってなんだ?」

「ビスケット6枚ですかね?」

「ただの小遣い渡してんじゃねーよ! クソ爺!!!」


俺はセシルから空の革袋をひったくって武器屋の床に投げつけた。


「はぁ、はぁ……! お菓子買って仲良く食えってか!」

「タイヘー、ビスケットは焼き乾かしたパンのことで保存食として……」

「どちらにしても魔王討伐の支度金じゃねーよ、その額は!」


だあああ、もう。

武器屋の店主がはっと気がついたようにセシルに声をかける。


「なんだ、よく見たら大聖堂のお嬢ちゃんじゃないの? 魔王討伐に行くのか?」

「はい! 召喚獣も手に入れて、ついに出発です!」

「ははっ、がんばってこいよ」


なんだそのやり取り。

ちょっと小高い山に遠足に行くんじゃね――。


「召喚獣って俺のことか!?」

「そうですよ? いまさらなにを言ってるんですか、タイヘー」


待て待て。じゃあなにか。

俺はずっとシエルに犬か、猫みたいに思われてたってことか。


「タイヘーは野犬みたいで、可愛いですねえ……ふふふ」

「納得いかねー」


俺はセシルのペット扱いかよ。ほんと納得いかねー。

そんな俺たちを見かねたのか、武器屋が声をかけてきた。


「おい、兄ちゃん」

「ん、なんだ? 武器くれんのか?」

「いや、武器はやれないが……装備が欲しいなら城壁の詰め所で魔王討伐の勇士を

募集してるから、そこで登録すりゃ最低限のはもらえるぞ」


そういう情報はもっと早くくれ。

なんか街の外に出る前からどっと疲れた。

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