第4話 ××のはじまり

「だからやめんか!」

「あいたっ!」


ぽかりっ!


また俺は爺に頭を小突かれた。

なお、このときどうして俺の頭からスポーツ飲料みたいな音がしたのかはいまになってもわからない。謎だ。

閑話休題。


「人の頭をぽかぽか殴るんじゃない、このハゲ爺!」

「うるさいわい」「姫様を怖がらせるんじゃない、この痴れ者が!」「恥を知れ、恥を!」


文句言うたび三倍になって返ってくる。

なんだこの地獄。いや爺獄。


「セシルは怖がってないよな?」


俺は神官幼女にできるだけフランクに問いかけた。


「ぴぃっ!?」


怖がられた。

爺さんの腰に掴まって後ろに隠れてしまった。ちょっと悲しい。


「……怖がらないで」

「は、はい……」


セシルは素直だった。

助かった。

さて、このままでは話が進まないので俺はこの場にいる四人に問いかけた。


「それで? なにゆえこの俺を召喚した。理由を聞こうか……」

「悪魔みたいなこと言い出したぞ」「姫様こちらへ、悪魔がうつりますぞ」「恥を知れ、恥を!」

「召喚しといてなんだその言い草! 悪魔が感染るってなんだよ!? 三人目の爺はほかになにか言えんのか!」

「我が名はミノース」

「言えるのかよ!」


ああ、駄目だ。話が進まない。


「なるほど、つまりそこのセシルと魔王討伐の旅に出ろって話だな」

「うむ、そのとおりじゃ」

「――って、これ二話くらい前に言ったことだろうが! 二・度・手・間!」

「タイヘー」

「ん?」


セシルが爺の後ろから出てきて、可愛く首をかしげてくる。


「改めて、これからよろしくお願いしますね!」


あ、可愛い。


「貴様、また姫様を抱きしめようとしとるな」

「ちっ」

「なんじゃその舌打ちは!」

「姫様。支度金です。これでこの悪魔の装備を整えるといいでしょう」

「ありがとう!」

「悪魔じゃねー」


爺さんのひとりがセシルに革袋を渡した。中から金属のこすれる音がする。支度金つってたから、中は金貨か銀貨か。


とりあえずこうして俺はセシルという幼い神官の少女との魔王討伐の旅がはじまったのだった。

まだこの世界についてはなにもわからないことだらけだったが、元の世界で死んじまったんだ。

とにかく神様からもう一度もらった命、この世界で精一杯生きていこう。


「さあまずは情報集めのために酒場かな……」


俺は大聖堂の扉を豪快に開いて外に出た。

目の前には広い街道がずっと遠くまで伸びていた。

俺の旅はここからはじまる。


「あ、タイヘー危ない!」

「え?」


――俺は馬車に轢かれた。

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