第2話 ××魔法

ぼこぼこに殴られた。

これでもかってくらい殴られた。

セシルの脇に立っていた三人の爺さんに、身柄を拘束され彼女から離された上、しこたま殴られた。


「当り前じゃ!」「姫様になにを狼藉を働いておる、この痴れ者!」「恥を知れ、恥を!」


三人いっぺんにしゃべるんじゃない。うるさい。


「だいたいじゃな……」


ああ、うるさいうるさい。

爺の説教なんて聞きとうないわ。カットだ、カット。


――カット。


俺は腕組みしながらシリアスな表情でうなづいた。


「なるほど。話は理解した。そこのセシルと魔王討伐の旅に出ろって話だな?」

「まだ何も話しとらんわい」


ちっ。


「あのあの、血が出てますよ?」

「あん?」


セシルが俺のことを心配して、顔を覗き込んでくる。

爺さんに殴られた傷か。額でも切ったかな。


「鼻血です」


ダサイな! じゃあ俺はいままで鼻血だらだら流しながら腕組みして、真剣な表情してたってことか。ダサイな!!!


「待ってください、いまヒールをかけますから」


そりゃあるわな、回復魔法。ファンタジーの世界だもんな。


「なっ、姫様お待ちください! このような者の鼻血ごとき……」


ええい、いちいちでしゃばるな爺さん。


「じい?」

「むっ」


セシルはじいさんを睨むとめっと言いながら、言い含める。


「暴力なんて聖職者としてあるまじき行為です。タイヘー、私の身内がご迷惑かけました」

「お、おお……」


セシルがぺこりと頭を下げてくる。

しっかりした娘さんじゃないか。そこの爺どもとは大違いだ。


「なんじゃ、その目は?」

「べーつにー」


俺はセシルが鼻に小さな手をかざすのを見届けてから、目をつむってじっと待った。

セシルが静かにつぶやく。


「癒しの力よ、理力よ……我に、汝に、すべてに安寧を――」


呪文もらしいな。

はたしてこれで本当にこの鼻のぬめりは止まるのだろうか。

俺は正直、あまり期待せずに待った。


「ヒール!」

「――!?」


なっ。そのときの俺の受けた衝撃は、とてもひと言では語りつくせなかった。

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