とても頼りになるお方

 どうにもならなくなった私は、相沢さんに相談することにしました。


 相沢さんはサークルの先輩です。多変親切な方で、その上ハンサムでスタイルもよいため、女性から大変人気があります。

 しかしながら、数多くの別嬪さんとの噂が何度も流れたのにもかかわらず、お相手は皆違う方と幸せを掴んでいるそうです。不思議ですね。

 そんなこんなで「幸福請負人」だなんて呼ばれているとか。先輩と真逆ですね。


 さて、「恋を知らぬ手負いの獣」「アイアンメイデン」こと私は、この「幸福請負人」の霊験にあやかろうと相沢さんの元を訪れたのでした。


「やあ、こんばんは。あんまりちゃんと話したことはなかったよね」

「相沢さん、折り入って相談したいことがありお呼び立てしました」

 ほぼ初対面ですが、単刀直入に行きます。

「恋をしました」

「そうか。恋か」

「………」

「………」

 単刀直入に行きすぎました。ほぼ初対面なのに。

 いきなりここから縁結びをお願いするの、めちゃ恥ずかしいです…。


「それで…」

 相沢さんが無理くり口を開いてくれました。気まずい沈黙でした。気まずかったのは相沢さんも同じでしょうに、噂通り親切な方のようです。

「それで、恋について僕に相談したいことがあると?」

「はい、そうなんです」

 いちばん気恥ずかしい所を肩代わりして下さいました。ありがたいです。

「お相手の問題?」

「お相手の問題です」

「難攻不落?」

「難攻不落です」

 先輩以上に難攻不落の相手なんているんでしょうか。なんたって「別れ話請負人」ですよ?

 もっとも私も「アイアンメイデン」ですが。

「競争者多数?」

「いえ、競争者はあまり聞いたことがないです。敵は多いみたいですが…」

「ふーん…実態が分かりにくいなあ。そのお相手の方はド真面目の学徒で、学問こそ学生の本分、女性にはわき目も振らずという感じだったりするのかな?」

「いいえ、そんなことはないみたいです。いくつもの教科を再履修しているみたいですから」

「ううん…?」

 相沢さんは益々わからないという顔をして首をかしげています。実際私もどうやって先輩のことを説明したらいいか決めあぐねているのです。

「差し支えなかったら、一応お相手の方の名前を聞いてみてもいいかな?」

 もしかすると相沢さんほど交友範囲の広い方なら、先輩も方面によっては有名人の節がありますから、その噂くらいは耳にしているかもしれません。

「相沢さん、『別れ話請負人』って知ってますか?その…」

 途端、先輩は飲んでいたコーヒーで盛大にむせました。盛大に三十秒ほど咳をし続けた後、大声で叫びました。

「見どころあるな、君!」



 どうやら相沢さんは先輩とお知り合いだったようです。話が速くて助かります。

「しかし君、よりによってあの唐変木とは…確かに難攻不落だ。奴は人と人の感情を察するのは上手いが、自分に向けた感情となるとてんで駄目だからな」

「本当にそうなんです。そもそも先輩を捕まえるのに一苦労で」

 相沢さんは呵々と笑いました。

「そうだろう!そうだろう!あいつほど神出鬼没な奴はこの大学にはそうそう居ないよな!」

「笑い事じゃないんですよ…。大学中を探し回るおかげで私、3回生の方よりもずっとキャンパスに詳しくなっちゃったんですから」

「それは苦労をしてるね!」

 相沢さんはひどく上機嫌そうに笑います。つられて私も楽しくなってきました。

「それに先輩、やっと見つけてお話ししても『ウム』ばかり言って、長い会話にならないんですよ……」

「うーん?それは奇妙だな」

 相沢さんが顔をかしげます。

「あいつ、詭弁と奇策が信条なような奴だからなあ。あいつがあまり喋らないというのは妙だ」

 ショックです。先輩は口数の少ない方なのかと思っていました。もっとお喋りできるものならしたいです。

「もしかして私、疎まれたりしてるんでしょうか……?」

 不自然に出現する後輩を、先輩は嫌がったりしていたのかもしれません。

「うーん、直接聞いたわけじゃないから確かなことは言えないけど……」

 相沢さんは眉根を寄せて続けます。

「あいつは相手を疎んでるからと言ってぞんざいに扱うやつじゃないし、それにもし本当に疎んでいるなら、それこそ何らかのサインは発すると思うよ。

 あいつはお互いが傷つかないようにすることに関しては、やけに繊細で勇気があるんだ」

 そうならばいいのですが……。少し不安です。



「さてと……。それじゃあ次のステップはデートかな」

「デデデデートですか⁉」

「うん。デート」

 いきなり飛ばしすぎやしませんかね!?

「やっぱり二人で過ごさないと、いつまでもその他大勢の一人だからね」

 その他大勢……、つらい言葉です。むかし色恋沙汰に巻き込まれたときはあんなに切望してた立場なんですけどね。

「いやでも私、先輩と向き合うと全然素直にお喋りできないんです!」

「それだったら、どこかに何かを体験しに行く、みたいなのがいいんじゃないかな。いざとなったらそっち側に集中すればいいような」

「その上私、緊張して歩き方も変になっちゃうんです!ひょっこひょっこってなるんです!」

「うーん、それは困ったね…」

 喋れない、歩けないとは確かに無理難題です。相沢さんも頭を捻っています。

「まあなんとか良いようにするよ。任せてくれ。参考までに君が好きなものとかあったら、教えておいてくれないかな?」

 私は興味のあるものをいくつか伝えました。本当に親切な方です。



 さてさて、霊験あらたかな相沢さんの御利益はいかに?なむなむ!

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