もう、目の濃いと言う


「ほら、そろそろ動かないと。あと1ヶ月したら成績の集計来るぞ」


「分かってるさ……」

クラスメイトのアオに僕の成績の心配をされた。

何もやる気が起きない、こんな気だるいんだ。だから放っておいてくれと言ったらそんなんだからときっとまたお小言が始まる。


それなら何も言わず受け流していた方が楽だ。

頬杖をつきながらボーッと校舎の窓を眺める。

あ、今下級魔族が群れをなして飛んでった。


「ったく、前回は落第寸前で何とかなったものの今回はそうは行かんかもしれんのだぞ」

「分かってるよ」

チラリと彼を見ると少し怒った顔をしていた。僕のとは対照的に、彼の羽根はバサバサと音をたてながら動いている。

それほどまでに僕のことを心配してくれているという訳か。


「……わかった、明日人間界に堕りるよ」

「言ったな?悪魔同士に嘘はないからな?」

「あぁ、本気だ。本気。」

全く、大丈夫なのかと呟くアオを尻目に窓から見える沼を見る。あ、人間が1人沈んだ。


「俺もついて行ってやりたいのは山々だが、もう既に人間の魂は手に入っているのでな。人間界には堕りられん。」

そうか、もうアオは既に進級課題をクリアしているのか。

「お前ぐらいじゃないのか?堕りずにここでただ沈んでいく人間や焼かれていく人間を見ているのは」

「……確かに、この教室も僕とアオしか居ないや」

言われてみて辺りを見渡すと綺麗に並べられた机に汚れのない黒板、何より静かだった。


「本当なら今すぐにでも叩き堕としたい所だがそんな事をすればお前の親父さんに追いかけ回されちまうからな」

……

「すまない、あまり親父の話は……」

「あぁ、そうだったな。すまんすまん」

少し言い過ぎたと彼は悪そうにしていた。


「ま、お詫びにアドバイスしとくさ。人間の女ほどヤりやすいものは無いから狙うといい。」

じゃ、上手くやれよと言って先程まで僕が眺めていた窓から彼は羽根を大きく広げ出ていった。


「人間の女、か。」

度々、社会見学と称して人間界へは赴いたことがある。

初めて見るものは新鮮だった。

キラキラと光り高くそびえ立つ石と鉄の建物、金属の塊を人間が操作し地面を這いずり回る。それから地獄とは違う水の色。


人間以外は、美しかった。


彼らは美しくない、

利己的で狡賢く騙し合う。平和を謳いながら醜く争い殺し合う。彼らの方が悪魔と言う言葉はきっと似合っているだろう。


彼らの世界へ降り立つ度に失望する。

あれほどまで期待していたものはなんだったのか。なんのためにこの学校へ入り学んだのか。

確かにあったモノは欠乏していくばかりだった。

今更行ったって何が楽しいのか分からない……。


「明日、か。」

憂鬱だった。あんな所へ行かなければならないのかと。

必死に手を上へ伸ばしながら焼かれていく人間を見ながらため息をついた。

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からから短編 カラカラとる子 @karakaratoruko11

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