3体のスライムたち

 木の扉から現れる魔物の侵攻という試練を2度クリアした迷宮核。

 2度目の戦闘後の処理も終わり次の試練に向けて、魔物を増やすべく魔素を生成していた。


 その間前回の戦闘を生き残り、新たに力を得た3体のスライムたちは、水属性と土属性を得たことにより、青と茶の斑模様となっている。

 そんな3体のスライムは、自分たちに都合の良い戦場を作り出すべく、部屋の中で活動をしていた。

 活動場所となったのは迷宮核と扉の間の中央寄りだ。

 そこには土と水を混ぜ泥が配置されることになった。

 これで、水操作または土操作のどちらかを使用するだけで、水属性と土属性の遠距離攻撃が可能になった。

 ただし、欠点もある。

 作り出されスキルの影響下にない泥は相手にも使用されてしまうというものだが、これは扉側の25メートルに泥を配置しないことによって対応している。

 戦闘行為によって泥を打ち出せば相手にも使えるようにはなる、だが、初動では使用は出来ないため、やらないよりはましだろうという事で、この様な判断を迷宮核は下し実行させている。

 そんな次の侵攻に向けて準備をしている最中に木の扉が開き、5体のスライムたちが姿を現した。


 前回に比べて、進行の間隔が短い。

 今後はこの速さで繰り返されるのか?

 こちらのスライムは融合によって強化されているが、問題は相手の戦力だ。


 3体のスライムたちは迷宮核の指示に従い急ぎ集合して縦隊の陣形をとる。

 対して相手の水色のスライムたちは前回同様横一列になって移動を始めた。


 水色のスライム、スモールスライムだろう。

 これは遠距離攻撃で一方的に蹂躙できるか?


 迷宮核が今までと同じように5体の身の侵入と思い、今の成長した3体のスライムであれば容易に対処可能だと思っていると、開いた扉からスライムが1体1体と侵入してきていた。


 これは・・・、戦力の随時投入?

 1体ずつ増えて行くだけなら対処は可能か?


 迷宮核はスライムへと指示を出す。この部屋に敵スライムが溜まらないように迅速に排除せよと。

 それを受け3体のスライムたちは進軍を進めスライムへと接敵する。

 最初に入ってきたスライムたちは予想通りスモールスライムで、こちらは一方的に遠距離からの攻撃で撃破が出来た。

 ただ問題はその後に侵入してきたスライムであった。

 順次侵入をしてきたスライムは自身の前に侵入したスライムたちを吸収しだしたのだ。

 これに焦りを憶えた迷宮核。


 まずい、個体の強さで優位を保てなくなる。


 迷宮核は新たに出現し成長を果たしているスライムの撃破を命じつつも、さらに前へと前進する指示を出し、相手スライムが吸収を行う前にこちらで吸収するように指示を出した。

 この前進する際は出来る限り敵のスライムを倒さないように、行動の疎外程度の攻撃頻度に抑えるように指示も出している。

 これにより、個体能力の強化は抑えることに成功するものの、敵スライムの個体数が増えていく事になる。


 非常に良くない状況だ。

 倒しても、倒さなくてもこちらに不利な状況になっていく。


 そうこの順次戦力投下は、迷宮核にとって致命ともなりうる相手側の作戦であった。

 通常であれば戦力の逐次投入は下策となりうるものだろう。

 ただ、今回投入されたのは死体は吸収することが可能な魔物であるスライムであった。

 敵を倒せば個体の強さが強まり、それを防ぐように動けば敵スライムの投入数が増えて行ってしまうというもの。

 敵方は、自身の戦力強化に係る時間を得つつ、迷宮核側へとプレッシャーをかけることに成功した。


 問題はここから対応できるかどうかですね。


 木の扉から進行してきていたスライムの総数は、10を超え今なお増え続けている。たいして、こちらのスライムはまだ前進中で、相手のスライム吸収を防ぎつつ自身がスライム吸収を防げる距離まで達していなかった。

 だが、迷宮核側のスライムが吸収を行える距離まで近づいたとして、吸収ができる余裕を相手が与えてくれないのは明白であろう。


 こちらは、ヒットアンドアウェイに徹して、各自に敵を減らしつつ吸収を防ぎこちらの戦力強化を狙うしかないか。

 スライムたちよ、均衡がこちらに優位な状況になるまでは、緊張を強いられる状況が続くと思われるが、逆言えばこれはチャンスでもある。

 確実に敵を1体ずつ屠り、自らの糧にして強くなるのだ!


 迷宮スライムは3体のスライムへと念話で激を飛ばす。


 そうこうする内に、スライムは近接戦が可能な距離まで近づいた。

 この間敵スライム陣営は陣地を構築に専念、土を生み出し水をかけた後、今回の侵攻で初めて目にする赤いスライムがその泥に近づき乾燥させていた。

 簡易の防壁を作り上げていたのだ。

 強度自体は大したことが無いものの、迷宮核側の攻撃は確実に減衰させることが出来るだろう。

 また、簡易故に補修も容易であることが予想されるため、相手の領域で陣地を構築しようとした場合に於いて、初動での防壁構築としては十分な効果を発揮することになった。

 この泥を固められた防壁だが、僅かに開いている気の扉の隙間部分を中心として構築され半円の形に配されている。

 今もって泥は、ウォーター&ソイルのスモールスライムによって補充されており、赤色の熱を生み出すホットスライムにより乾燥が行われている。

 そんな防壁の一角ホットスライムが壁の上にいる所の壁を標的として、迷宮核側の3体のスライムは作戦行動を開始させていた。

 まずは、水により壁の強度の低下を狙いつつ打撃力を期待して、勢いよく水を射出する。

 そして2撃目で土の塊を射出、水により半ば泥の状態に戻ったうえに、衝撃によって形が崩れている壁に土の塊が当たり壁は崩れていく。

 その壁の上に居たホットスライムは壁の崩壊に巻き込まれ、壁だった残骸と共に転げ落ちていく。

 そこに近づいていくのは先頭のスライムだ。

 触手を使いホットスライムを巻き取ると離脱を開始。後続の2体のスライムはこれを援護する。

 しかし、これを阻止するべく陣地内から多数の土や水の塊が打ち出されていた。

 中には泥の塊もあったが、壁の内側という事で放物線を描いているそれらの命中率はかなり低いようだ。

 壊された壁から直線的に飛んでくる攻撃のみを2体のスライムは迎撃する。陣地内のスライムたちは数こそ多いが効果的な反撃が出来ずにいた。

 壁によって攻めずらい環境ではあるが、逆に言えば外側に攻撃がしにくい状況になっているようだ。

 そんな状況も手伝い、壁から離れ遠距離攻撃が届かない範囲まで離脱に成功すると、捕縛したホットスライムを3体がかりで迅速に処理した。

 今回触手にかけたスライムは新種だった為、迷宮核への供物としてその場に放置し、次なる獲物を狩るべくすぐさま取って返し進行側の体制が整いきる前に更なる攻撃を加えていく3体のスライムたちであった。

 そんな、戦闘最中放置されたスライム体は魔素に分解され、迷宮核へと吸収され新たにホットスライの創造が可能になった。


―――

スモールホットスライム

保有魔素量100


スキル

魔素吸収

熱精製

熱保存

熱放出

スライム融合

―――


 新しく創造出来るようになったスモールホットスライムの能力は、周囲の魔素を吸収し熱を生み出し自身の身体に保存する能力と、保存した熱を放出する能力だ。

 この力は今はまだ使い道が少ないものではあるが、保有魔素量が増大し生み出せる魔素量及び保存できる熱量が増えた時に真価を発揮するだろう。

 だが今は泥を乾かす程度の熱量しか出せないようだ。


 さて、こうして迷宮側の攻勢が始まった中、迷宮核は休まずに魔素を作り出している、木の扉を通り増え続けるスライムほどの速さは期待できないが、新たにスライムを創造するためにだ。

 今回創造するのはソイルスライムで、現状では3体のスライムたちへ遠距離攻撃用の土を補充するのが目的となる。

 これら新しく生み出す土や水の精製には魔素が使用されている。同時にスライムの数を揃えたい迷宮核としては、中々に焦れる状況が続いているが、迷宮核も新たに創造できる種族が増えるたびに、その球体に内包できる魔素量の上限は徐々に上がり、それに伴ない能力の強化が為されている。

 これにより供給できる魔素量は増えているのだが、やはり同時進行にスライムの創造と、攻撃に使うための土を生み出すには力不足が否めない。

 材料となる3原子は空間に貯まりつつあるが、それを取り込むことが出来ず、自らが発生させている3原子のみを糧に生み出している現状、どうしもて近い将来能力の増大だけでは頭打ちが来るだろうことが予想される。

 そんな、状況に焦りを抱きながらも、迷宮核は今できることを着実に熟していた。


 一方防壁を構築したスライムたちへとヒットアンドアウェイを繰り返している。

 現在の戦果は4体になっている。1体目は迷宮核へと捧げらたが、それ以降は各スライムが1体づつ吸収をしている。

 徐々にではあるが数の差を個体の強さで圧倒する作戦が進行していっている。

 しかしながら、敵スライムたちもただその状況を見ているだけではなかった。

 何度かの構成により防壁の何カ所かが崩れている、この崩れた個所をカバーする形でやや壁の内側に新たに壁を構築していた。

 また、壁の内側のスライムの量は迷宮核側の攻撃で減らされてはいるが、それ以上の速さで木の扉から補充が行われている為数自体は増えている。

 ただし、個体能力差は徐々に開き始めていた。


 幾度も幾度も迷宮側の攻撃を受けた泥の壁はいたる所を崩し、崩れた壁は時に修復され、時に新たに内側に壁を設けられている。

 ちぐはぐな防壁がまるでサメの歯のように幾枚も並んだようになっていた。

 そのまるで迷路のようになってしまった防壁の内側にはスライムたちがひしめき合い今もなお防壁の構築をするために蠢いていた。

 対して迷宮核側のスライムたちは現在6体にまで数を増やしていた。

 攻撃を担当している3体のスライムとそれを支援する為に創造された3体だ。

 支援スライムたちはそれぞれソイル・ウォーター・ホットの3種で、この3体のスライムたちは遠距離攻撃用の土と水を確保しつつ、橋頭保として簡易陣地を気付き上げていた。

 半円の防壁は攻撃を担当するスライムたちが、獲物として敵スライムを確保して吸収する際、敵からの圧力を受けずに円滑に力を得るために作られたものだ。

 現状スライム吸収は攻撃を担当している3体に集中させている。

 現在のスモールトリプルエレメントスライムたちの保有魔素量は2,000に到達していた。

 名称が変わっていることから察してもらえるように、この3体のスライムはスモールホットスライムを吸収して新たな能力、熱のスキルを3種獲得している。

 内包する魔素量も増大している為、体内の魔素の割り振りによっては相当の熱量を宿すことも出来るようになっていた。

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