第231話 継承されしデーモンキング

 なぜ世の中はここまで理不尽なのか。

 どうしてこうも上手くいかないのか。

 俺達は……どこまで世の中の流れに振り回され付き合わされなければならないのか。俺はどこにも当てることの出来ない怒りを必死に堪える。


「ロイスが処刑されるって……何故だ! もう彼は魔王じゃ無い! ロイスに取り憑いていた魔王……いや、悪魔は俺が葬り去った!」


 俺は騎士団長……いや、彼女達の言動からルドの父親。

 ……ということは、ネバ王国二大貴族である盾の貴族の当主なのか?

 俺の言葉に騎士団長は答える。


『……ルドラーから聞いていたのか。ならば誤魔化しはきかんな』


 団長は改めて話し始める。


『彼、勇者ロイスは魔王討伐後に暴走し。他国での有力な魔法使いを次々と襲撃している』


 皆が団長に注目するが構うこと無く続ける。


『これは勇者ロイスの魔王化であると各国で判断され五代目魔王の誕生ではないかと徐々に騒ぎとなっているのだ。勇者の紀伝を出版し印象緩和を試みたが、完全な払拭には至っていない』


 あのシャルが書いた本にはそんな意味合いあったのか。なら尚更、自分の思想を入れないでもっと反感のないように書けよと言いたい。


『勇者ロイスが我が国の……剣の貴族の長男であることが各国の重鎮達には知られており、何より魔王討伐の旅における功績を彼等一行は多く上げている』

「なら、どうしてロイスを処刑するという話になるのですか」


 俺は口を挟む。


「ロイスは数年前の旅で、恐らく人助けなんかもしてきただろ。きっと彼の事だから国を一つ助けるような貢献をしてきたと思う」


 例の本は読んでいないが、彼の性格的にそれぐらいのことはしていそうだと憶測で話してしまう。

 だが、きっと彼なら人助けをやっているという信頼が俺にはあった。


「それに何より、命がけの旅の果てに魔王を倒したんだぞ。この世界を……救った勇者にする仕打ちがそれなのか!」


 俺は団長に思わず怒りをぶつけてしまう。

 ……だが、たとえ魔王に洗脳され操られていたとしても、重軽傷者が出ているのを考えれば、ロイスがやったことに対しての処罰があって当然だと思う。



 ――カチッ



 頭の中が冷静になってきた。

 まず、この騎士団長に文句を言ったところで彼の処刑は逃れられない。

 ……そうしたら、やれることは二つある。

 だが、その内の一つは自爆行為でやりたくはない。

 しかし……可能性として残しておかなくては……


「ロイスは魔王に洗脳されていたんだ。そして、それは今さっき俺が解いたんだ。俺が魔王を倒した」

『……ん?』


 まずは魔王が取り憑いて暴走していたこと。そしてその魔王を完全消滅させたことを立証する。

 有り難いことに騎士団長は俺の話に耳を傾けてくれた。

 ルドの父親と言っていたが、彼女と違い話を聞いてくれることがわかった。


「俺の名前はイット。少しぐらい話は聞いたことがあるかもしれませんが、俺は彼と同じ転生者で、大天使サナエルの加護を与えられここにいます」

『イット……ほぉ、君が噂に聞く二人目の勇者か。娘からも話は聞いている』


 ルドから俺の話を聞いたというのが気になるが、気にせず話を進める。


「ええ、今回ロイスが暴走した原因は4代目魔王の討伐時に乗り移られた事が原因だと突き詰めた。そして、今さっきロイスに乗り移っていた魔王を消滅させた」

『……その言葉は信頼に値するのか?』


 騎士団長の質問に俺は頷く。


「はい、大天使サナエルが直接その光景を見ています。天国に報告すると言っていました。聖職者の事はそこまで詳しくないのですが、司祭階級の聖職者ならお告げみたいな物で聞けるんじゃないですか?」


 俺がそう言うと、ロイスの手当をしていたソマリが手を上げる。


「はいはーい。イット君の話していた事を実行するのは可能です! 大天使に質問すれば答えてくれる内容なので魔王が討伐されたかどうかは確認する事ができます!」

「右に同じく」


 ソマリの言葉にベノムも加勢してくれる。サナエル教の聖職者とガブリエル教の司祭が頷いているのだから俺の言葉の信憑性は高くなるはずだ。


『なるほど、君が本当に魔王を倒したかどうか、ロイスが洗脳されていたかが客観的にわかると……それなら多少の免罪は出来るかもしれん』

「それじゃあ……」

『だが、各国の魔法使いを奇襲した事実は変わらない。国内の出来事ならまだ揉み消すことが考えられるかもしれない。問題は我が国と良好な関係とは言えない他国でも被害が出ているのだ』


 やはりそうだよな。

 魔王を倒したからって、過去の被害者の傷が癒える訳では無い。

 それが他国ともなれば魔王を産み出してしまったネバ王国が言及されるのは普通に考えられる。

 ロイスが如何に他国で活躍し、世界を救った勇者だったとしても、よく思わない者やそれを政治的に利用しようとする者もいる。


『……ロイスの血筋である、剣の貴族の当主も覚悟を決めている。他国への不信感が拡大する前にケジメを付けなければならないと』


 剣の一族の当主……

 ロイスの父親か母親か。

 確かロイスに溺愛していると聞いた気がする。


『戦争を起こさぬ為にも、国民を守り安心させる為にも、血族の不祥事の責任を取ると……すでに準備を進めている』


 この世界は情報が俺達の時代よりも制限されている。

 だからこそ口伝いに噂は着色され、悪い尾びれが必ず着いてくる。

 魔王を倒し平和になったことと、洗脳されたロイスがやったことは、罪の内容が違うということだ。


「……」


 それにしても、少し息を詰まらせながら騎士団長は語ってくれた。

 ……わからない。

 わからないのだが。

 どうして、俺にそこまで教えてくれるのか?

 単にこの騎士団長がお喋り好きだったとしても、王政の事情を話しすぎな気がする。そして、剣の貴族が始末を付ける話なのにどうして盾の貴族がロイスを回収しにきた。

 ……ロイスとルドの関係を考えると単純に剣と盾の貴族同士関係は良好である可能性がある。

 ロイスとの旅にルドを同伴を許可したことも、男女の関係で何が起こってもおかしくないであろう事に許可をしたと考えればあり得る考えだ。

 この騎士団長も、本当はロイスを助けたいと思っているのでは?

 ……それにかけてみてもいいのか?

 やりたくなかった方法が噛み合う。

 これを話せば、間違いなく俺は普通の生活を送れなくなる。

 俺だけでは無く、コハルも、ウィルも、サニーも……

 家族全員がだ。

 だが……ロイスを救える可能性は……これしか……思いつかない。

 ……言ってみるしか無い。


「騎士団長」

『……なにかな?』

「もし……ロイスが誰も傷つけていなかったとしたら……処刑は回避できるのか」

『ん?』


 彼は俺の言葉に反応する。


「例えば、ロイスへ嫉妬する奴が彼に成りすまして各国の魔法使いを攻撃していた……理由は単純。彼が魔王化し、勇者となったロイスを失墜させる為だ」

『君は……何を言っているんだ?』

「もし……それが事実として起き変われたなら、ロイスは誰も傷つけておらず、魔王化もしなかった事に話をすり替えることが出来るだろ? 更に、ロイスへ嫉妬したソイツが魔王だったって話にだって無理矢理こじつければ出来る」

『……』


 フルフェイスの団長は無言になりこちらを見つめる。

 たぶん、察してくれたのだと思う。


「置き換わるのに適任な人材が都合良く一人いる。丁度世の中に卑怯者として彼の紀伝に書かれた最初の仲間で裏切り者になっている人物が……」

『……君、本気で言ってるのか?』


 ああ、残念ながら一瞬でその筋書きを考えついてしまった。

 話の筋は通っているとは思う。


「俺が……卑怯者で強姦魔のもう一人の勇者であるロイスの劣化の能力であるイットが……彼への逆恨みで罪を着せたと尾びれを作れば、真実を隠すことが出来る」


 俺は自分を親指でさした。


「俺ほど彼を救うために悪役へ仕立て上げられる適任が、どこに居るんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る