第229話 自分が決めたレゾンデートル
「身体の弱かった僕は、ただ人並みに遊びたかった。友達がほしかった。皆の持ってる普通がほしかった!」
ロイスが話している間に俺は
「
「
俺の魔法に合わせていなされる。
「もう一度もらったこの命を! 今度こそちゃんと使いたいんだよ! 全力でぶつかりたいんだよ! 人生を!」
ロイスが魔法を展開する。
俺も彼に合わせる。
「「
互いに巨大な黒い螺旋のドリルを出現させ、周囲のエネルギーを吸収しながら巨大で鋭利なエネルギー同士をぶつけ合わせる。
「くっ!!」
「うっ!!」
凄まじい火花と耳をつんざく音が重なり、凄まじい衝撃波が二人を襲う。
「なら、なんで壊すんだよ」
俺はドリルをより前へ突き出す。
「この世界が偽物だとか、ゲームの世界だとか、世界の人達がプログラムだとか……全部それが本当だったしても、だからって何で壊すんだよ」
俺は鍛冶用の手袋を装着する。
更にドリルを前に突き出し押しつけると、徐々にエネルギーの崩壊が始まる。
「壊したら遊ぶことだって出来ない! 多くの人々も傷つき、何も無い虚しい世界が残るだけだ。俺達がそれを壊したら……意味なんかないだろ!」
二つの黒いドリルが崩壊し虹色のエネルギーが溢れ出る。俺はすかさず魔法を展開する。
「
両手の手袋から爆炎が湧き上がる。
黄色く輝く両手を広げ、ロイスへ接近する。
「ここが本物でも偽物でも関係ない! 俺達はこの世界に来た! 異世界に転生した! 自分の人生をやり直せる機会をもらった! 多くの人達に、俺達を認めてくれる人達に出会わせてくれたんだ!」
「くっ……
ロイスはいくつもの雷の槍を作りだしガトリングのように射出する。
それ避け、いなし、擦る程度は無視し、俺は接近した。
更にロイスは
俺は強く地面を蹴り一歩跳躍した。
「
「うおおおおおお!!」
自分の運動神経の限界に到達する。
今までの戦闘やコハルからボコボコにされ、それでも魔法とは関係ない身体能力の訓練と経験が俺の身体を前へと飛ばしてくれた。
そして――
「ッ!?」
発動しようと完成した魔法元素を握るロイスの手を俺は掴み。
「この世界への、感謝の気持ちを忘れるな! ロイス!」
彼の手事、魔法元素を握り潰した。
「ぐっうわああああああ!!」
強く握られたどころか手を焼かれる壮絶な痛みにロイスは叫ぶ。
『偉大なる祖よ!! 万物の理を押しのけよ!!』
彼の切羽詰まる必死な祈りで、後ろか光の手が現れる。
俺も祈る。
『偉大なる祖よ! 万物の理を押しのけよ!』
光の手を召喚する。
だが腕の太さが圧倒的に違う。
ここで信仰力の高さが出てしまう。
ロイスの大きな光の腕が俺自身へ掴み掛かるが、俺もそれを阻止する。
俺の産み出した光の腕で盾にし妨害するが、奇跡の大きさが違う。
このままではへし折られて突破されてしまう。
「この戦いが終わったら一緒に遊ぶぞ!」
「ッ!?」
「魔王を倒したからなんだ。死んだら現実に戻るかもしれないとか関係ない」
俺は手を焼かれ冷や汗を垂らすロイスと目を合わす。
「俺達の役目は終わった。だからこれからは……これからの人生は、俺達で決めて良いんだ。やりたい事を! 自分で決めて良いんだ!」
「イット……君……」
「だから決めさせるな……こんな理不尽のいいなりになって……自分の先を決めさせるな! 俺達の運命を……存在価値を決めさせるな!」
俺は掴まれた光の手を動かし、第三の腕となった俺の奇跡の腕から
「イット君!! 僕も君とまた……一緒に!!」
「ああ! 人はどこからだってやり直せるって!」
なんとか抑えられる奇跡を動かし
「俺達が! その証明になるんだ!」
第三の奇跡の腕を構える。
「
今にも壊れそうな奇跡の腕から混沌魔法を繰り出させた。紫色の炎をまとった黒い骨の両腕が現れる。
「ロイス頭を下げろ!」
「ッ!!」
俺の言葉に反応してロイスが頭を下げる。黒い腕が動き彼の背後に纏わり付く黒いモヤを掴んだ。
『グッ……』
くぐもった男の声が頭の中に響く。
魔王の声だ。
俺がそれを視認した時、動物の骨を模した巨大な紫色の頭も現れた。
奇跡の腕を動かし、高速展開された
「砕けろ!」
魔法はロイスの頭上。
黒いモヤへ噛みついた。
『グアアアアアア!!』
悲痛な叫びが脳へ直接響く。
俺はその声の元を消滅させるために強く腕に願う。
『くっ……ククク……』
苦しみながらも魔王の笑い声が響く。
『俺を殺しても無駄だ』
「負け惜しみを言うな!」
『負け惜しみじゃな』
魔法に食われる魔王は言う。
『悪魔はな……絶望の中に産まれるんだ……人間の中に産まれる
徐々に魔王は押しつぶされていく。
『感じるぞイット! お前の心の中にも、深淵は芽吹いている!』
「……」
『またお前の中でオレは芽吹く! 近いうちに! 必ず!』
「……させるか」
俺は静かに答える。
「俺の中にある暗い心も、醜い感情も、汚い考えも! 全部認める!」
俺は人として出来ていない。
生前もイットとして生きてきた時も。
ずっと迷い、心は弱いままだ。
だけど、
「それが俺だ。全部俺なんだ! 俺という存在で! 俺以外でしかない!」
俺は……二つの人生を歩ませてもらって、ようやく認めることができた。
「お前の付けいる隙はない!」
奇跡の腕を握る。
「俺は自分の弱さを認め続ける。それが俺で、そんな自分と戦い続ける! 誰でも無い自分の意思で……前に進み続けるんだ!!」
強く握りしめる。
『グガアアアアアア!!』
魔王の断末魔は地獄の業火に焼かれ消えていく。
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