第228話 僕と世界のロールプレイング

 2本の大きな黒刀の大魔剣が衝突しつばぜりあう。何度も打ち付け合うが、徐々に押されていくのを感じる。

 ここで剣術の才の違いが出始めた。


『接近出来たのは好機ですよ!』


 サナエルが語りかけてくる。


『あの黒い影を斬るのです! あれが魔王の本体! 斬れ斬れ斬れ斬れー!』

「うるせぇ! そうしたいんだよおおおおおお!」


 俺の焦りを見たロイスは笑う。


「はは、集中しなよイット君」

「ッ!!」


 そう言うと彼は大剣を振り回しながら奇跡を唱える。 


『偉大なる祖よ! 万物の打ち砕く鉄拳を授けよ!』


 彼の後ろから光る黄金の鉄拳が飛んでくる。


「クソッ!」


 音速の世界の影響からか低速に動く。しかし、それでも金属の塊が飛んでくることに変わりは無く、避けながら大剣を振るわなければならない。


「ロイス!」


 鉄の拳を避け続け、剣で払い、叩き切りしのぎ続ける。


「ようやくイット君と一対一になれたんだ」

「今日一日……ずっと、俺とのタイマンだっただろ」

「違うよ」


 ロイスの顔を見る。


「……」


 何か違和感がある。

 今までの邪悪な笑みでは無く、どこか自信に溢れた気高さを感じる目をしている。


「ロイ……ス?」

「わからないけど、ずっとモヤモヤした気持ちが、今は凄い晴れやかなんだ」

「お前……洗脳が解けたのか!?」


 と聞きつつ攻撃の手が全く止まらない。

 それにサナエルも反応する。


『ロイス! 正気に戻ったのですね!』

「はい、たぶん……でも完全ではないみたいです」


 ロイスは片手で魔法を放つ。


混沌牙弾カオス・ファング・ブラスト!」

「ッ!!」


 凄まじい速度で黒い線状の何かが不規則な動きでこちらへ向かってくる。


『偉大なる祖よ! 邪を写し汚れを祓う聖鏡を与えよ!』


 咄嗟に奇跡を使い聖鏡を召喚する。

 黒い線を上手く当てると動きが一瞬止まり、黒い蛇の頭が見えた。

 そのまま蛇はロイスの元へ飛んでいくが、ロイスが大剣を一振りし掻き消した。


「イット君と戦いたい衝動が止まりません。まだ魔王に取り憑かれているみたいです」

『ロイス! 友達同士で戦わせて申し訳ないのです!』

「サナエル様……」


 サナエルが謝った。


『私の上司からの指示とは言え、あまりにも酷い仕打ちだとわかっていました。そうならない事を祈ることしか出来なかったのです』


 本当に申し訳なさそうに彼女は謝る。

 最初に二人の勇者を転生させた理由に気づいた時、天使に不信感しか抱いていなかった。

 しょせんは俺達人間の事は道具ぐらいにしか思っていないのかと考えていた。

 でも、本当に申し訳なく思っているように聞こえる。

 だからって、全てを許せる訳ではないが……


「……謝らないでください。サナエル様」


 ロイスは優しい声色で返す。


「なんにせよ。僕はこの状況、

『え?』

「は?」


 俺とサナエルは耳を疑った。

 今のは魔王に言わされたのか?

 ロイスは続ける。


「不謹慎な発言だったよね。ごめん。でもイット君と戦いたいって気持ちは、魔王ではなく僕の中にあった意思だ」


 銀色の長髪をなびかせロイスは新しい魔法元素キューブを取り出す。


「イット君と本気の勝負をしたい。このロイスがいる世界ゲームを」


 魔法元素キューブを展開し始める。俺も遅れて展開を始めた。


「遊び尽くしたいんだ!!」

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