第227話 親友同士のファイナルゲーム

 音が遅延する。

 背景の動きがスローモーに移行する。

 俺達は同時に魔法を発動しサナエルが作り出したドームの中で、音速の世界へ到達した。

 俺とロイスの間に、両手を広げドームを作り続けるサナエルがいる。

 俺はだいたい察した。

 このドームは俺達を守るドームでは無い。俺達以外に被害を出させないようにするためのバリアーだ。

 音速動き、最大出力化された魔法を撃ち合っても良いようにしているのか。


『イット、聞こえますか?』

「え?」


 突然、ポケットに入れていた聖印が振動し脳内へ直接声が響く。


「サナエルなのか?」

『はい、聖印を通じて貴方の心に直接話しかけています。魔王が動きます! 気をつけて!』


 サナエルの言葉の最中に黒い人型のモヤが浮かぶロイスが動いた。


雷弾サンダー・ブラスト!」


 音速化したランス状の雷がサナエルを巻き込むようにこちらへ飛んでくる。


「サナエル!」

『大丈夫ですよイット!』


 すると、雷はサナエルを貫通する。

 だが、何の手応えもなくホログラムを通過するようにすり抜け俺に向かってくる。


「ッ!!」


 俺は射線上から身を翻し雷のランスを回避する。そのままランスはサナエルの作ったドームの壁に突き刺さる。


『この身体はかりそめなのです。外に人々にも被害はありません!』


 ということは事実上、俺とロイス……そして取り憑いた魔王のみ、ここにいるということか。


『周りの事は気にせず、ジャンジャン攻撃してください! イット!』

「……ああ!」


 俺は魔法元素キューブを展開する。

 ロイスも同時に展開を始めた。


炎弾ファイア・ブラスト!」

土弾グラン・ブラスト!」


 俺の手元から炎の斧が飛び、少し遅れてロイスの足下から黒く光るハンマーが飛ぶ。

 魔法は衝突し火花を大きく散らす。


拡散氷弾アイス・スプレッド!」

拡散炎弾ファイア・スプレッド!」


 氷の槍と炎の斧がドーム内を飛び交う。

 完全に魔法の押し付け合いだ。

 俺は広範囲攻撃を仕掛ける。


雷壁サンダー・ウォール!」


 まるでレーザーポインターの様な網目の壁をロイスとの間に形成する。高密度エネルギーのそれは小走り程度の速度で彼へと向かっていった。


『偉大なる祖よ! 邪を写し汚れを祓う聖鏡を与えよ!』


 ロイスが奇跡を唱えると、彼の縦横の四方に鏡が生成され額縁の様に配置される。レーザーポインターが通ると同時に鏡の囲いに入り込むと、レーザーの壁の穴を抜けるように悠々と回避してしまった。


『イット気をつけてください! ロイスの司祭階級を上げたという事は奇跡の力も強まっています!』

「そうだよな!」

『今のロイスは、世界最高位の司祭に等しいのです。心の昇華に伴い信仰力も上がっているので奇跡の打ち合いは避けてください!』


 それはベノムとの戦いで嫌というほど理解している。だから俺は補助的にしか奇跡は使うつもりがない。


『でも、だからこそ今が好機でもあります。さき程の話ですが、心を昇格することで人間の心は完璧に近づくのです』


 サナエルの声が頭に直接響く。


『魔王がもし心を乗っ取る能力があるなら、我々天使はそもそも心を昇格させる力を秘めているのです。より高見へ! 人間がより天使に近づかせ、悪しき心の無い清らかな心への昇格を!』


 俺は応答する余裕は無く魔法を展開を進める。


巨大岩石砲グラン・ビック・カノン!」


 岩の巨大大砲を出現させる。

 それを見計らったようにロイスも魔法を展開。


氷柱アイス・ピラー!」


 俺の足下に冷気を感じ急いで飛び退くと大砲事地面をえぐる氷の柱が生成される。大砲はそのまま破壊されてしまう。


二つの氷柱ダブル・アイス・ピラー!」


 俺が体勢を崩していると更にロイスは左右へ氷の柱を展開する。

 ドームの中が狭くなり俺と彼の距離が近くなる。


「「混沌大剣撃カオス・ギガ・ブレイド!」」

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