第225話 将器のグレートソーサラー

「敵襲! 氷爆弾アイス・ボム!」


 マチルダの声に皆が反応すると同時に、ロイスの剣を持つ腕が凍る。


「……」


 驚いた様子のロイス。

 当然だ。

 マチルダ向けた杖は彼のマントへ向けられていた。そこから魔法元素キューブを取り出し魔法展開する。

 ロイスの死角から唐突に魔法を出現させ的確に当ててしまったのだ。


「前衛追陣! 氷柱アイス・ピラー


 マチルダの号令と共に氷の柱が地面から突き出しロイスへ向かう。


「ウラァ! ぶっ殺す!」

「やあああああ!!」


 魔法に合わせて魔物達がロイスへ飛びかかる。

 彼がその場で飛び上がるとマチルダ足下から生成された氷を跳び越える。

 宙に浮いたロイスは逃げ道が無くなり、それを見定めていたように大斧と槍が迫る。


「しねやああああああ!!」

「……ッ!!」


 ミノタウロスの豪快な刃と息を殺し自身の筋肉をバネのように溜めて放った先端が襲いかかる。


「……」


 ロイスは無言で身体をひねるとコマのように空中で回った。何をどうやったのか火花を散らし斧と槍をすり抜け


「防陣!」


 マチルダが発声すると思わず身構えてしまう。そのままマチルダはソマリへ向く。


「ソマリさん、イットをお願いできる?」

「わ、わかりました!」


 ソマリは俺の傷を抑えてくれる。


「凄いねラミアの人、さっきから何をすれば良いのか感覚でわかっちゃう不思議な指示の仕方」

「ああ……たぶん、指揮術ってやつだ」


 俺もよくわかっていないが、戦いにおいて魔法適正や身体能力、知識などが評価されやすいが、時より指揮能力の有無が冒険者内の話で上がっていた。

 人徳、カリスマ性、声量、多言語理解、全く戦いに関係なさそうなというやつも実はパーティーの生存率を高める戦術として昇華される。 

 リーダーとしての素質を持った者。

 その者のみが扱える戦術。


「ウォングァ!!」

「……ッ!?」


 突然マチルダが野太い唸り声を上げると、ロジャースさんの嫁であるリザードウーマンが驚きつつ俺等の前へ躍り出て盾を構えていた。

 おそらく今のはドラゴン語で、指示を出したんだ。


「戦士追防陣! ブレイクンラペルセクション!」

『御意!』

「私もかよ!」


 更にマチルダが共通語と恐らくエルフ語でロジャースさんとベノムを呼び寄せる。


「……邪魔だ」


 氷の上を滑りながらロイスがこちらへ詰め寄るが、ワイドシールドを構えたリザードウーマンさんが進行を阻止する。

 盾へ剣を突き立て、火花を散らしロイスが上空に舞い乗り越えようした。

 そこへ噛み合ったようにロジャースさんが躍り出る。


『させん!』

「……ッ」


 乗り越えようとしたロイスの目の前に大剣を掲げ鉄の障壁を作り出す。

 それを踏み、更に高く彼は飛ぶ。


『偉大なる祖よ。邪を貫きし、煌々たる天の矢を授けよ!』


 ベノムが俺達より後方から奇跡の巨大槍をロイスに向けて撃ち放つ。

 それに対して至近距離だったにも関わらず彼は身を翻し火花を散らし、剣で去なしてしまった。

 だが、そのまま彼の手から剣が離れ回転しながら吹き飛ばされる。


「いくわよイット!」


 突然マチルダが俺を呼ぶ。

 しかし、驚かなかった。

 寧ろ心待ちにしていたぐらいだ。


「ああ!」


 マチルダが手元で魔法展開するのを見て俺も展開を始める。


「なめるな!」


 それを見たロイスも魔法元素キューブを取り出し高速で展開を始めた。

 しかし――彼の魔法元素は砕け散った。


「……ッ!?」


 砕け散る魔法元素に驚愕するロイス。

 目の前には、黒くて太い大蛇の尻尾が横切っていた。

 なんとマチルダが自身の長い尻尾を彼の死角から忍ばせ魔法元素を叩き壊したのだ。

 今度は彼女が魔法を展開する。


「イット!」

「いくぞ!」


 指示内容は正直わからない。

 だが、数十年ぶりに再開して、まだ何も話していないに等しいマチルダの言葉に自然と身体が動いた。

 もはやフィーリングの世界。

 感覚と直感がマチルダに合わせたいと言っているだけの……

 待ち望んでいた言葉だ。

 俺達は同時に魔法を発動する。


「「混沌大剣撃カオス・ギガ・ブレイド!!」」


 巨大な黒い刃が二つ同時に現れロイスへ斬りかかる。

 だが、彼も反応した。


『偉大なる祖よ! 万物の打ち砕く鉄拳を授けよ!』


 ロイスの後方から黄金に光る腕の形状をした太い金属の棒が10本ほど現れる。

 俺とマチルダのクロスで斬りかかった黒い刃達に向かい光る複数の腕が飛ぶ。

 刃の軌道へ腕が綺麗に整列すると、二つの混沌大剣撃カオス・ギガ・ブレイドを受け止め制止させた。

 思わずマチルダが奥歯を噛む。


「くッ……混沌系の上級魔法をこうも容易く……」

「……ッ!? マチルダ!」


 受け止められた魔法を押し込もうとした俺等だが、魔法を抑えていない光るの腕が2本こちらへ標準を定めていた。

 俺とマチルダ、二人に的を絞っているのがわかり放たれる。


「させなぁぁぁぁぁぁああああああい!!」


 その時、頭上からの怒号と共にコハルが飛来し光る腕2本をたたき落とした。

 土煙が晴れていく中でコハルは立ち上がり、いつもの自信満々な笑顔を見せた。


「コハル……ちゃん!?」

「久しぶりロイス! イットと一緒に助けにきたよ!」

「助けにって……」

「もちろん、ロイスの事をね!」

「……ッ!?」


 彼女の裏表無い一言に、彼は動揺した。

 そこへ、俺の身体の治療に専念していたソマリが作業を終えて、聖印を掲げた。

「偉大なる祖よ!」


 持っている聖印が輝く。

 皆の注目が集まり、お構いなくソマリは奇跡を発動させる。


「邪悪を打ち払う裁きの鉄槌を与えんことよ!」


 天が輝くと一線の光がロイスに向かって落ちる。


「くッ!!」


 さすがの彼も後方へ飛ぶ。

 彼の居たところへ光の柱が空から落下する。地響きで周囲が揺れるが、皆がそれに耐えると瞬きは消え、光が地面へ集約されていく。


「止めるのです。ロイス」


 光は徐々に翼の生えた少女の形をなしていく。

 その正体はソマリの放った奇跡の内容でわかった。

 俺は彼女の名前を呟く。


「……サナエル」


 尻餅をつくロイスの前。

 そして俺達の目の前に、この世界を見守る大天使サナエルが現れてくれた。

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