第224話 心からの感謝と反逆のリプレイン
後ろから押し寄せる風を切る音。
ダメだ。
疲労が限界を超えている。
肩に刺さる剣を握るが力が入らない。
眠気が押し寄せる。
「はははははは! 不意打ち作戦は成功だったみたいだね! もう君は逃げられない!」
勝ち誇ったように笑い飛ばすロイス。
ここまで来て、殺したはずのロイスの身体は復活させられ、魔王の思い通りになってしまったというわけか。
元々勝てる戦いかは怪しい所だった。
蜘蛛の糸をたぐり寄せるような無茶を通してここまできた……
「すまない……」
もう作が思い浮かばない。
肩に刺さった剣も、
「あははは! 良いね、無様だねイット君!」
魔王を振り払う力も、抗うだけの気力も残っていない。
皆の協力を得てしても、成し遂げられなかった。
「すまない、みんな……」
俺は悔しくて涙が溢れてくる。
「すまない……ロイス」
「……何泣いてるのイット君?」
銀色の長髪をなびかせ、俺を見下ろすロイスの顔。
いや……もう、コイツはロイスではない。
完全に乗っ取られてしまったんだ。
「助けてやれなくて……ごめんな……ロイス」
俺の涙が上へ昇りロイスの顔、頬を伝う。
「……は?」
「親友であるお前を救ってやれなかった……せめて、お前の尊厳を踏みにじるソイツを叩きのめして仇を取ってやりたかった」
「……」
「すまない……俺の力が足りなかった……俺の覚悟も……全部お前に背負わせてしまった事も……全部、謝りきれないぐらい今、後悔してる! せめて、ロイス……お前の横に並んで、また胸を張って立ちたかった」
救えないまま死ぬ後悔。
結局、俺は何も成し遂げられなかった。
俺は……ここで終わる。
「イット……君……」
ふと、ロイスが呟いた。
「……え」
「……」
俺が目を見開く。
状況は変わらず、俺はロイスに押さえつけられ地面に叩きつけられようとしている。
さっきまであざ笑っていたロイスの表情は変わり、無表情に俺を見つめている。
その刹那――
「確保!」
突然、空を落ちる俺達の横から茶色い陰が真上から猛スピードで突撃し、剣に刺さった俺の身体を綺麗に抜け出させいつの間にかロイスから解放されていた。
「……は?」
俺はいつの間にか屈強な身体に抱きしめられ、その正体を見ようと振り返る。
そこには屈強な男の身体に鷲の頭、そして背中に大きな翼の生えた鳥人間。
一瞬パニックになりそうだったが、その正体は知識として知っている。
「えっと……ガルーダ?」
先ほどの容姿通り、頭が鳥の人型魔物だ。ただ、言葉は通じるものの人間に敵対的な魔物である。
「あの……すみません、助かりました」
「ッチ、礼をするな人間。虫唾が走る」
ガルーダは舌打ちをしながら急降下する。どういう状況なのか理解しきれないでいると、ガルーダが話す。
「この高度で交代だ。ライカンの雌の回収へ向かう」
「え?」
そのままガルーダは俺を放した。
普通に自由落下する俺。
アイツはそもそも仲間だったのか?
なにはともあれ謎のラッキーで助かった?
しかし、このままでは結局落下死はま逃れない。
とにかく何とか魔法展開を――
「イットさん!」
「うお!?」
今度は緑や青の鮮やかな陰が俺を覆い、俺の肩を掴んだ。
そこには三体のハーピーが俺を掴みバサバサと空中で制止していた。
「間に合って良かった! コハルさんも救助されいるはずなので安心してくださいイットさん!」
ハキハキと話すハーピーだが、本来この子達も人間に敵対する魔物だ。それがまるで救助隊のように俺達を助けに来たかのような言い草だった。
「な、なあ! 君達はいったい?」
「応援で来ました! 詳しくは
やたら丁寧な言葉使いでそう言うと、ハーピー達は下降し始める。
「あと……」
俺を掴んでいる子が俺を見る。
「イットさん、私のママが昔お世話になりました! それをずっと伝えたくて」
「……ママ?」
言ってる意味がわからなかった。
ママ?
この子の母親のことだよな?
俺にハーピーの知り合いなんか――
・イットが死んじゃうでしょ!
・私達の生きがいが死んだらどうするの!
・イットちゃんも私に勇気をくれたんだよ!
・どんなに辛くて心が潰されそうになっても、私に話しかけてくれた。励ましてもくれたし、傷つけても許してくれたでしょ!
・私の好きな歌と同じだよ。心を込めた声は、誰かの心に届くの。
・イットの励ましてくれた気持ちは、ちゃんと私にと届いているんだよ。君にとっては些細なことだったとしても、凄く嬉しかったんだからね!
・イットちゃんが勇者で魔王の敵だとかどうでも良いよ! 私は私の命を……心を支えてくれた二人を助けたい!
カチッ――
あぁ……嘘だろ……
いる。
いたんだ。
知り合いがいる。
いや……知り合いなんてものじゃない。
「俺の……バカ野郎」
何で今まで忘れていたんだ。
でも…そんな……信じられない。
ハーピーが俺を木々が切り倒され開けた林の付近へ下ろしてくれた。
そこは先ほどまで冒険者達とベノム、そしてワーウルフ達と共にロイスを追い詰め、そして一掃されてしまった地点だった。
そして、そこには信じられない光景が広がっていった。
「ウラァしっかりしろ! チ○コついてんだから生き返れ人間!」
「
「りょ、了解です!」
見覚えのあるミノタウロスやケンタウロス……彼女等と共にソマリや他の聖職者達が傷つく冒険者達を介抱していた。
彼女等以外にも多くの魔物達が、彼等を狩る冒険者達を救出し蘇生処置を至る所で行っていた。
信じられない光景かもしれないが、そんなことをしそうな存在に俺は心当たりがあった。
俺は辺りを見渡すと、その人を見つける。
「……あ」
黒くて長い後ろ髪。
大きな杖を持ち、髪の下から恐ろしくも美しい大きく長い大蛇の尻尾が伸びている。
それは完全にラミアの後ろ姿だった。
彼女は周りの魔物に指示を出しつつ、血だらけになったベノムと何やら話している様子だった。
話している途中だろうが関係ない。
俺は肩の痛みなんか忘れてしまい、彼女へ近づき声を掛ける。
「……マチルダ?」
俺の師匠であり、俺の育ての母でもある……マチルダのはずだ。
声が出ていたかわからなかったが、俺の言葉に一瞬彼女は固まり、そしてゆっくりと振り向く。
「……ッ!」
無言で彼女は……マチルダは振り向いた。
彼女の顔を一気に思い出す。
俺の記憶の中にあった顔と全く同じ。
美人で、それでいて優しい顔だ。
マチルダを俺を見るなり一瞬涙ぐみながらも、さりげなく顔を隠してから再びその優しい笑顔を見せた。
「久しぶりね、元気にしてた?」
「マチルダ! どうして、ここに?」
「そんなの決まってるでしょ」
彼女がそう言った直後、彼女の背後からズドンッ! っと地面を大きな雷が落ち辺りを瞬かせる。
地面には先ほど俺を助けてくれたガルーダが倒れ伏せ、彼を踏みつけるようにマントをなびかせるロイスの姿があった。
マチルダが華麗に杖を回し、
「孫の顔を見に来たのよ」
髪をかき上げイタズラな笑みを浮かべながらロイスに……魔王に向かって構えた。
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