第223話 完全なるキャンセリング

「嘘……だろ」


 ドリルが徐々に砕かれ始め魔法が崩壊し出す。音速の世界で動いているはずなのに、なんてとんでもない破壊力の隕石なんだ。

 ドリルが破壊される前にもう一つ魔法を発動する。


混沌獣付加カオス・ビースト・エンチャント!」


 アンジュ達から授かったミスリルの盾に混沌系の上位付加魔法エンチャントをかける。ここで気を失う訳にはいかないので情報拡張エクステンド状態を解除し元の時間の進みへ戻した。


「コハル!」


 すぐさまコハルに声をかけると、感づいたように彼女は俺が構えるミスリルの盾の後ろから一緒に支えた。

 直後、盾から黒い粘液にも似た濃度の高いエネルギーが物凄い勢いで前面に噴出し一気に膨れ上がる。

 黒い粘液はすぐに形を変え無数の動物に似た巨大な頭に変貌し牙を剥く。

 直後、ドスンッ! という音と共に凄まじい力が俺達に腕へ伝わる。


「うわああああああ!!」


 俺達は抑える盾事一気に後ろへ押し込まれていく。凄まじい重力、空気圧が背中から押し寄せてくる。


「イット……」

「大丈夫だ……生きてるぞ!」


 コハルもこの圧力に耐え、盾を放さないよう互いにしがみ付いている。

 盾に付加魔法エンチャントさせた混沌の魔法は俺達と隕石の緩衝材となりつつ、無数の頭が隕石に食らいつきむさぼり喰らう。

 だが、徐々に隕石の圧力に耐えきれず、魔法が崩壊しかかってるのもわかる。


「魔法の相殺は無理だ……やるぞ、コハル!」

「うん!」


 何とかしがみ付き耐えるコハル。

 俺は崩壊した魔法の隙間から手を伸ばす。その隙間の先に茶色い岩の表面へ触れた。

 表面は恐らく高温で鉄板に肉を置いたようにジューと音を立てるが熱さをさほど感じなかった。

 俺は意識を集中すると、俺達の頭上付近に大きな魔法元素キューブが出現した。


 地球を解析しようとしたとき程ではないがサッカーボール程の大きさの魔法元素キューブで8×8の高難易度だが、やっぱり地球よりかマシに思える。

 だが、一発勝負。


「ぬああああああ!!」

「コハル!?」


 コハルは雄叫びを上げながら、なんと隕石に足を着け立ち上がる。ブーツにスパイクが着いているが、俺も立ち上がることが出来ないほどの圧力に屈しない気迫で魔法元素キューブにゆっくりと近づき彼女は前に立つ。


「イット! 指示を!」

「ああ!」


 俺は動かす位置を指示する。

 コハルは俺の指示を聞き的確に動かし揃えていく。昨日よりも精度も精密性も高く、俺達が一体化したようなそんな感覚。

 俺が考え。

 コハルが動く。

 俺達がいつもしてきた。

 俺達の戦い方だった。


「コハル、ラストだ!」


 最後の一列となり、コハルは手を上げる。


「サニーにウィル……そして皆を……」


 息を切らしながら、彼女の決意は身体を動かした。


「守るんだああああああ!!」


 腕を振り下ろし、最後の入り列が回る。 全面の色が揃い、俺は文献上誰も出来なかったとされる呪文を発声する。


魔法完全消滅マジック・キャンセリング!」


 混沌の付加魔法エンチャントが消滅しそうな時、青い線が隕石に沿って走り出す。すると隕石が青く光りまるで泡に飲まれるように溶けて消えていった。

 大きな青いドームと先に見える水平線。

 そこに俺達二人が自由落下する。

 それだけが、ここにある。


「……やった! 私達やったんだよね? イット!」

「……ああ!」


 喜ぶコハルに、俺も思わず笑みがこぼれる。

 俺達はやったんだ。

 禁忌の最上級魔法を止めた。

 王都ネバの脅威は去り、そしてロイスも止め……






「さすがだよイット君」







 身体の疲労感が押し寄せていたその時だった。

 俺の真上から銀色の閃光が落ちる。


「ッ!?」


 声にならない叫びと共に俺の肩へ剣が突き刺さり急速に落ちる。


「イットオオオォォォ……!?」


 コハルも遠く離れていく視界に、満面の笑みが映り込む。


紅焔の星落としファイア・メテオ・プロミネンスを消し去ったのか。やるじゃんイット君!」

「ロイス!!」


 俺達は地面に向かって落下していく。

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