第221話 理論上のパッシブル
隕石を消し飛ばす。
……もう一度方法が無いかを考えてみた時二つの方法が頭の中から出てきた。
それに気づいたコハルが話しかける。
「お! イット、また何か良いアイディアが浮かんだんでしょ?」
「あ、ああ……よくわかったな?」
「顔に出やすいからね! とりあえず、皆に話してみたら?」
コハルは俺の顔を覗き込む。
「出来るかどうか、皆で考えよ」
正直、皆で考えた時点で逃げる猶予は無くなる。ただ、逃げても間に合う可能性は高くない。
寧ろ……俺の命を犠牲にして止めた方が良いとまで思える。
「二つ……むちゃくちゃな考えがある」
俺は頭の中を整理しながら話す。
「一つは、
風の魔法で空を飛び、隕石の至近距離で
音速展開された最高練度の炎属性の魔法でも、
そして……
「二つ目は……文献で読んだ、理論上可能とされている……
「凄い、そんなのがあったんだ! じゃあ、その凄い魔法で解決だね!」
「発動条件は単純だ。魔法に触れて魔法から
「それ図書館で読んだことあります! コモン系魔法、そして最強の防御魔法になり得るされている現代魔法ギルド業界で開発が進んでる
「「「!?」」」
俺達が話している中、先ほど俺へ羨望の眼差しを向けていた10代の若いエルフ少年が突然話に割って入ってきた。
「いやー、やっぱり名高い魔法使いが話す内容は違うなー、未だにどの魔法使いも発動させたことのない魔法をやろうとしてるなんて、僕感激です! カード決済を作った功績は伊達じゃないですねイットさん!」
「あのー……君だれ?」
話の腰を折るエルフ少年の名を聞こうとした時、横にいた背の高い少女が彼の口を塞ぎ、背の低い恐らく聖職者のドワーフの少女が身体を押さえる。
リーダーと思われる剣士の少年が慌てて取り繕う。
「いや、すんません! 俺達ド田舎から来たもんでコイツ魔法オタクだから都会で有名人に会っちゃったから舞い上がっちゃったんです! お話中失礼しました!」
行くぞと剣士少年が指示する。すると女子達は頷きエルフ少年を二人で抱え上げて店から出て行く。
「イットさん! 僕、尊敬してます! 頑張ってください! 後でサインもください!」
最後の断末魔の様に彼の声が遠のいていく。
「イットって結構有名人だったんだね」
コハルは手を振って彼等を見送る。
すると、ガンテツさんが頷く。
「さっきの小童が言うていた通りならばイット、お前さんは隕石に突撃をすると言うことか?」
俺は頷く。
「どちらのプランにしろそうするしかない。逃げることが出来ないなら……せめて俺の命を犠牲にしてでも……」
「犠牲なんて言わないで」
そう言うと、コハルは俺の手を握る。
「私も着いていく! きっと昨日みたいに大きな
大きな
……そうか、地球を
確かに最大出力かした隕石だ。
規模感が大きく一人で解除できない可能性がある。
俺はガンテツさんの抱えるウィルとサニーを見る。二人は起きていておとなしくガンテツさんの髭を引っ張って遊んでいた。
「行ってこい」
俺の視線に気づいたのかガンテツさんが頷く。
「工房の弟子達、それにアンジュもいる。この子達はワシ等が責任を持って預かろう」
「ガンテツさん……」
アンジュもガンテツさんの側に立つ。
「その代わり死ぬんじゃ無いわよ! 死んだらこの子達が可愛そうでしょ!」
無茶を言ってくれると、思わず笑ってしまった。
しかし、そういうことだ。
尻尾を巻いて逃げてきたが、俺が出来る最善はこれしか無いのだと皆と話してわかった。
コハルを見るといつもの自信満々といったガッツポーズを見せてくる。
「イットにコハルよ。奥の棚に飾ってある人間用ドラゴンスケイルが2着ある。男用と女用ある。軽い上に耐熱性の右に出る物がない防具じゃ、それを着ていけ。アンジュよ。弟子達を呼んでコハルのサイズを合わしてやりなさい」
「了解! あと工房用の
「ガンテツさん……アンジュ……」
「遅くなったが出産祝いじゃ」
ガンテツ屋の奥からガンテツさんの弟子を志願した顔の知った従業員のメンツが、ドラゴンスケイル装着の手伝いをしてくれる。
白いドラゴンの鱗を人間型に加工された軽装の鎧を素早く装着される。飾ってあったをずーっと見ていたが、まさかこれを自分が着る事になるとは……
「軽い……見た目より全然動きやすい」
ゴツい見た目とは裏腹、コートを羽織っている程度にしか感じない重量。そして違和感の無い可動域に感動を漏らしてしまった。
「伝承じゃが、ドラゴンは岩喰らいとも言われていてな。地層や溶岩帯や地層深くに埋もれた鉱石、そして飛来した隕石などを好んで食すと言い伝えられておるそうじゃ。到底栄養に出来るとは思えんが、一説に自身の未知の物質で作られた鱗を成長させる為と言われておる。ドラゴンの鱗は軽量でかつ高硬度、耐熱性はおろか更に伸縮性も兼ね備えた……」
「そんな説明してる場合じゃないでしょお爺ちゃん!」
「ぬ……」
アンジュに止められたガンテツさんは、話したかった言わんばかりに顔をしかめた。アンジュが代わりに話し出す。
「高耐久に最軽量、そして耐熱に優れたウチにある中でも一級品の防具だけど油断しないで! コハルもサイズは合わせてるけど変態化して狼の姿になったら脱げちゃうから変身は無しよ!」
「わかった! ありがとうね皆!」
コハルの大きな胸のサイズにもしっかりと皆はあわせてくれた。お互いがドラゴンスケイルを装備したの確認した俺達は互いに頷く。
それを見たガンテツさんが一つ頷いた。
「お前達も成長したな。実に似合っておる」
ガンテツさんからもお墨付きをもらい俺達は店の外へ出た。
外へ出ると、昼間の快晴の空の中に一等星よりも強い輝きを放つ星が目視できる。俺は急いで魔法を展開する。
「
俺とコハルにレギンスに風魔法を付加する。俺は彼女の手を握って浮き方や飛び方のコツを軽く教える。
「へー良いじゃんこれ! イット、今までこんな楽しい魔法使ってたんだね! もっと遊んでおけば良かった」
さすが運動神経の良いコハルはすぐに空中移動のコツを掴む。浮き沈みや移動はもちろん、その場で回転したり安定した状態で蹴りの練習も始められる程だった。
「気をつけて二人共! これ、バックラーの代わりにミスリルの盾ね! あと軟膏はすぐ使えるようにガントレット用の容器に変えたから!」
アンジュから物品達を受け取り俺は見送りをしてくれる皆に向けて一つ頷く。
「絶対に皆を……家族を……この国を救ってくる!」
ダメかもしれない。
死ぬかもしれない。
失敗するかもしれない。
自然とそんな考えは出てこなかった。
たとえ無茶にも程がある作戦でも。
それをしなければ皆が死んでしまう。
蘇生だってされるかわからないほど、跡形に吹き飛ぶかもしれない。
だから、俺が何とかするんだ。
俺を支えてくれた皆の為に。
「がんばってイット! コハル!」
「ガンバレ二人とも!」
「お前達なら出来る!」
皆の声援を受け、俺達は空高く落ちる星へ向かって飛び立った。
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