第219話 エレクトリス水素爆発
光と熱が膨張していく。
「これは……」
身の危険を感じたのであろうロイスが逃げようと身体を動かした時を俺は狙う。
『偉大なる祖よ。歪みの理を示したまえ』
一つの光の十字架がロイスに突き刺さる。
「……ッ!」
身動きが取れないことを理解したらしく彼も動き出す。
俺は逃げ出さず、先端から熱と光を出すスタッフを突き出したまま半分切られたバックラーで顔を守るように構えた。
『偉大なる祖よ。歪みの理を示したまえ!』
ロイスも同じ奇跡の十字架をいくつも出現させ、過剰なまでに俺の身体へ突き刺す。
互いに逃げられない。
だが、それは覚悟の上だ。
「上等だああああああ!」
俺が叫ぶと同時に俺達の間に強烈な光と共に大爆発を引き起こした。
………
……
…
「はっ!?」
気がつくと、地面に転がっていた。
身体を動かそうとするが全く身体の感覚がない。
……
冷静になれ、身体がどうなっているかを考えても仕方が無い。
口さえ動かせれば……
『偉大なる祖よ……器を……直したまえ』
思った以上に声が出せなかったが、身体が徐々に修復していく。きっと身体がバラバラになっていた可能性もあるが頭を守っておいて本当に正解だった。
感覚が繋がり痛みが徐々に体中を駆け巡っていく。
「クッソ……」
身体が一通り戻り無理矢理身体を起こすと、木々や土の塊が宙を舞い無重力のように回転しつつ浮いている。
地面がクレーターのようにえぐれ、まさに爆発後の姿に変わろうとしている最中という状況。
きっと時間が遅いまま。
ここはまだ音速の世界だ。
音速の世界に耐えられるように防御力を上げいたいたが、それのおかげでこんなにも早く立て直す事が出来たのか?
「うっ……」
ロイスの呻き声が聞こえた。
俺はそちらへ近づくと、クレーターの土の上に埋もれ片腕が吹き飛ばされ黒焦げの彼と思わしき存在が横たわっていた。
「何を……した?」
俺の存在に気づいたのか、ロイスの口が動いた。
「……熱して打ち込んだ純度の高い鉄に螺旋状の電気を流しコイル化し磁石を作った」
俺は彼に近づく。
「氷の
近くにスタッフが落ちていたが爆発の威力で先端が壊れているのが見えた。
「目に見えないが磁石化した陰極に水素集まる性質がある。本来密閉空間で無ければ水素も酸素も分散してしまうが現実の世界よりも着火が早く行えた」
ロイスが持っていた折れた刀を拾い上げる。
「酸素の濃度も高まっているのを感じた。お前に気づかれないように水素爆発させることが出来たよ」
そう言いながら俺は刀を構える。
ロイスは呼吸をしながら奇跡を唱え始める。
『偉大なる……祖よ……器を……』
最後まで言わせる前に俺は刀をロイスの口の中に差し込んだ。ビクンと身体が反応した後に彼は動かなくなった。
殺した。
魔物や動物、時には人間も殺すこともあった。
だから馴れているはずだった。
手加減のやり方も学べるほどやってきた。
そして、あれだけ躊躇していたのに、俺は……
親友を殺してしまった。
「ッ!?」
悲しみが押し寄せる前に異変が起こる。ロイスの死体から黒いモヤが立ちこめ浮き上がってくる。ソイツは彼の上を跨がるように浮き上がり、彼の離れた腕と開いた口に触れて何かをしようとしている。
「……お前!!」
黒いモヤが魔王だと直感して怒りのあまり瞬時に魔法を発動させる。
「
着けていたグローブに黒いエネルギー体が覆い、混沌の力を付加する。グローブから鋭利な爪が生え、黒い影を掴み取る。
『グァッ!!』
脳内に直接呻き声が響いた。
間違いない。
この黒い影が魔王本体。
「ようやく会えたな、魔王」
『くっ……すげぇよお前……』
握る力を強めると、黒いモヤから焦げたような水蒸気は立ち上る。
『歴代最強のスペックを持ったロイスを等々を組んだとはいえ消耗させ、俺の挑発にも乗らず、何度も欺いてきやがって……』
「言い残すことはそれだけか?」
俺は陰を握りつぶすと悲鳴を上げて溶け始めた。
『ま、まだ……』
溶けていく黒い影は寸前までロイスの身体にへばりつく。
「もがくのはいい加減止めろ」
『ククク……何故お前よりロイスの回復が遅かったかわかるか?』
魔王は笑う。
『お前は思っていた以上に化け物だ。力の無いことを利用して、どこまで貪欲に人を欺こうとする嘘つき野郎だ』
「……ッ!?」
俺は気づく、ロイスのちぎれた腕と身体が細い黒い線で繋がっている。正体がわからないが恐らく魔王の身体の一部じゃないかと直感的に思えた。
『俺もお前を欺くことにしたんだ。お前が苦悶歪める顔を見たくてな!』
「う……あ、ああ……」
「ロイス!?」
息の根を止めたはずのロイスの口が動きだした。
「まさかお前! ロイスの死体を操作して!」
『正確にはお前が殺す前に
つまり後は呪文を言えば発動する。
俺は魔王を掴んでいない手で刀を構えるが、一歩遅かった。
「……
「おい!? その魔法は!?」
離れたロイスの手の平から赤い閃光が天へ向け放たれる。
空の先、強い光が瞬いた。
あの魔法はわかる。
俺とコハルがこの地球の解析を行い撃ち込まれた巨大な火球の魔法。
もしやとは思っていたが……
「やっぱり、あれは遠隔で隕石を落とす禁術だったのか……」
『そうだぜ! しかも音速で作られた最上級! 特大の奴を王都シバに撃ち込んでやった!』
シバに……
ということはまずい!
コハルにアンジュ達……そして子供達も!
『俺を殺してもいいけどそんな時間も無いだろ? だって、そろそろ身体の限界がきてるんだもんなぁ? イット君?』
「くっ……」
気づいたら口から血の味が流れ出ていた。
ああ……どれだけ気絶していたかわからないが、今の
このまま魔王を殺せたとしても……俺がまた倒れて時間の流れが進めば王都シバへ長距離射程の凶悪な破壊と火災を引き起こす隕石落としの魔法を……
止めるすべは……きっとない。
俺の大切な人達が……
「ああああああこのくそがあ!」
俺は怒りのあまり魔王を地面に叩きつけ靴に
「
風圧を纏い一気に飛び出す。
不快な笑い声を背に王都シバへ。
俺は皆の頑張りと命を無駄にして。
コハル達の避難をさせるために。
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