第218話 殲滅のソニックワールド

 彼の居た場所から凄まじい風圧が起きる。皆がその爆風に身をかがめていると、声が上がる。 


「お、おい、ロイス消え……」


 冒険者の一人が言葉を発し終える前に首が飛んだ。

 収まらない。

 銀色の閃光が周囲に広がる。

 俺は人体自動化改造オートマトン・カスタマイズを解除する。

 神経回路が正常な位置に戻り、纏っていた青い光の線が消えた。

 すると、俺の身体にバチンッ! と体中に強い電気が走ったような衝撃が襲った。


「ぐぁ!?」


 噛み殺していたが耐えられず、思わず声を漏らしてしまう痛みで気を失いそうになる。だが、問題なく元の身体に戻ることが出来た。


身体解析魔法ステータス・オープン!」


 そのまま魔法を展開し数字をイジる。


「イット!!」


 気を失いかけながら身体の情報ステータスを調整していると、俺を乗せたタウが呼びかけきて、そのまま木の間を三角飛びして上り詰める。

 俺達は宙を舞う。

 咄嗟に下を見ると、ベノムがソマリを庇うように前へ出ていたが彼女等の身体にも線が走り流血した。


「なるだけ、遠くへ離れろ!」


 タウが変身し、上半身裸で筋肉質な青年に姿を変える。


「タウ!」


 空中で俺の身体を放り投げた直後、タウの身体にも閃光が走った。


「がぁ!?」

「……!?」


 タウの身体が両断され吐血する。

 仲間の安否を考える暇が無い。

 俺は魔法を起動する。



身体の情報拡張ステータス・エクステンド!」



 周囲が急激に減速する。

 世界の音が遅く、そして低くなり音波が所狭しと揺らいでいた。しかし、そんなことなんてどうでも良くなる。


「やあ、イット君!」


 目の前に刀を振りかざすロイスの姿あった。俺はとっさにエレメンタルスタッフを構え氷の付加魔法エンチャントを起動する。


「へー、間に合ったんだ。さすがだよイット君。矢の撃墜にちょっと時間をかけちゃったかな?」

「……魔王!」


 スタッフから氷の刃が構成され、振り下ろされる刀を受け止めるが無論切り落とされる。そのまま吹き飛び、俺は地面に叩きつけられた。


「うっ!!」

「ようやくこれで一騎打ちが出来るね!」


 ロイスは嬉しそうに刀を振りかざして落下してくる。

 咄嗟に転がり斬撃を避ける。


土鉄付加グラン・メタル・エンチャント!」


 土から抽出された鉄分が瞬時にスタッフの先端へ吸着していき雷の付加魔法エンチャントを発動させる。

 鉄が規則的に向きを整え、スタッフの先端がアイスピックの様な鋭利さへと変わる。


「なんだいそれは? ランスかい?」


 ロイスの刀と打ち合わせる。

 鉄の破片が飛び散り火花を散らせる。


「燃えろ!」


 俺は雷を起動させながら炎付加魔法エンチャントを起動させる。


「そんななまくらで大丈夫なのかな?」


 炎の熱さにものともせず、俺へ斬りかかってくるロイス。俺は防戦一方だがそれで良い。そのまま雷の付加魔法エンチャントを解除し、風属性へと切り替えるとたちまち炎の火力が強まり鉄部分が熱を帯びて光り出す。


「うわ! 凄い、何をしようとしてるんだい?」


 俺に答える余裕はなく、そのまま熱された鉄板でロイスの攻撃を受け、片手で魔法を発動させる。


氷弾アイス・ブラスト!」


 飾剣のような見た目の氷塊がロイスに向かう。


炎弾ファイア・ブラスト


 ロイスも斧の形状をした炎の塊を氷にぶつけて打ち消す。そのまま俺に向かってきたのでスタッフの先端でいなした。


「くっ!」

「へー、魔法展開も高速化するから魔法の練度も高くなるんだね。吸血鬼の時はこうやって倒していたんだ」


 ロイスは感心しながらも更に魔法を放つ。


誘導拡散雷弾ホーミング・サンダー・スプレッド


 無数の雷の塊が彼の周りに作られるようとされる。


誘導拡散氷弾ホーミング・アイス・スプレッド!」


 ロイスの雷のランスを防ごうと遅れて魔法を展開し無数の氷の剣を作り互いに衝突させる。


「うっ!!」


 魔法同士がぶつかり合うが、ロイスの作り出した雷のランス2本が抜け出し、俺の太ももと腕に突き刺さる。

 身体を貫通された痛みと電撃の衝撃が駆け巡る。

 歯を食いしばり、最接近する。

 この空間で長期戦は出来ない。

 俺は纏わせていた炎を解除し氷と雷の付加魔法エンチャントを起動する。

 瞬間、熱された鉄が急激に冷やされ氷が蒸発し白い水蒸気が塊の様に膨張する。


「煙幕のつもりかい? 残念だけど水蒸気の発生より僕の方が速いよ!」


 彼が流れるように刀を降りかかる。

 一撃一撃が重く、水蒸気をまき散らしながら受け流していく。

 酸素が濃く徐々に目眩も感じ、空気がヒリついてきたのを感じた。


「そろそろか……」

「なんだい? そろそろ限界かい?」


 俺は刀を払い退け、電気を纏い水蒸気を放つスタッフを彼の眼前に突き出す。それをロイスは刀で受け止める。


「何故そこまで出来るんだい?」


 ロイスが突然訪ねる。


「そんなにボロボロになって、もう君一人しか居ない状況まで追い詰められて。自分より完全な上位互換に立ち向かうなんて、死に急ぎとしか思えない」

「……やらなきゃいけないって思ったからだ」


 俺は電撃で火花の散るスタッフに力を込める。


「ロイスを救えるのも、今この世界を救えるのも、家族を救えるのも、正直俺じゃなくても誰かが出来る。俺よりも優秀な奴なんてこの世界に沢山いて、お前みたいな魔王を倒すのに相応しい勇者なんて待っていればいつかは現れるんだ」


 俺は付加魔法エンチャントの出力を上げると、更に多くの吸う蒸気と火花が散り始める。


「なら、どうしてだい?」

「俺が……勇者になりたいからだ!」


 更に力を込める。


「何者にもなれなかった生前だった……だから俺は! イットとして! 誰かを助けられる存在として! もう一度立ち上がりたかったんだ!」


 絶対勝てない。

 解決策も無い。

 いつもの無茶と無謀な現実だ。

 でも、それでも俺は。

 今の俺は、前に一歩進むんだ。


「ここで俺がお前を止めなきゃ、一生後悔する! お前を救いに行けなかったことに! だから!」


 俺は氷を炎の付加魔法エンチャントに切り替えた。


「俺は前に出る! 沢山の後悔と向き合い、打ち勝つと為の勇気を!」


 すると、水蒸気の煙がゆっくりと眩しく光り出す。

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